金沢のイメージから連想しにくい観光施設,金沢蓄音器館。たぶん思うのは,金沢に蓄音器のメーカーか工場でもあったかな,ということでしょう。
そういうわけではなく,金沢で1914年(大正3年)から営業していたレコード店・ヤマチク(旧・山田屋蓄音器専門店)の経営者が集めた蓄音器とレコードのコレクションが母体。ここでも,金沢市が太平洋戦争で空襲を受けなかったことが効いています。
そのコレクションが金沢市に寄贈されてからの開館で,2001年の建築。色調を違えたレンガづくりの瀟洒なたたずまいです。
音楽はダウンロードかストリーミングが当然の世代には,蓄音器の説明も要りそう。蓄音器はレコード・プレーヤーの原型で,無電源のもの。ゼンマイ動力でレコードを回転させ,その溝に沿って動く針の振動を,ホーンによる拡声だけで聞いていたものです。時間を合わせて,実演を聴くと,無電源で音が聞こえることに感動します。
ひがし茶屋街にも近く,橋場町バス停下車徒歩約2分
アクセスは,ひがし茶屋街というより
蓄音器約150台の展示とSPレコードが
所蔵される蓄音器は,国産初期のものから約600台で,常設展示はうち約150台。ほかに,SPレコードが約2万枚ですが,それらは収蔵されていて,後に書く1日3回の聴き比べの時間に,その音が披露されます。
科博認定の重要科学技術史資料が3点
特筆ものとしては,国立科学博物館が認定している重要科学技術史資料(愛称:未来技術遺産)。それがここに3点あります。
うち1点は,国産初の蓄音器・ニッポノホン35号で,1910年(明治43年)日本蓄音器商会(現日本コロムビア)製。
このショットでは中段の右に位置している,花弁状のホーンのものです。下段左の蓄音器のホーンにほとんど隠れていますが,中段の真ん中に,青色のマークのある盾があります。それが,重要科学技術史資料の認定で,国立科学博物館から贈られたものです。
それとセットで認定されているのが,下のラッパ内蔵型蓄音器ユーホン1号で,1911年(明治44年)製。
こちらは,ホーンを箱の内部に収める小型化で,一般家庭への普及を目指したもののようです。
両方の蓄音器とも量産なのに,重要科学技術史資料として認定されたのは,この金沢蓄音器館収蔵のもの。収蔵に至る経緯が明確なことと,現状が原型のままという点などで,こちらが選ばれたのでしょう。認定に関する説明はこちら。
国産初期の蓄音器|国立科学博物館
フィルモンの再生機も重要科学技術史資料に
ほか2点の認定は,国産初のSPレコードと卓上型フィルモン/円盤兼用再生機。とくに後者は,1930年代に日本で独創されたメディア「フィルモン」の貴重な再生機です。
6分の収録が限度だったSPレコードに対し,13mのセルロイドのフィルムをエンドレスにし,らせん状に溝を刻んで,36分の収録を可能にしたもの。どう考えたらこうなるのかわからないほど変わった方法で,結果的には普及しなかったものの,技術史の1ページとしての認定です。
1日3回の聴き比べタイムがおすすめ
SPレコードは,針で溝が削れてしまうため,100回程度の再生で寿命が来る,儚いメディア。残念ながら,自由に聴けるものではなく,蓄音器ごとの聴き比べの時間が11,14,16時に設定されています。そのほか,自動再演ピアノが,日曜のみ10時30分,13時30分,15時30分の3公演。それが聴ける時間帯の入館がおすすめです。
Youtubeに演奏の一部収録を公開
実際の音を知りたい方のために,Youtubeにいくつかのファイルが。
デジタル音源になれた耳にとっては,ノイズとゆらぎのある別世界。それがかえって独特の心地よさを生んでいるような気もします。
隠れたおみやげにビクターの犬
ミュージアムショップで,HMVやビクターでおなじみの,蓄音器をのぞく犬・ニッパーの置物が売られています。
ホーンの中に亡き飼い主がいると思う故事は,当時の蓄音器の偉大さを伝えています。
入館料は300円,1日乗車券などで50円割引
入館料は大人300円,65歳以上200円,高校生以下は無料。50円割引となる対象として,北陸鉄道バスの1日乗車券(500円),いしかわ観光旅ぱすぽーとのほか,JAF会員,クラブオフ,福利厚生倶楽部,ベネフィットワンなどがあります。
16館回れるパスポートが1日券510円
蓄音器館のある橋場町交差点周辺は,さまざまな施設が集まっています。隣が泉鏡花記念館,斜め向かいの交差点角が金沢文芸館,路地を進むと,徒歩4分で寺島蔵人邸です。
逆方向へ向かうと,徒歩5分でひがし茶屋街の中心で,大通り沿いには安江金箔工芸館,徒歩6分で徳田秋聲記念館です。
これらは,21世紀美術館を除く市営の文化施設16館をすべて回れるパスポートで入れます。1日券510円,3日券820円,年間2050円です。
お隣の施設は過去記事に
とくにお隣は,柳宗理記念デザイン研究所(無料)と泉鏡花記念館(有料)で,この機会にあわせて回れます。
クレジットとSuicaなどが利用可
何度か書きましたが,金沢市営の主な観光施設では,入館料の支払いにクレジットやSuicaなどが利用できます。1日券からの共通パスポートの購入にも使えます。詳細は過去記事を。