北陸新幹線で行く,はじめての金沢

お庭,お菓子,お魚,お酒が揃う城下町をまわるため,金沢出身・東京在住者が往復しながらヒントを書いていきます。

金沢駅徒歩2分にハイアット・セントリック15階建250室が,2020年3月までに開業へ

金沢駅隣接市有地のホテル公募選考結果が公表

ホテル不足と言われる金沢で進められていた,駅前市有地の売却による外資系ホテル計画公募の選考結果が発表されました。

優先交渉権者等の決定(平成28年7月8日公表)金沢市

優先交渉権者はオリックスで,ブランドはハイアットの新しいブランド,ハイアット・セントリック金沢。規模は15階建250室と,市内のシティホテルでほぼ横並びの客室数通り*1。東京オリンピックの年である2020年の3月までを目途とした開業計画です。

ハイアットでは新しいブランドで国内2店目?

ハイアットセントリックは,パークハイアット,グランドハイアット,ハイアットリージェンシーなどに続く位置で,2015年に誕生したブランド。国内では2018年に開業する銀座が1店目で,まだ日本にないものです。「街の中心」がコンセプトで,それで名前がセントリック。

ホテル棟と別棟で17階建住居棟を建設

敷地内には別棟として,17階建のオークウッド・スイート&レジデンスが建設されます。うち109室はキッチンのあるホテル形式ともいえるサービスアパートメントとなり,他112室はレジデンスに。市有地を売却する今回の契約では,所有権のさらなる移転はできないので,レジデンス部分は,金沢駅に最も近い賃貸マンションになるはずです。

日経がオリックスの動向を1月に報道済み

オリックスがハイアット・セントリックを日本の地方都市で展開していくことは,2016年1月21日の日経で報じられていました。そこでは,都市名として金沢,鹿児島,広島,神戸(記事掲載順)が列挙されています。

国内1店目は,銀座・並木通りに建設される12階建164室。レストランはテラス席を設けたダイニング&バー1つに特化する中規模のホテルの性格です。一方で,外国人に受けるためには必須のジムを併設。レストランを絞り,ジムが入るのは金沢でも同じです。

場所は金沢港口タクシー乗り場横

場所は,金沢駅金沢港口すぐの市有地で,現在は金沢駅西暫定駐車場です。

隣には金沢港口タクシー乗り場。さらに,駅ビルRintoのタリーズ側出口の正面*2。徒歩では,駅の金沢港口から2分,新幹線改札から4分程度(緑のルート)と,最後の好立地のホテルになります。

ここまで持ちこたえた甲斐があった,市有地の暫定駐車場は,地下2階分300台の自走式駐車場に拡張され,駅西の土日の渋滞緩和にも多少は貢献しそうです。

2020年3月末までの開業が市有地売却の条件

金沢市のこの公募では,外国人旅行客の誘致が主眼で,東京オリンピックを念頭に2020年3月末までの開業が求められています。それは,募集要項にある契約書案に明記されていて,もし開業できなければ,土地を原状回復の上,金沢市が買い戻せる特約付き。この点は,デベロッパーにとっては最大のリスクで,公募に関する質問も集中していました。

それで,この種の公有地売却プロジェクトでたまに問題となる,土地の購入だけ済ませ,時期を見て建設することや,他用途に転換,他者に転売することは許されていません*3。そのため,2020年3月時点ではハイアット系列のホテルが完成しているか,万一の場合は市有地に戻っているかのどちらかになります。

20年はホテル事業継続の条件も

さらに,この契約では,提案通りのホテル事業を20年以上継続することが条件で,同一ブランドでも10年継続が求められています。つまり,開業から2030年ごろまではハイアット・ブランドで,ホテルとしても2040年までは営業が義務づけられます。履行されないときは,それぞれ10%,30%の違約金が発生する厳しさです。

金沢のホテルの客室は3.1%増,うちシティホテルは14.6%増

2015年末で,金沢市にある宿泊施設の総客室数は8838室,前年比で201室増です*4。そのうちホテルが8061室,前年比で190室増。新規開業は,金沢彩の庭ホテルABホテル金沢などです。さらに内数で,シティホテルが1712室で,前年比変わらず。

そこに,2020年3月までに,250室のハイアット・セントリックが登場します。シティホテルではほぼ横並びの客室数が,もう1店加わる形です。ホテルの客室数全体では3.1%増,シティホテルとしては14.6%増。ホテル全体としてはわずかな増加ですが,シティホテルに限れば,全体の稼働率を下げるほどの供給増加です。

標準34m2と広く,既存ホテルは狭い客室から値下げか

とくに,この公募では,ホテルの仕様として全室30m2以上が盛り込まれていました。採択されたオリックスの提案はこれをクリアして,標準34m2。金沢の既存のシティホテルでは,これより狭い客室の方が多いはずです。

おそらく,狭い客室タイプから順次値下げとなり,それでは持たない部分は,2室を1室にするような改装も検討されるでしょう。後者のような改装は,金沢都ホテルやANAホリデイイン金沢スカイの一部で実施済で,そういう部屋では広さに関するコスパが好転しています。結局,ホテルの価格上昇問題も,この供給増加で,玉突き的な値下げによって解消に向かうでしょう。

レストランのほか結婚式場を併設

既存ホテルにとっては脅威であった新ホテルのレストランですが,もともと募集要項では1つ以上と控えめな条件。提案概要書を見ても,ロビー階だけのようで,日本1号店の銀座がレストラン1店だけなのと符合します。このほか,上階はルーフトップバーで,メインダイニングではなさそう。

さらに,概要書では「金沢×フランスの食のコラボ」となっていて,近隣ホテルのレストランや周囲の飲食店にとっては,競合せずに棲み分けができそうです。

駅徒歩圏で3階屋上庭園のチャペルは競争力大

それよりも競争力がありそうなのは,緑地にチャペルをもつ結婚式場。既存駅近シティホテルと同等の距離で,実質3階と思われる屋上緑化部分に「丘の上のチャペル」が設けられます。駅近の既存シティホテルは,チャペルをもっていても場所が屋内で,開放感では屋外にかないません。

一方,近年までに金沢へ大都市から進出した複数のウェディング専業企業は,日本庭園や丘陵,湖沼など景観志向。しかし,いずれも金沢駅から距離があるもの。駅徒歩圏で屋上緑地にチャペルを作られると,開放感のある景観と利便性を併せ持つ式場となり,これまでの式場は戦々恐々でしょう。

キッチン付き47m2,109室の需要は‥

地方都市として試金石なのは,ホテルよりもむしろ,別棟のレジデンス棟。ここに,キッチン付きで中長期滞在型のホテルの性格をもつサービスアパートメントが,109室も確保されます。オークウッド・スイート&レジデンス金沢で,オークウッド・ブランドでは東京以外に初出店と,地方では大胆な計画です。

キッチン付きのホテルは,東京なら東急ステイなどがビジネスホテルタイプの部屋を手頃な価格帯で展開。より広い部屋と価格帯のブランドとしては,東急ステイレジデンスが用意されています。今回は標準47m2と広く,オークウッドの東京での設定を見ても,リビングとベッドルームが別で高価格帯の部屋となりそうです。

現在,金沢のキッチン付きホテルは東急ホテル最上階に

現状,金沢にあるキッチン付きホテルとなると,1か所だけ。金沢東急ホテルの16階が,東急のタイムシェアタイプの宿泊施設,東急バケーションズ金沢(2017年4月にBigWeekから改称)として運営されています。その空きがあるときだけ,じゃらん楽天トラベルに出ていて,会員以外でもそれらからの予約だけで泊まれます*5

以前に泊まったときの写真で,完成後の状況を想像すると,こうなるのでしょうか。

キッチン付きホテル・BigWeek金沢からの眺め

高さは,駅前に建設されるハイアットとほぼ同じ。こちらは昔からの繁華街で,左中程の白い建物が21世紀美術館,その右の茶系の建物が市役所で,いずれも徒歩5分圏。一方,隣の日銀側の客室からは,また別の眺めのはずです。キッチン越しに部屋と風景を見ると,このように。

BigWeek金沢のキッチン

奥に畳の和室とベッドルームがあり,テレビの前にソファ,その手前がオープンタイプのキッチン。子連れや三世代旅行で,適当に作って食べて,くつろぐには好都合かも。女子旅でも,人数がまとまれば,かえってリーズナブル。そういう需要は,街歩きと外食も自由に組みあわせ,夜更かしもしたい観光都市ほどあるはずで,あとは需要に見合う部屋数と価格設定次第でしょうか。

キッチン付きの部屋が,とくに金沢で需要があるとすれば,たぶんこれ。

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東急ホテルは,対面が写真のデパート・大和。刺身をはじめ食材や惣菜の調達は,地下1階へ降りて地下道を渡れば,5分ほどでデパ地下直結。駅近にできるハイアットやオークウッドでも,駅ナカに食品スーパーがあるので,ほぼ同じことができるでしょう。

こちらは現在でも,IHヒーター,電子レンジのほか炊飯器などがあり,まないた,包丁,鍋,食器も揃います。すると,刺身と適当な惣菜などで部屋飲みして,最後にお茶漬けとかそばとか,面倒なら押し寿司あたりを買っておけば,居酒屋をしのぐ安さ。子どもやお年寄りがいても,それぞれのペースで食べられます。金沢のキッチン付きホテルの需要とは,そういうことではと思います。

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もっとも,109室もキッチン付きができれば,写真のような海鮮だけでなく,いろいろな食材が欲しくなるはず。加えて,レジデンスも112室。それなら,敷地内か駅近または駅ビルに,成城石井的なお店が成り立ちそうな気もします。

金沢駅兼六園口では金沢都ホテルが建て替えへ

その後,2016年11月に大きな動きがあったので追記します。

金沢駅で反対側にあたる兼六園口(東口)で,長らく営業してきた金沢都ホテルの建て替えが明らかになりました。そちらも2020年めどということで,2020年は西口にオリックスのハイアット・セントリック,東口に近鉄の金沢都ホテルの新店と,2つのシティホテルが開業します。そちらは別記事にしています。

*1:既存のシティホテルでは,開業が新しい順に,ホテル日航金沢が254室,ANAクラウンプラザホテル金沢が249室と,数室差で続きます。

*2:Rintoの北側奥,タリーズのあたりは,金沢港口から兼六園口へ通り抜けできます。ハイアットからは,レストランフロアのあるフォーラスに徒歩3分ほど,兼六園口の周遊バスの乗り場へ4分ほどで抜けられる最短経路。Rintoのこの部分の通行量は,格段に増加しそうです。

*3:信託受益権の売買も禁止されることが,公募時の市への質問で回答されています。それで,オフバランス化のためにREITを利用することは難しいはずです。なお,金沢のホテルで上場REITが保有する例は,金沢駅兼六園口のANAクラウンプラザホテル金沢(星野リゾート・リート投資法人)と,金沢港口のホテルマイステイズ金沢(インヴィンシブル投資法人)。また,オリックスのREITであるオリックス不動産投資法人は,金沢では,1階にエンポリオ・アルマーニなどが入る賃貸マンション・ベルファース金沢香林坊を保有しています。それは,写真の金沢東急ホテルから日銀と三菱東京UFJを挟んだ3軒隣。そこで,価格と空室率の情報は蓄積されているでしょう。

*4:金沢市観光調査報告書(2015年),以下同じ。

*5:金沢東急ホテルと建物やフロント,ルームサービスのメニュー等は同じですが,運営は別組織で,各種予約サイトの金沢東急ホテルの宿泊プランからはたどり着けません。