石川県立美術館に入って正面左奥のカフェ,ル・ミュゼ・ドゥ・アッシュ KANAZAWA。金沢駅兼六園口(東口)6番バス乗り場からの兼六園シャトルなら14分,県立美術館バス停で降りて,戻る方向に歩くとすぐ正面奥に見える建物です。周遊バスや一般路線バスが頻発する広坂バス停からも,登り坂ですが徒歩5分ほど。
こちらは,自由が丘の名店・モンサンクレールのオーナーパティシエ辻口博啓氏が,石川県にもつカフェ2店のうち1店です。東京ではむしろ,なぜここにあるのか尋ねられますが,それは氏の出身が石川県七尾市だから。経営はその和倉温泉・加賀屋グループのため,各地からの観光でも安心できるサービスレベルです。
この美術館には裏にも出入口があって,外から見ると傾斜のついた天地ガラスが印象的。窓側席では真上が空となり,木陰に差し込む日射しだけでなく,雨や雪のしたたりも含めて,そらの今を感じられる設計です。
美術館の正面は兼六園随身坂口から徒歩3分ほど,21世紀美術館からも(後で書く急階段ではなく)兼六園シャトルのルートに沿って徒歩5分ほどの街中なのに,裏手一帯は森の雰囲気。この奥へのお散歩は,また後で。
個室スタイルで日本茶とスイーツのコースを
窓側につづくテーブル席の奥が,予約が必要な角部屋の別室。他にお客さんがいなければ個室のような感じでスイーツのコースがいただけます。漆黒の内装に黒のテーブル,カウンターには茶釜等のお道具と生け花のしつらえで,現代の茶室が整えられています。
とはいえ,内容はお抹茶と和菓子ではなく,デセール3点に緑茶,焙じ茶などを合わせる趣向。コースはこのような感じです。
味覚を整える季節のお茶は,ハーブティーのレモンマートル。
窓際席で、先ほどの森の中の木道を眺めてのお茶。窓側が妖しく光っているのは,間接照明の反射です。
デセール1品目は,白桃のコンポートにジャスミンの香りを効かせたもの。森の緑とつながるあしらいも,この空間ならでは。
これはちょっとしたサプライズで,後で用意される焙じ茶のために,自分で茶葉を焙じます。たよりは,奥に備えられている長い揚枝?
焦がさないように混ぜていくと,自家焙煎している製茶店の前を通るときに経験した独特の香ばしさが蘇ります。焙煎が本職の製茶店の方が,こういうアレンジの可能性は広がりそうです。
この自家焙煎をすませたころ,宇治の玉露を一煎目からグラスでいただきます。
能登島のガラス工房でつくられた円錐のグラスに,玉露が注がれます。渋さよりも,おだやかな甘さを感じる一煎。日本茶は,玉露も抹茶も,価格と甘味はかなり正に相関します。高いお茶は甘く,甘いお茶は高いです。それは,茶葉で甘味を醸す部分が,わずかだからでしょう。
ところで,このグラス,底が細くて,このようなスタンドでないと置けません。もちろん遊び心の一端ですが,これはかえって飲むことに集中させる効果がありそうで,日本の変わり酒器にあったテーブルに置けない猪口を思い出します。
こういう底が細く口が広い構造は,ワイングラスとは逆に,香りを拡散させますが,その方ががおいしく感じられるようなお酒などでも使えそうです。
2煎目からは,リラックスしてたっぷりと。
さて,デセールの2品目は,オレンジのクレープシュゼットを同じくガラス器で。さらに,カシスの水まんじゅうに,黒ごまのチュイールが,お米のクレムーをはさみます。
ここで葛を使った水饅頭というのが,和の要素を取り入れた意外性でしょうか。和菓子にあって洋菓子にない素材というと,餡や葛ですが,その一つがカシス風味で活かされます。
黒や茶の色彩には金箔が映え,赤色系には銀箔が映えますね。
ここでまたちょっとしたサプライズで,お好みで淹れた後の茶葉もいただけます。そのために箸があったようです。
別に味が付けられていて,なぜかお酒がほしくなる一品。こういう苦みのある葉物は,山菜のように天ぷらでもおいしそうですが,それではカフェを超えてしまいますね。
最後は,メインディッシュといえるデセールで,マンゴーアナナスのソルベをピスタチオの冷製スープに浮かべたもの。
白い部分がメレンゲの器。ソルベを食べようとすると,そのすき間から鮮烈な赤のラズベリーソースがあふれ出る演出です。無粋にならないよう,写真はここまでと。
これは別日ですが,温かいチョコレートをアフォガード風に。
上のチョコレートのコートが溶けていって,
下のアイスとからまります。時間の経過と共に,温度と味が変化していく,考えられた一品でした。
金沢では,コーヒーと和菓子の組み合わせはふつうですが,日本茶とデザートというかデセールの組み合わせもはまりますね。
ということで,このコース,意外性を狙うパティスリーやカフェだけでなく,日本茶が本職の製茶店が用意すると,受けるのではないでしょうか。京都あたりなら,事前予約制でなくても成り立ちそうです。おいしい日本茶は甘いことや,日本茶の焙煎の香りを経験できる機会は,今や少ないでしょうから。
ガトー各種やドリンクも単品で
個室以外では,テーブル席のほか,窓側向きのカウンター席が数席。ただし,窓側は一部なので,座れるかは混雑状況によります。空いてさえいれば,おひとり様でも窓向きカウンター席があって,くつろげます。
その場合は,ショーケースからガトーをオーダーして,案内される席へ。これは後日昼に行ったときの加筆で,窓側カウンター席が空いていました。
他のカフェでも経験することですが,カフェで空いた時間をねらうなら,あえて昼前(笑)。スイーツは昼を食べてからと考えるのがふつうで,それを逆にすると空いています。ただし,こちらのような軽いランチもある店は,お昼からすでに待つようです。
チョコレートの鏡面に散らされた金箔が映えます。
こちらは,タルト生地であえて下にいちごを。
いちごの酸味とクリームの甘さのコントラスト。こちらで思うのは,当然ながら生クリームがおいしいことです。
石川県立美術館裏から滝の流れる美術の小径へ
県立美術館の裏から出て,先ほど見ていた森のようなコースを,何年かぶりで散歩。奥からの流れは辰巳用水の分流で,兼六園の霞ヶ池を満たしている水を引き込んだ,自然のものです。
窓の外に見えていた木道を通り,この流れに沿って散歩ができます。
その名は美術の小径で,石川県立美術館と中村記念美術館をつないでいることからの命名。とくに美術品があるわけではないですが,閑静な散策路です。後でGoogleマップを挙げるように,その先は21世紀美術館まで歩いても10分程度です。
この先,引き込まれた辰巳用水は,街中とは思えない急傾斜を滝のように落ちます。その横には,ビルなら3階分ほどの階段が。
ふもとまでの高低差は,先ほどの美術館から10mは超えているでしょうか。
この水流を利用して,マイクロ水力発電を市営で設置。
定格出力1kWのところ,このときは0.46kWでした。自然の水源と水流のため,水道料金などはかかっておらず,これでもペイするはず。表示のように,周辺の街灯の電力供給には十分です。
急階段を降りると中村記念美術館と旧中村邸が
降りてきたところは旧中村邸。今なおつづく造り酒屋・中村酒造の邸宅を移設したもので,その寄付により金沢市立中村記念美術館として一体で整備されています。
この町家建築,現在は,離れを含めてお茶会などで有料で貸切利用できる金沢市営の茶室です。市営の茶室はあわせて11。この街のお茶好き,お菓子好きも相当です。
ただし,観光としてみると,展示内容が茶道具などと渋めのためか,この空間はひっそりとした穴場スポット。混雑する21世紀美術館から徒歩5分くらいなのにです。
それで,ひがし茶屋街ではもはや難しくなった,観光客がかぶらない町家の写真が撮れます。公有地で,電線などがないのも好都合。町家はこの一棟だけですが,じっくりと構図を考えたいときには,足を伸ばす価値がありそうです。
21美へもすぐですが,新設された散策路へ
県立美術館のカフェから,滝に沿って降り,旧中村邸前を通って21世紀美術館までを歩くと10分程度のルート。下のGoogleマップでは6分と出ますが,写真のような急階段のため,10分はかかりますね。一方,兼六園側のバス通りを歩けば,21美まで5分程度です。
なお,この地図の金沢歌劇座前には周遊バス左回りの本多町バス停が,北陸放送前には周遊バス右回りの本多町バス停があります。美術の小径のふもとや旧中村邸を直接訪れるなら,それらが最寄りです。
今回は,定番の21世紀美術館には向かわずに,近年整備された下の写真の緑の小径に進むとします。
街なかとは思えない森の景観を抜け,次回につづきます。
その記事も書き終えてバス停からのマップをまとめたので,下にリンクしておきます。