読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

北陸新幹線で行く,はじめての金沢

お庭,お菓子,お魚,お酒が揃う城下町をまわるため,金沢出身・東京在住者が往復しながらヒントを書いていきます。

新幹線が金沢を女子旅の街に:宿泊客は男性より女性が伸びて,女性の割合は京都・奈良の水準へ

彼女が行きたいと言ったから

突然ですが,まずはこの方のインタビューを。

どうして金沢かというと,「彼女が行きたいと言ったから」だそうです。

映像では,記憶に残ったものがありのままに答えられていて,いい感じ。やはり定番の,庭や城(palaceと言われてましたが),そして茶屋街に行かれたようです。

誘われてちょっと金沢まで,でよいのです。それが今度の週末でもと気軽になったのが,新幹線の絶大な効果です。

昔旦那衆の街,今女子旅の街

金沢に3つある茶屋街の中で,最も客を集めるひがし茶屋街。それは女子旅の街になりました。3月の平日,みぞれの日の様子。

金沢のひがし茶屋街では女性の観光客が増え,着物のレンタルの利用も多い(2017年3月の平日・みぞれ)

同じ3月の平日で晴れの日はこちら。天候がよいと,写真もきれいにとれ,人出も増します。

金沢のひがし茶屋街では女性の観光客が増え,着物のレンタルの利用も多い(2017年3月の平日・晴れ)

和服のレンタルと着付けのできる店が増えて,若い女性ほど街歩きの楽しみになっています。着こなしもさまざまで,それをスマホで記念撮影や自撮りすることが,SNS時代の付加価値です。

グループから一人旅まで女性が多く

写真のように,現在のひがし茶屋街で多いのは女性のグループで,次がカップル。さらに,女性の一人旅もよく見ます。片方向毎時4本(両方向で毎時8本)が循環する周遊バスで金沢の観光地を一通り回れることが,一人旅も気楽にしています。

また,茶屋街の昼のカフェなどは,人の流れから推測される通り,多くが女性。予約が必要なレベルの鮨店でも,女性一人旅を見かけるようになりました。カフェ,割烹,鮨店などのカウンターは,人数によらず横並びで,おひとり様が浮くことがなく,実は気が楽です。

工芸品店はお連れ様以外ほぼ女性

そして,女性比率がもっとも高くなるのは工芸品店で,ほとんどが女性客とそのお連れ様です。

石川県には,人間国宝や文化勲章などの重鎮を擁する輪島塗,九谷焼,大樋焼などの産地があります。そして金沢では,国内の生産シェア約99%をもつ金箔が作られます。また,公立美大では全国でも3番目と,戦後早い時期に創設された金沢美大に,工芸系の学科が充実。さらに,金沢市立の卯辰山工芸工房で,若手作家の育成が続きます。

そういう背景で,普段使いのできるかわいい器が千円前後から揃います。茶屋街や金沢駅のあんとなどにもお店があって,予算に応じた品が選べることが,女性に受けているようです。

経産省のデータで男女別の宿泊客数がわかる

さて,本当に金沢は女子旅の街になったのか。宿泊客の地域別統計でもっとも使われる観光庁の宿泊旅行統計調査では,調査票に性別の項目がなく,調べようがありませんでした。

一方,経済産業省が2015年12月から公表している観光予報プラットフォームは,各種宿泊予約チャネルで得られたビッグデータから宿泊客数を推計したもの。予約時の情報を利用するため,大規模な宿泊統計ではじめて性別の宿泊客数がわかります。

女性の方が伸びている金沢の宿泊客

その月次集計を用いて,金沢の男女別の宿泊客の推移をグラフにしたのがこちら*1

金沢市の男女別宿泊客数を北陸新幹線開業前後にみた推移

開業後の宿泊客は,男性に比べて女性が大きく伸びたことが,よくわかります。開業前は,宿泊客の男女差はあまりなく,女性が増える3月と夏から秋でも,せいぜい10%ほどでした。

それが新幹線開業後には,女性と男性の差が拡大しています。客全体が落ち込む12月,1月以外は,女性は男性より毎月5万人ほど多い情勢。大人の宿泊客に占める女性の比率は,60%を超えました。男性は40%未満で,その差が2割ついています。

代表的な地方都市とリゾートの女性比率は

遅れてやってきた新幹線ですから,気になるのは,観光で思い浮かぶ他の都市の女性比率。そこで,観光に注力する都市いくつかの宿泊客のうち,女性の比率をグラフに描いてみます。

女性の宿泊客が多そうな場所としては,街中観光の都市だけでなく,リゾートも考えられるところ。そこで,ビーチ,高原とアウトレット,テーマパーク,温泉の代表格を入れてみました。知名度の高いところで,リゾートホテルが集中する沖縄県恩納村,長野県軽井沢町,浦安市,そして新幹線駅すぐの有名温泉地である熱海市を比較しています。

女性の比率と大人の比率で散布図を描くと

ところで,この調査では,子供(宿泊が子供料金となる小学生以下)の性別がわかりません。リゾートでは子供の割合が高く,それも比較したいところ。そこで,都市ごとに,女性の比率を横軸に,大人の比率を縦軸に描いた散布図がこちら。

国内の地方都市や代表的な観光都市の宿泊客のうち女性の比率と大人の比率の関係

右に行くほど女性が多く,上に行くほど大人が多いことを表した図。右上ほど女性・大人の観光地であることを意味します。

きれいに読み取れるのは,金沢が京都と奈良の特性(女性・大人の観光地)に近づいたこと。新幹線開業前後の比較のために,金沢だけ開業前の位置も入れています。以前の金沢は,地方都市の平均的な位置でしたが,開業2年で京都・奈良の近くへと進みました。

金沢は地方都市の平均から京都・奈良へ近づく

全般的な傾向として,ビジネスの宿泊に加えて,女性に人気の観光スポットが増えるほど,女性比率が高まります。たとえば,すでに世界遺産登録されている明治時代のグラバー園や,登録をひかえる大浦天主堂などのある長崎市の女性比率は,やや高い方。佐世保にあるハウステンボスを目指す宿泊も多いでしょう。新幹線開業前の金沢は,道後温泉と江戸時代の天守の残る松山城などが見どころの松山市と同じポジションでした。

とりわけ,長崎市や松山市が気になる理由は,両市も人口が40万人台の後半で,金沢市と人口と財政力が同水準。できることと無理なことが似ていて,勉強になる都市です。観光資源にも類似性があって,江戸時代前後からの建築物や街並み,漁港があって魚介類が豊富,独特の料理やお菓子などです。

一方で,仙台や新潟は,女性より男性の割合が高い宿泊地であることがわかります。すでに内部の情報でわかっていることと思いますが,JR東日本が首都圏からの新幹線の旅を訴求するなら,この男女差は重要。現状では,仙台・新潟には男性向けのツアーを,金沢には女性向けのツアーを企画するのがよさそうです。

有名観光地で女性が多いのは浦安

もっとも,有名どころで女性の比率が最高になるのは,街中観光の都市ではありません。ディズニーリゾートを擁する浦安で,大人の宿泊客のうち,女性は66.5%,ほぼ3人に2人です。全市町村を比較したわけではありませんが,知名度の高い旅行先では,浦安が女性比率が特別に多い宿泊地といえそうです。

ただし,散布図でわかるように,リゾート全般に子供を連れた家族旅行も増えるため,同じく女性が多い京都・奈良とは客層が異なります。当然ながら,リゾートでは,ファミリー向けのサービスが重視されるところ。逆に京都・奈良そして現在の金沢では,それが手薄なところです。

女性の比率は開業2年目も増加,秋は京都の水準へ

開業前後で女性比率が10%ポイントも上昇したことについて,その経過がわかるようなグラフを最後に。大人の宿泊客のうち女性の比率の推移を,京都と金沢で比べたものです。

宿泊客のうち女性の比率の推移(京都市と金沢市の比較)

新幹線開業までは,10%ポイントの差がありました。開業後に詰めていって,現在の差は数%ポイント。客数全体としては反動減のある開業2年目も,女性の比率は微増傾向です。

女性比率のピークは11月で,京都と同傾向

差がもっとも小さくなるのは,兼六園など街中の紅葉が美しく,かに漁が解禁となる11月。そこが女性比率が最も高くなる月です。建物や庭園だけでは,千年の都にはとてもかないませんが,そこに紅葉,プラス他にない魚介類とその料理があると,「合わせ技」で迫れることがわかります。

女性が増えた原因は:観光資源に大きな変化なく

女性の比率が高まったことは事実として,疑問が残るのは,その理由です。新幹線が開通してから,文化財が発掘されたり,街並みが急に整備されたわけではありません。

新幹線開業前後で,新しい景観が整ったのは,玉泉院丸庭園かなざわ玉泉邸ぐらい。増えた観光客が全員,これら新しい観光スポットに行ったのではありません。両方とも定番のコースから少し逸れるところで,兼六園やひがし茶屋街,21美とは異なり,SNSであまり写真を見ません。

増えた新店は女性客増加の原因ではなく結果で

ひがし茶屋街と主計町かずえまち茶屋街には,新幹線開業前後から,鮨,和食,カフェ,酒,工芸品などの新店が,あわせて2桁ほどできました。ただし,これらは茶屋建築の内部のリノベーションがほとんどで,開業前後で伝統的な街並みが蘇ったのではありません。

この点は,店の増加と女性客の増加の因果関係が逆で,女性が訪れる街になったから,女性向けの新店が増えたと考えるのが正しそうです。

原因は首都圏から見た競合観光地との特性の違いか

女性が増加したのはグラフのように新幹線開業後。観光地側の店の変化が需要に合わせた結果とすれば,原因はやはり交通機関の進化(速さと乗り換えなし)でよいのでしょう。それに加えて,首都圏を起点としたときに競合する観光地の中で,金沢の観光スポットや食と工芸などが,比較的女性向きであったことが効いていそうです*2

それなら,女性が増えたことは一時的ではなく構造的な変化で,ホテルなどでは客室やサービス,飲食店ではメニューやサービスなどの進化が,次の課題です。

女性が増えたことに応えるなら

たとえば,下の写真は,ひがし茶屋街の和カフェの新店で,最近出されるようになった抹茶アフォガード。温かい抹茶を,冷たいアイスクリームにかけて楽しみます。

金沢・ひがし茶屋街の和カフェ・波結(はゆわ)にある,抹茶をアイスにかけて楽しむ抹茶アフォガード

若い女性が増えるほどに,リーズナブルなメニューも求められるなか,その範囲で写真も楽しめる趣向は大切と思われます。そしてこちらも,ひがし茶屋街の新店。

f:id:KQX:20170321215329j:plain

茶屋街には珍しい新しい庭に,ガトーとスパークリングワインが映えます。これも女性向けの進化です。日本料理で言えば,接待に向く伝統的な個室での懐石料理より,上質なカウンター割烹や居酒屋が混んでいるのも,その志向でしょう。

考えてみれば明日が,新幹線開業2周年。桜の季節も近いので,昨年撮影した主計町茶屋街と浅野川にうつる桜を。

金沢・主計町(かずえまち)茶屋街で,浅野川に映る満開の桜(2016年4月)

この桜が今年見られる頃には,開業3年目。北陸新幹線もこの先,福井・京都・新大阪と人口が集中する大都市へつながります。これまでの整備新幹線で,人口がもっとも多い区間で,思い立った旅行も双方向で増えそうです。

*1:性別のわからない子供(宿泊予約なので子供料金となる小学生以下)を除いています。

*2:開業した北陸新幹線によらず,金沢はもともと関西・中京から直通2時間台で,旅行の候補地でした。それでも,新幹線開業前は,女性客はこれほど多くなかったところ。
  関西を起点に考えると,京都・奈良に歴史的な観光資源が集積するのに加え,山陽・山陰・四国に国宝の城や特別名勝の庭園をもつ城下町が連続します。たとえば,大阪出発を考えると,金沢は,岡山・倉敷・尾道・広島・松江・高松・松山などと,観光資源の種類,時間と費用の点で競合します。
  一方,首都圏を出発地とすると,JR東日本の新幹線沿線の城下町は,それぞれが大きく離れていて,国宝や特別名勝も散在します。金沢と競合する目的地は,西日本ほど連続的ではありません。