金沢駅徒歩圏で金沢らしい食事,そのうち,お鮨を目指すなら,第一候補はホテル日航金沢の弁慶。全国的に評価のある
雪吊りのしつらえられた内庭をカウンター奥に眺めつつ,つまみから。
ぶりは能登半島・宇出津(うしつ)であがった10kgもの,加えて白身は,あら,車鯛の昆布締め,こりこりの赤西貝,そして,鯖の棒寿司。つま代わりに,菜の花の昆布締め。
すべてひと仕事がしてあって,そのまま食べられるもの。地物の鰤が格段においしいのは当然ですが,鯖の棒寿司も太平寿しのスペシャリテ。弁当によくある鯖の押し寿司のような酢の味がほとんどの堅めのものとは違って,鯖の甘みと濃厚な旨みが適度な熟成で引き出されたしっとりしたもの。菜の花も昆布の味が染みています。
なお,ぶりは地物がそろそろ終息で,新幹線開業には間に合わないので残念。また,来年の冬に。
握りは白魚から,現代の九谷焼で。
さらに,北陸ならではの,がすえびと甘えび。こちらもいい頃合いに熟成させて卵をのせる仕事で,あまくねっとりした口どけ。卵も独特の舌触りで,味にアクセントを。
これは別日で,卵をわずかに散らし,このわたをかけて,一皿とする出し方も。
このわたは,なまこの腸の塩辛で,甘辛いこくに,ややえぐみのあるもので,たぶん北陸ならでは。甘えびの味を引き立てるため,この組み合わせで金沢ではよく使われます。
まぐろの赤身は包丁を入れる仕事を。
たらの白子を,ゆずを加えたしゃりで。小さな器で出す創作寿司は,太平寿しの得意分野。ぷりぷりが,噛むととろとろになる白子を,酢と柚子で爽やかに。
こちらの看板ともなっている,のどぐろの蒸し寿司。以前にホール席で,会席料理に追加して注文したときに撮った写真の方がよいのでそちらを。なお,ホール席は早めの予約でないと,庭側の席になるとは限りません。
皮目を活かした厚めのどぐろの握りを,小さな昆布を下に敷いて,酒蒸しにして,蓋付きで運ばれてきます。のどぐろの脂が白身にからまり,昆布だしとお酒,しゃりのお酢で蒸し上げられて,脂味,旨味,甘味,酸味があたたかく調和します。
握りでも,北陸で定番のぶりを,このときは脂身ののったところで。
あじは3枚でこんな細工を。
いくらも柚子しゃりで。
さらに,ふぐの白子も暖めて,柚子しゃりで。
温かいふぐの白子は,裏ごししてあって,クリーミー。それが爽やかなしゃりとからまります。
最後に写真を挙げるなら,雌のずわいがに,香箱がにが食べられたときのもの。
雌だけに内子と外子と呼ばれる卵をもっていて,内子を身の下に,外子をしゃりとあわせて一品としたものです。
この状態で海にいるわけではなく,食べやすさと美しさを考えたお料理です。
北陸で水揚げされる近海ものの魚の種類と質はもちろんですが,それに創作の技量があるのが特筆すべきところ。現在の金沢で筆頭といえるこのホテルから委託を受けて,日本料理店の鮨カウンターを長く維持できていることが,何よりその実証でしょう。