北陸新幹線で行く,はじめての金沢

お庭,お菓子,お魚,お酒が揃う城下町をまわるため,金沢出身・東京在住者が往復しながらヒントを書いていきます。

フランス人が楽しそうな茶屋街の夜:外国人宿泊客の約1/3は欧米からで,この割合は全国3位

このブログでも,金沢での外国人観光客増加に関する検索が続きます。開業2年目で,日本人観光客は若干の反動減のところ,外国人は増加基調のまま。

日本全体では,外国人観光客の多くがアジア系ですが,金沢で兼六園,ひがし茶屋街,長町武家屋敷,忍者寺に行けば,欧米からのお客さんも相当いるのが特徴。そのことがわかる統計と動画をとりあげてみます。

「県別にどの国から」という分析は多いが

何度か記事にした観光庁の宿泊旅行統計調査では,都道府県別に宿泊客の国籍を調べています。そのため,「どの国から,どの県へ」という2次元の集計ができます。

よくある分析は,都道府県ごとに,どの国からの宿泊客が多いのかを調べるもの。すると,日本のどこでも,アジア系が最多となり,地域により,中国,台湾,香港,韓国の割合が変わるという結論になりがちです。

「国籍別にどの県へ」を調べると別の様相に

一方,この統計では,各国籍の日本旅行者が,日本のどの県を選んでいるかと集計することも可能です。つまり,旅行者の嗜好の視点での分析です。すると,アジア系に限らない,全く別の実態が現れて,驚きます。

イタリア人の宿泊地で石川は全国5位

訪問客の国籍別に,日本のどこに泊まっているか,上位から見たのが下の表です。特徴をとらえるため,旅行者の国籍のうち石川が強い国と,比較のため,日本全体では最多の中国とを抜粋。なお,データは,国籍がわかるもので直近の2016年8月分で,冬はこれより弱い傾向なのが留意点です。

各国籍の宿泊客ののべ宿泊者数
順位 フランス イタリア スペイン 中国
1 東京 京都 東京 東京
2 京都 東京 京都 大阪
3 大阪 大阪 大阪 千葉
4 広島 広島 岐阜 北海道
5 沖縄 石川 広島 京都
6 岐阜 岐阜 神奈川 静岡
7 石川 沖縄 石川 愛知
8 兵庫 神奈川 沖縄 沖縄
9 神奈川 千葉
和歌山
栃木
長野
山梨
10 千葉 神奈川
  石川:26位
観光庁,「宿泊旅行統計調査」,2016年8月*1

石川県は,イタリア人には5位,フランス人とスペイン人には7位の宿泊地で,規模の割に上位です。とくに,フランス・イタリアからは,横浜と箱根を擁する神奈川や,浦安・幕張・成田に巨大ホテル群のある千葉を上回ります。

欧米からの観光では,より特徴的なのが広島。世界遺産の宮島・厳島神社と平和祈念公園・原爆ドームが主な目的地で,東京・京都・大阪の次に選ばれています。

意外に思われるかもしれない岐阜県は,世界遺産の合掌造り集落・白川郷と,江戸時代の天領由来の街並みが残る高山市が,外国人に好まれる目的地です。

一方,中国からは,北海道と静岡が上位に入るところが特徴的で,広島は上位に入りません。富士山や北海道・沖縄といった自然の景観が求められているようです。

欧米系の割合が高いのは広島・京都・石川

次に,外国人客のうち地域ごとの構成割合を,都道府県別に並べてみます。

具体的には,この統計で分類のある欧州主要国(ロシアを除く)と,それにアメリカ・カナダを加えたもの,さらに中国が占める比率をつくります。それを,上位の都道府県から挙げると,意外なランキングに。

外国人宿泊者のうち各地域からの比率が高い都道府県
順位 欧州主要国*2 欧米主要国*3 中国
都道
府県
比率
(%)
都道
府県
比率
(%)
都道
府県
比率
(%)
1 広島 34.8 広島 47.1 静岡 76.5
2 石川 27.6 京都 36.7 茨城 63.3
3 京都 25.9 石川 34.5 奈良 62.2
4 岐阜 25.2 栃木 29.8 山梨 61.8
5 東京 12.3 岐阜 28.3 三重 54.7
全国平均 8.5   15.1   31.7
観光庁,「宿泊旅行統計調査」,2016年8月

外国人宿泊客のうち欧米からの比率が高くなるのは,まず広島,次に京都か石川です。京都は予想される結果で,むしろ広島の突出が目立ちます。石川も欧州で2位,欧米で3位で,京都と同程度の比率です。

石川へは3人に1人が欧米系で,全国平均の倍

石川県では外国人宿泊客の3人に1人は欧米系,4人に1人が欧州系で,この比率は全国平均の倍以上。どおりで,兼六園や茶屋街では,欧米系の観光客をよく見かけるわけです。

自然志向か文化志向か

表は略しますが,この統計を細かく見ると,欧米の中でも嗜好の差は大きいことがわかります。たとえば,アメリカ・イギリス・ドイツからは,石川よりも北海道が上位。一方,フランス・イタリア・スペインからは,北海道よりも石川が上位です。

日本を旅行する目的には,自然の景観か,建築や庭園も含めた文化か,そこに2つの方向性がありそうです。たとえば,フランス・イタリア・スペインは,歴史的な建築など史跡が集積し,観光も街中が多い国。一方で,アメリカなどは,自然の景観が魅力の観光地が多い国です。

住む土地の風景は,旅行を考えるときの参照基準となりますから,日本旅行でも行先の選択に反映されていそうです。自然を求める観光と文化を求める観光,そのどちらを求めるかは,生育と居住環境に起因するところが大きいでしょう。

金沢の観光地は,文化志向のフランス・イタリア・スペインなどからの旅行客に受けているところ。一方で,アジア系など自然志向の旅行客には,富士山や北海道・沖縄などの景観が好まれていて,近くでは五箇山・白川郷や立山黒部アルペンルートなどの方が受けそうです。

古い街並みにあわせる付加価値は

文化志向の外国人旅行客が石川を訪れる理由として考えられるのは,太平洋戦争の空襲にあっていない都市で,金沢が京都に次ぐ規模であること。それで,茶屋街などに江戸時代後期からの建築が残り,兼六園も大名庭園として一定の規模を保ちます。

とはいえ,日本庭園も寺社も京都・奈良の集積が圧倒的。フランス・イタリア・スペインからのお客さんには,京都が東京の次か,それを凌ぐトップの位置で受けていることも,納得できます。

ではなぜ金沢なのか,それを端的に表す動画を2つ。

金沢で外国人が楽しそうな動画

ヨーロッパからの金沢観光を素材とした動画では,次のものが金沢の特徴をとらえています。

こちらは,季節ごとに週3日のペースで行われている,ひがし茶屋街・懐華楼外国人向けのイベント。2階のお座敷に,予約の外国人客を招き,芸妓さんが登場するものです。ただし,外国人限定。

伝統的なお座敷にはある特別な料理や酒をなくし,芸事の観賞に限定することで,リーズナブルな価格で提供されています。外国人向けには,縁故による紹介がいらないシステムが必要で,それもネット予約などで実現。現在は,当日並んでも,空きがあれば参加できます。良い席の中から選ばれたお客さんは,芸妓さんとのお座敷遊びに参加できる工夫がされています。

2階のお座敷と女将さんの英語が活かされる

これには,金沢のお茶屋が,置屋の機能だけでなく,2階に座敷を持っていたことが効いています。置屋は,芸妓が所属する芸能プロダクションのようなもので,料亭や旅館の宴席に芸妓さんを派遣するのが本来の業務。それで,全国的には,最小限の広さしかないものが普通です。

金沢のお茶屋はそれに加え,2階に座敷があって,自店で宴席ができました。人材派遣と飲食の座敷の提供を両方営む組織形態は,とくに金沢で発達したようです。それが今日まで維持されたことで,動画のような外国人向けのイベントもこなせています。

また,重要なのは,女将さん自身が英語で説明していること。別の案内役ではないことで,宴席の臨場感を自然な形で伝えています。それには,留学経験などが活かされています。さらに,踊りだけでなく,芸妓さんとの写真撮影が可能なのも,本来の宴席とは違う扱いで,ほかにない記念として喜ばれているようです。

茶屋建築に現代の日本酒バー

もう一つは,そちらから徒歩5分ほどの主計町かずえまち茶屋街にあるSAKE BAR KAZOE(數)で嗜む日本酒。

主計町は,ここに屋敷があった加賀藩士・富田主計とだかずえに由来する町名。かぞえまちと発音されることも多く,それとかけた「数」を旧字体にした店名です。茶屋建築を,カウンターとテーブルでの日本酒主体の店へ改装されています。

その店の浅野川を見渡せる2階で,利き酒師でもある女性店主から,日本酒とあてをすすめられています。川面に明かりがゆれる風景に,日本酒がはまります。

動画を見ると,淡麗な吟醸酒では,のどごし爽やかで,すぐ満足げな笑顔。一方で,濁り酒には甘味が感じ取れる表情や,別の吟醸酒ではいったん渋い顔で,すぐ解き放たれた表情となるなど,飲み口にあった自然な反応です。

日本酒の味と香りは千差万別で,飲み比べの楽しさが伝わります。甘い・辛いというよりは,旨味と酸味そして香りのバランスで,好みも様々。酒好きには,好みに合う酒を探すプロセスに,幸せがあります。

代謝酵素が揃う欧米人こそ,度数の高い日本酒の奨めがい

ところで,酒好きからすると,欧米からの旅行客はすすめがいのある存在。われわれ日本人と違って,アルコール代謝酵素が,ほぼ全員にあるからです。彼らはほとんど,日本で酒がかなり強い人と同じスピードで,すいすい飲めています。

日本酒は,ワインよりもアルコール度数がやや高く,日本人なら,好きでも1人2合ほどで終わる場合が多いもの。ほとんどが酒に強い欧米人にこそ,ワインよりも度数の高い日本酒の方が,向いているとも思えます。

彼らも,日本酒を飲み進めれば,ワインにはない方向性に気づくでしょう。穀物由来の甘味と旨味,それでいてリンゴやバナナ,ライチにも似た香りと酔い心地です。欧米では,穀物の酒というと,ビールのような苦味と酸味を効かせるもの以外は,蒸留酒がほとんど。蒸留していない米の酒で,ほのかな甘味や果物の香りがするのは,意外な発見のようです。

追伸:お店の入れ替わりがありました

主計町茶屋街の動画に登場したSAKE BAR KAZOE(數)は,ひがし茶屋街に移転し,カウンターバー形式で,昼も営業する日本酒 真琴としてリニューアル。その2店舗目が,金沢駅兼六園口(東口)徒歩5分に日本酒 真琴升ますとして開店しています。

SAKE BAR KAZOE(數)だった主計町茶屋街の元お茶屋には,繁華街・片町の鮨の名店・あいじの二店目,金澤主計鮨処あいじが開店しています。

*1:第2次速報値で,遡及改訂される場合があります。以下も同じ。

*2:欧州で国別の集計のある,イギリス・ドイツ・フランス・イタリア・スペインののべ宿泊者数/外国人ののべ宿泊者数。分子には,ロシアと,欧州でもその他の分類に合算されている国は含みません。

*3:欧州主要国に,アメリカとカナダを加えたものの比率。