北陸新幹線で行く,はじめての金沢

お庭,お菓子,お魚,お酒が揃う城下町をまわるため,金沢出身・東京在住者が往復しながらヒントを書いていきます。

東京にある国立近代美術館工芸館が金沢に移転へ

地方創生政策の一環で,東京・千代田区の北の丸公園にある国立近代美術館の別棟・工芸館を,金沢市の兼六園に隣接する本多の森に移転するプロジェクトが進んでいます。

その後,2017年8月31日に,国立近代美術館から公式の発表があって,現工芸館の所蔵品の7割1900点以上を金沢へ移転させ,館長相当の職である工芸課長を金沢で常勤させることなどが決まりました。

石川県側の用地や建物の概要の公式発表は,こちら。
東京国立近代美術館工芸館の移転整備|平成29年度9月4日石川県知事記者会見

2018年4月に着工

2018年4月8日には,金沢市出羽町の石川県立美術館隣接地で,起工式が行われました。

工芸有数の集積地,石川・金沢へ

移転の根拠は,工芸分野の人間国宝が東京都9人,京都府9人と並んで石川県も9人(2015年)となる実績です。人口100万人当たりでは,石川県が7.76人(2015年)で,東京・京都を大きく上回って全国1位。全国平均は0.46人ですから,その16.8倍と突出していて,この首位も長くつづいています。

知名度では,輪島塗,九谷焼,大樋焼,加賀友禅などがわかりやすく,独自の技巧や芸術性で,国としての贈答品にも重用されています。その裏付けとしては,現在東京にある国立工芸館の収蔵作品にも,石川県の人間国宝をはじめとするものが複数あり,作品が東京からお里帰りとなります。

現在の工芸館は北の丸公園の中

移転元と移転先の両方を眺める機会があり,まず北の丸公園にある現在の工芸館から。

f:id:KQX:20160329014252j:plain

ネット上では誤解もあるようですが,地下鉄の竹橋駅から橋を渡ってすぐ右手の国立近代美術館本館は,移転対象ではありません。国立近代美術館とだけ言われると,多くの人は,三國シェフのラー・エ・ミクニでも知られる,直線的な外観の本館を想像されるでしょうが,そちらは動きません。

移転対象の工芸館は,北の丸公園をさらに進んだ,上の写真の別棟です。ゴシック様式のこの建物は,明治43年(1910年)建築の旧近衛師団司令部庁舎。

f:id:KQX:20160329015323j:plain

重要文化財指定で歴史の重みあるこの建物は,当然移設不可能。皇居隣接のこの地に残り,近衛師団とは特別関係ない中の所蔵品だけが金沢へということなのでしょう。

往時をしのばせる尖塔部。

f:id:KQX:20160329015930j:plain

2階内部も,明治から大正の香りがします。

f:id:KQX:20160329021907j:plain

師団の中でも別格だったことを感じさせる空間です。ここにあることに特別の価値がある明治後期の近代建築ですから,それと整合的な建築・歴史分野の展示などに活かす途がありそうです。

人間国宝の展示に輪島塗が

所蔵品は約3300点と多いのですが,展示室は2階建のこの建物のうち,2階部分だけ。展示されている比率はごくわずかです。その展示室も多くは企画展用で,現在の常設展示は,人間国宝・巨匠コーナーだけのようです。

石川県ゆかりのもので現在展示してあるのは,こちらでした。

f:id:KQX:20160329021049j:plain

輪島塗の沈金技法での人間国宝・前大峰作の沈金蝶散模様色紙箱。

f:id:KQX:20160329021641j:plain

工芸作品のため,作者など関係者が撮影禁止していない所蔵品ならば,他からの貸与等の権利関係がない限り,原則として撮影できるのがありがたいところです。展示品ごとに,撮影不可のものが明示されています。

少し斜めから絞りを変えてみると‥

f:id:KQX:20160329022441j:plain

絞りが難しく,沈金の極限までの細かさは,写真ではうまく表現できません。立体感のある蒔絵とは別方向の,なめらかに輝く美しさ。室内の展示品用の照明で,厚いガラス越しで撮るのは,難しいですね。

お里帰りとなる所蔵品も14名以上

金沢移転時にお里帰りとなる石川県出身者の所蔵品をデータベースから探すと,漆器では沈金の前大峰氏,前史雄氏,髹漆の塩多慶四郎氏,小森邦衞氏,蒔絵の松田権六氏,寺井直次氏,大場松魚氏,中野孝一氏,螺鈿の北村昭斎氏,九谷焼の三代徳田八十吉氏,大樋焼の大樋年朗氏,鋳金の蓮田修吾郎氏,銅鑼の三代魚住為楽氏,木工の川北良造氏と,次々と発見できます。いずれも人間国宝や文化勲章受章者。以上は気付いたお名前で検索しているだけで,完全な検索はできていません。

山代温泉と金沢にゆかりのある北大路魯山人の作品も

知名度の高さでは,北大路魯山人の作品8点(織部蓋物など)の所蔵が興味深いところ。人間国宝の指定を辞退した,その陶芸をはじめ,星岡茶寮を設立するなど,料理の見識でも広く知られています。ただし,もとは書家・篆刻家で,陶芸との出会いは,加賀市・山代温泉の旅館の看板の篆刻を兼ねて逗留し,九谷焼の須田菁華窯を訪れたとき。仕事を紹介したのは,当時滞在していた金沢の商家で書家でもあった細野燕台*1。この間,金沢の料亭・旧山の尾にも通っていて,魯山人による看板や器などがその窯元と旅館,料亭に残されています。

これら所蔵品をもつ工芸館が,後にあげる金沢の候補地に移転すれば,敷地も展示面積も拡大できますから,常設展示品の割合も高まり,さまざまな企画展の可能性も広がるでしょう。

伝統工芸だけではない所蔵品

現在の工芸館の裏に回ると,サプライズにも思える現代美術がありました。

f:id:KQX:20160329023523j:plain

工芸館の建物側から見ると,インパクトのある造形です。

f:id:KQX:20160329024146j:plain

橋本真之作,「果樹園―果実の中の木もれ陽,木もれ陽の中の果実」。

f:id:KQX:20160329025226j:plain

この上から垂れている部分が熟した果実でしょうか。

f:id:KQX:20160329024616j:plain

個人的には,吸い込まれそうなこのショットが一番記憶に残りました。

f:id:KQX:20160329030210j:plain

現代の工芸も含む所蔵品のどこまでが金沢へ行くのか,どう展示されるのか,興味深いところです。21世紀美術館で,伝統の枠を超えた衝撃のある作品には慣れていますが,さてどうでしょう。

金沢で設置できる場所は,すぐ下の写真のように背景が明治末期から建造の重要文化財はもちろんのこと,周囲の庭園など様々にあります。

移転候補地は本多の森で,明治の重要文化財の隣

行先として提案されているのは,石川県立美術館石川県立歴史博物館加賀本多博物館が集まる本多の森。この赤煉瓦の建物も,明治の終わりから連続して竣工された重要文化財です。

f:id:KQX:20160402004128j:plain

これが3棟並んでいて,石川県立歴史博物館と加賀本多博物館として使用されています。

f:id:KQX:20160402005042j:plain

もとは,旧陸軍兵器支廠で1909年からの竣工。竣工年は,現在の東京の工芸館の建物の1年前からという奇遇です。なお,この建物はもともと芸術に縁のある用途で,県立歴史博物館になる前は,金沢市立金沢美術工芸大学の校舎でした。

f:id:KQX:20160402010143j:plain

明治末期からの建物が,すでに100年以上,戦災にあわず移設もされず,この場所に維持されています。おおむね同じ様式で3棟とも重要文化財なのは,全国でここだけです。

横から見た写真でわかるように,洋館なのに屋根が釉薬による光沢のある黒い瓦で,金沢周辺に独特な建材だとわかります。屋根瓦の色は意外と地域性の強いもので,それが旅先での建築めぐりの楽しみの一つ。金沢の屋根瓦が黒い理由は,屋根の雪を早く溶かすためといわれます。

f:id:KQX:20160402011356j:plain

明治から現代までの景観を撮れるロケ地にも

機会をみてじっくり撮影してみましたが,許可が下りればよいロケ地です。

背景にビルや公道が入らない構図が多くとれる。電柱と電線がまったくない。3棟並列のため,建物の間や重なりを利用した構図や,順光と逆光両方を試せる。晴天なら黒い瓦が照り返す。周囲が公園で,車の通行が駐車場の出入りだけ。前面にアスファルト舗装や白線がない。明治から現代までの建物の設定が可能で,様々な人物や衣装と調和する。

これらは別の話になるので,そのうち記事にしてみます。

用意されるのは右隣の土地

新工芸館となると,この建物を使うのではなくて,この写真の右奥。元の加賀本多博物館(旧藩老本多蔵品館)の跡地と,文化財修復部門の入る石川県庁出羽町分室の位置が建設候補地のようです。そこを最近撮った写真では,こうなります。

f:id:KQX:20160331020312j:plain

写真の奥の白いフェンスに囲まれた位置です。旧本多蔵品館の位置で,それがこの赤煉瓦の建物の一棟に移転して,広い土地が空いたもの。右の木の奥に隠れている建物が,現在の石川県庁出羽町分室です。

建設可能な敷地面積は,現在の北の丸公園の工芸館よりもかなり広いですから,里帰りとなる所蔵品も含め,とくに常設の展示品が大幅に増える効果がありそうです。

隣接する美術館は一定の入館実績

ちなみに,この敷地一帯で入館者数がもっとも多いのは石川県立美術館で,2015年に444,309人。次いで先ほどの赤煉瓦の県立歴史博物館で,リニューアル後の2015年4月から12月の9か月で157,575人,徒歩10分圏の金沢21世紀美術館は方向性は違うものの,2015年で2,213,780人です*2。いずれも,現在の東京の工芸館の入館者数を上回っています。

徒歩圏に江戸時代の重要文化財も

この本多の森は,特別名勝・兼六園の隣地でもあり,重要文化財・成巽閣(せいそんかく)が徒歩3分くらい。

f:id:KQX:20160402052933j:plain

幕末の建造になる,加賀藩主前田家の奥方御殿です。

f:id:KQX:20160329040038j:plain

中間に柱のない軒を,てこの原理で支えるという,当時としては凝った建築技法で,仕切りを最小限にして,庭を横に見通せる工夫です。

f:id:KQX:20160329040817j:plain

江戸時代の建築だけでなく,造園技術さらに灯籠や蹲も含めて,この風景の成立も,日本にしかない工芸の1つでしょう。

徒歩圏に美術工芸品と建築・庭園が集積

観光向けには,過去記事の以下のルートの散策が,徒歩5分から10分圏という利便性です。滝の流れる美術の小径を下れば,21世紀美術館へも徒歩10分程度。

なお,県立美術館も中村記念美術館も,展示品の写真撮影はほとんど不可なので,記事の中身はお散歩ですが,参考までに。

そういうわけで,移転先の候補地には,江戸時代と明治時代の重要文化財の建物2組,江戸時代作庭の特別名勝の庭園,さらに県立美術館の所蔵品に国宝2点が集積しています。また,ジャンルは異なりますが,認知度の高い21世紀美術館や現代建築の試みといえる鈴木大拙館も徒歩10分圏で,工芸館と相乗効果のある文化ゾーンが形成されていることが,集客に活かされそうです。

*1:北室南苑,『雅遊人細野燕台-魯山人を世に出した文人の生涯』,改訂版,里文出版,1997.

*2:博物館・同類似施設・兼六園の入場者数(金沢市)

21世紀美術館のカフェレストラン・フュージョン21は,全面ガラス張りの開放感

21世紀美術館周辺のカフェの紹介,今回は21美の中にあるカフェレストラン・フュージョン21です。周辺の他の店の過去記事は,下にまとめました。

平日なら落ち着いているフュージョン21

21世紀美術館の広坂交差点側の無料エリアにあって,外周が天地ガラス張りなのが気持ちのよいところ。

f:id:KQX:20160217161031j:plain

さくさくシューと各種ロールケーキが売りのメープルハウスの出店です。土日ではランチを中心に列ができているものの,平日の昼以外なら,写真のように落ち着いた雰囲気に戻っています。

店内の中央には,長く続く円弧状のハイテーブルに,ハイチェアが向かい合う席。奥と壁側には,背面ソファのゆったりしたローテーブル席と,使い分けられています。

ハイテーブルの席に座って,入口方向を振り返ると,21美館内を通して外が見えます。21世紀美術館は円形で,外周はドア部など以外,ぐるっとこのガラスです。

f:id:KQX:20160217162528j:plain

天井高が普通のビルの2倍はあって,季節それぞれに開放感を与えています。写っている横向きのテーブルとお皿は,ランチで前菜がビュッフェスタイルになるときのものです。

なお,写真奥の大通りの左端あたりが,兼六園下・ひがし茶屋街方向への周遊バス左回りの広坂バス停です。金沢駅へは,能楽美術館側(しいのき迎賓館向かい)の広坂バス停の方が頻発していて,早く着きます。ちなみにタクシーは,建物反対側の市役所口に付け待ちのいる乗り場があるものの,この周遊バスのバス停そばでも拾えることが多いです。

さて,店舗奥方向へは,ハイテーブルがこのように続いています。

f:id:KQX:20160217163834j:plain

右奥の雪吊りは兼六園真弓坂口のもの。ここから兼六園まで,徒歩2分くらいです。21美と兼六園の間を徒歩で済ませると,バス待ちの時間も省けます。

地面から生えている,もしもしできるラッパみたいなのは,Florian ClaarのKlangfeld Nr.3 für Alinaアリーナのためのクランクフェルト・ナンバー3)。隣とつながっているわけではなく,遠くのどれかとつながっているので,プロポーズなどしないように,というほどカップルは多いですね。

さて,カフェメニューには,ケーキが一通りと,パフェも。

f:id:KQX:20160217170041j:plain

色のついた円形のガラスは,Olafur EliassonのColour activity house日本語)。光の三原色ごとにガラスの層を渦巻き状に重ねたもので,中に入っていくと思わぬ色になるために,撮影スポットの定番の1つ。この部分は門のない屋外で,休館日や開館前の時間でも楽しめます。

なお,右奥に見える神社は石浦神社。その前が,反対側の広坂バス停。周遊バス右回りが発着し,金沢駅兼六園口(東口)3番乗り場のすべてのバスも,そこへ着きます。

f:id:KQX:20160217172046j:plain

自家製ジャムを使ったというパフェは,イチゴのこくが濃厚。外の光景と合わせて,SNS時代に受けそうなテーブルです。外で変なポーズをとれば,料理とあわせて写真にできるはずですが,それは空いた時間にほどほどにお願いします。

向かい合わせの長いテーブルなので,混んでいなければ,こうして一人でも,窓側が見通せるのがよいつくりです。

食後に館内を鑑賞

館内は,撮影できるものとできないものに分かれているので,注意が必要です。ひとまず無料ゾーンの代表作を。

先ほどのパフェから1分もかからない,Leandro ErlichのThe Swimming Pool。

f:id:KQX:20160217172946j:plain

現場ではじめて作品を観ることに意味があるので,公式の解説ページへのリンクも貼りませんでした。ひとまず,上部は無料です。中は水着持参でタオル付き,レンタルもあります。ジョークですよ,ジョーク。

何度でも行ってしまうのは,上からは中の人の様子が,水中からは上の人の様子が作品の一部となるからでしょう。

次にわかりやすいのは,Jan FabreのThe Man Who Measures the Clouds雲を測る男)。

f:id:KQX:20160217173408j:plain

モチーフは,悲しい実話をもとにした映画だそうですが,科学の基本である測ることの意味を考えさせてもいます。たまに動いているとか,今日はお休み,というのはジョークです。

James TurrellのBlue Planet Sky日本語)。自動ドアの中(というか外)に独立した,タレルの部屋という扱いです。

f:id:KQX:20160217180358j:plain

この内部をうまく撮るのはコンデジでは無理で,広角レンズが必要です。いろいろ撮ってはみたものの,作品の意図をコンデジの写真で伝えるのは難しいです。状態が天候次第なのも面白いところで,ぜひ現場でどうぞ。

ランチは前菜がビュッフェスタイルで,それ以外にアラカルトも

ランチタイムは,前菜がビュッフェスタイルで,メインだけオーダーするもの。最新のメニューはお店のトップページで確認を。

f:id:KQX:20160410022424j:plain

その他は,下のようなアラカルトがいつでも食べられます。

f:id:KQX:20160217182717j:plain

時間をずらした食事でも,しっかりしたものまで食べられるのは,とくに旅行に好都合。

ディナータイムまで通し営業なので,ドリンクはアルコールまで手広く多様。

f:id:KQX:20160217223311j:plain

それで,昼下がりから,いい具合に酔うこともできます。ワインもこんな感じで揃えられていて,そこも現代の美術館のスタイルです。

f:id:KQX:20160217224045j:plain

和カフェ・つぼみから,金沢城の外堀にあたる外惣構に沿って21世紀美術館へ

このブログを続けて気付いたのは,21世紀美術館とカフェを組み合わせた検索が多いこと。旅先で甘いものが食べたくなる気持ちは同じで,よく知られている店でも,1ページずつ作っておこうと思います。このお店を含むリストはこちら。

料亭の葛きりが定番の和カフェ・つぼみ

こちらは21世紀美術館・市役所口から徒歩2分ほどの和カフェ・つぼみ

f:id:KQX:20160129013909j:plain

市役所の裏手へ回り,用水の流れに沿って柿木畠の小路に入って右手1軒目です。犀川沿いにある料亭・杉の井が営む店としても知られています。

この小路周辺は,昔から深夜まで営業する飲食店が集まっているところ。飲食店の新店は金沢駅周辺の方が増えている中で,いたるあまつぼなど,地元客・旅行客ともに長く繁盛していて,おすすめできる居酒屋がある通りです。両店とも,ここから徒歩1分くらい。

店の中は,両脇に少人数用のテーブル席,真ん中に一枚板の大机に向かい合わせの席という配置です。

f:id:KQX:20160206161905j:plain

定番は,こちらを営む料亭の会席料理に合わせられていた葛きり。しかし現在では,広く受けそうな抹茶パフェなどの方が出ているしょうか。

f:id:KQX:20160129015311j:plain

あんみつなどでは,つぶあんとこしあんを選べるのがよいです。和菓子好きに応える心遣い。

季節物として,夏はかき氷,冬はぜんざい系があるほか,葛きりとぜんざいとを組みあわせたセットなども用意されています。

f:id:KQX:20160202115033j:plain

店の奥に見える石垣は,金沢城の外郭に防衛のため二重に作られた堀・惣構(そうがまえ)の外側のもので,外惣構(そとそうがまえ)と呼ばれるものです。後で散歩することになる上流から,当時と同じ天然の水源の用水が流れています。

外惣構という堀の石垣を背景に,甘味が揃う

さて,抹茶パフェはこのような具合。

f:id:KQX:20160206162027j:plain

抹茶アイスと白玉の下に,寒天とつぶあんをいい具合に合わせた層があり,よくある抹茶アイスだけのものよりも和の味覚。葛きりが定番の店だけあって,寒天の扱いがうまくはまっています。上の蕎麦ぼうろも,素朴な香ばしさを添えるアクセントです。

初夏の別日は,かき氷を。

f:id:KQX:20170619234152j:plain

 

ふんだんに盛られたかき氷も,甘味をいくつか厳選してあって,こちらはいちじく。ほかに,苺のあまおうなどもあります。ほどよく果肉が残り,おだやかな酸味が広がります。

最後に,こちらのスペシャリテの1つ,葛きり。本店というか,料亭の杉の井で食べたときの写真でどうぞ。

f:id:KQX:20160207074231j:plain

派手さとは方向性を異にした,甘味の原点です。よく,日本料理は引き算だと言われますが,これは甘味の引き算の体現でしょう。

外惣構の下流は鞍月用水として東急ホテル西側へ

お店の奥に流れる外惣構を,21世紀美術館側から見ると,写真のように飲食店などの裏を抜けて街中を抜けています。

f:id:KQX:20160206165533j:plain

写真左手の1軒目がつぼみ,右手が金沢市役所という位置です。この堀は,この先は鞍月用水として,繁華街・香林坊の香林坊東急スクエアの南側から金沢東急ホテル西側へ回り,長町武家屋敷の入口にあたるせせらぎ通りの脇を流れます。下流方向へ長町武家屋敷まで,15分ほどの散歩でたどり着けます。

石垣は江戸時代初めの完成

この石垣は,江戸時代のはじめ1610年の完成で,400年超の歴史です。実は,眺めている外怱構より先に完成した内惣構を作ったのは,意外にも日本史の教科書に現れるキリシタン大名の高山右近で,この石垣の設計もその影響を受けています。

高山右近は大阪生まれ。高槻城主である一方で教会を設立して布教活動をしていたのですが,36歳のとき,豊臣秀長から畿内追放,親しかった加賀藩前田家預かりとなって金沢へ。与えられた最初の屋敷が,現在の21世紀美術館の敷地というのは歴史の奇遇ですが,金沢城・兼六園に隣接した場所に屋敷を与えたのは,歓待の現れ。複雑な事情はあれ,よく大阪からいらっしゃいました,ということでしょう。

その後,26年あまり,金沢城の修繕と内惣構の造営,お隣の高岡城の築城などの業績を残しつつ,金沢・七尾・高岡などに住んでいました。しかし,63歳の時,徳川家康による禁教令で国外追放処分。金沢からまず京都に護送され,長崎を経てマニラに旅立ちます。それは,またの機会に。

上流の左側は21世紀美術館とその散策路

同じ地点の道路の反対側から上流の写真を撮ると,奥の森からのストレート。

f:id:KQX:20160207010750j:plain

左側一帯は21世紀美術館,ただしこの堀が掘られたころは高山右近の屋敷です。右側は,加賀藩筆頭家老の本多家の下屋敷一帯,のちに加賀藩家老横山家の子孫の邸宅・旧横山邸と現石川県知事公館。この部分にまっすぐ堀が引けた理由もわかります。金沢城を中心とした城下町が形成された江戸時代から現在まで,この周辺は金沢の要所です。

もともと左側に住んでいた高山右近の娘・小菊(洗礼名ルチア)が,その横山家に嫁いでいたりと,これも話が長くなるのでまたの機会に。

21世紀美術館の外惣構脇には茶室が

現在の21世紀美術館は,周囲も無料で通り抜けできる開放的な施設で,この堀の左側に写真のような散策路が続きます。

f:id:KQX:20160207042205j:plain

雪吊りの施された木は,21美敷地内にある金沢市営の茶室・松涛庵と山宇亭。

f:id:KQX:20160207045139j:plain

とくに手前の松涛庵は,前田家12代藩主・斉泰が幕末に建てた江戸・根岸の別邸を,いったん鎌倉を経て移築したものと,長い歴史の遺産です。

21美を訪れる旅行客には気付きにくいこの茶室,茶道などの用途に限り,有料で貸切利用できるものです。松涛庵だけは,その利用がない昼間だけ,一般の見学ができるようになっていて,撮影は自由。

茶室の松涛庵から21世紀美術館の丸いガラスの外観を望むと,こんな感じ。

f:id:KQX:20160207044353j:plain

こういう構図が21美の敷地内で撮れることは,あまり知られておらず,工夫のしがいもあります。

奥に見える21世紀美術館内のカフェレストラン・フュージョン21は,これもまた定番ですが,これも長くなるので別記事として,今回は堀の源流へ。

源流は旧中村邸の奥

この外惣構を,周遊バスのルートである大通りを渡って上流に進むと,地図では源流に。それは本多の森と言われています。ただし,公道からは流れをすべてはたどれません。

おそらく,この灯籠の下の用水が,支流かもしれませんが,外惣構の起点に近いところ。

f:id:KQX:20160207052455j:plain

灯籠で予想できるように,これまた金沢市営の茶室・旧中村邸で,中村記念美術館の一部です。

f:id:KQX:20160207053637j:plain

茶会等で貸切利用はできるものの,普段は非公開で,年数回ほどのイベント時にだけ公開されます。上の灯籠の庭も,そのときに撮った写真です。

美術の小径の滝を登ると

この用水には,後年に,崖の上からこの滝をつないでいます。

f:id:KQX:20150904133055j:plain

昔の記事に載せた写真でもありますが,その上流はこうなっていて‥

f:id:KQX:20150904131516j:plain

流れをさかのぼると,またスイーツ

その木橋を望むのが,以前紹介したこちら。

f:id:KQX:20150904115306j:plain

ということで,用水の源流には,本多の森の上に建つ石川県立美術館。水の流れは,21世紀美術館の西側を通り,つぼみまでつながっています。

やはりそこにもスイーツがあって,ここまでゆっくり歩き通しても,街なかを20分。消費したカロリーだけ食べられるスイーツ・オリエンテーリングにはよい街です。ようやく落ちにたどり着いたところで,まとめ。

せせらぎにスイーツあり

この外惣構を下流に進むと鞍月用水と書きましたが,それに沿って橋を掛けた飲食店が並ぶのが,せせらぎ通りです。金沢東急ホテルの西側の裏手。先ほどの水は,ここを流れています。

f:id:KQX:20160207073224j:plain

写真には,一部の品でカカオ豆の焙煎から手がけている,ショコラトリーのサンニコラ。こちらも地元のチョコレートでは定番ですが,長くなるのでまたの機会に。

進化する金沢のPV:178万回再生の男性一人旅,419万回再生のダンスで巡る金沢ほか

新幹線開業で増えたプロモーション・ビデオやCMですが,公開2か月で再生回数135万回を超えたCMが現れました。それから2年,金沢市が制作した,ダンスで巡る金沢の古くて新しい風景が,再生回数419万回まで増加。市のイメージビデオとしては,傑出した再生回数にまでなっています。

キャスティングに新しさ:外国人男性の一人旅

新幹線開業後につくられた動画で,いち早く急速な再生回数になったのは,キヤノンが一眼レフでの撮影をプロモートするものです。公開2か月で再生回数135万回を超え,金沢に関する動画では当時としてダントツの再生回数。現在は,178万回に到達しています。

SightShooting at KANAZAWA, Japan|キヤノン

特徴は,外国人男性の一人旅金沢という設定。素朴なハプニングもおりまぜての自然な流れです。似たような設定のプロモーションビデオに比べても再生回数が多いのは,英文の説明があるだけでなく,やはりキャストがイケメンだからでしょうね。

金沢の旅行客は,若い年齢層では女性が多く,これまでの観光プロモーションビデオでは,おもに女子旅が撮られていました。それを,あえて男子ひとり旅にしたところが,再生回数が伸びた理由の1つと思います。

特徴的なのは,ひがし茶屋街の鮨店・みつ川で,かにの甲羅に盛られたちらし鮨と,しそを挟んだいかの握りの仕事を撮影するシーン。さらに,主計町かずえまち茶屋街のあかり坂に続く,ごく狭い路地も写しているのが,写真撮影をテーマとした作品ならではです。

定番の女子旅ものと好対照

新幹線開業前の金沢市のプロモーションビデオは,まさに女性のひとり旅を回想風にしたもの。四季の美しさをつなげる王道路線で,見比べると面白いです。

ひがし茶屋街,21世紀美術館,兼六園・金沢城と定番の展開。オリジナルの音楽とあわせて琴線に触れます。

金沢市の新しいPVは419万回再生へ

そして,新幹線開業後2年。金沢市が全く別の構想で作ったのがこちら。

江戸時代から続く歴史的な街並みや庭園に,新しい建築と芸術がクロスオーバーする金沢を,軽快なダンスで巡ります。兼六園や金沢城,21世紀美術館,茶屋街,鈴木大拙館などの定番が,全く違う風景に見えてくるもので,映像表現の進化を感じます。

そして,再生回数は419万回へ。市が作るプロモーションビデオとしては,まれな再生回数に達しています。

ありそうでなかった組み合わせ

レッツノートSZシリーズ|パナソニック

最近の企業CMでは,風景だけでなく,出張や旅行のストーリーにのせています。こちらは,比嘉愛未さんをメインキャストに,女性・出張・金沢の組みあわせが新しいところ。金沢の仕事と夜のシーンと,新幹線で帰るシーンの2本がありました。

金沢では,加賀友禅会館,長町武家屋敷,ひがし茶屋街で醤油ソフトを通過?仕事を終えた夜は鮨店と,飽きさせない展開。帰りは,おみやげに和菓子を買って,新幹線の車内でこのノートパソコンならではの落ちです。

しかし,残念ながら,公式チャンネルでは公開終了しています。

トヨタレンタカー|トヨタレンタリース

松下奈緒さんをメインキャストにした母娘の旅行で,金沢から能登の温泉旅館に向かうストーリーでした。しかし,こちらもYouTubeでの公開は終了しました。

最後に登場する宿泊先は,能登半島の先端・珠洲市。日本海に張り出して,洞窟風呂もあるランプの宿です。たしかに,金沢駅からだと車が便利な絶景宿です。

女子旅もカジュアルなものが

女子旅のストーリーでも,モデルコースではなく,ふらっと一人旅で自然な街歩きといったCMが増えています。

旅茶列島|ポッカサッポロ

ひがし茶屋街の定番である茶房一笑のほか,一人旅でも近江町市場。さらに,七尾湾沿いを走るのと鉄道が組合わされているのも,面白いところです。

ELLE Local vol.3 Kanazawa|ELLE Japan

フランス創刊のファッション雑誌ELLEの日本版が,あえて国内の旅やアイテムを取り上げるシリーズの三作目。ちなみに,二作目は尾道でした。

ひがし茶屋街・主計町茶屋街と21世紀美術館の定番スポットだけでなく,カフェ,工芸品,宿泊できる町家などの名店や新店をちりばめた内容。各スポットの映像が次々と流れる,ポップな展開です。エンディングも,多様な顔を見せる現代建築・鈴木大拙館の水鏡の庭を,明るく仕上げたもの。

知られざる仕事と語り

Xperia|ソニー

スマートフォンのユーザーが,日常で役立つシーンを語るシリーズの一作。その中でも,もっとも異色の仕事の一つ。金沢からは芸妓さんで,他にないシーンを見せています。ただし,公開が終了してしまったのは,惜しいところです。その代わりといっては何ですが,同じ芸妓さんが出演している,現在公開中の作品を。

EOS C100 Mark II 「金沢 加賀友禅」|キヤノン

芸妓さんの所属する主計町茶屋街の前を流れる浅野川での,加賀友禅の友禅流しの風景。そして,繊細な手作業になる染付の様子。

加賀友禅を着こなすその芸妓さんのシーンもあわせ,この街に息づく工芸と美意識が織り込まれます。

外国人向けに意外な展開

外国人向けのCMにも,金沢が登場するようになりました。日本旅行で京都・金沢・広島へ足を伸ばしても,American Expressが使えますという内容です。

Japan Welcomes You with American Express Vol.2, Traveling to Kyoto, Kanazawa, Hiroshima

アメリカからの観光客が好む,京都や広島とのセットで紹介され,"Kanazawa is a must-see destination made more accessible with the Hokuriku Shinkansen." との説明。

まず,兼六園の入園料をアメックスで払った後(本当に払えます),サムネイルにある近江町市場の海鮮丼(カード利用は店によるので注意)を食べ,金沢市郊外・深谷温泉の元湯石屋で温泉に入るという,意外性もある展開です。

定番のプロモーションビデオも進化

公的機関のプロモーションビデオも,景観を並べるだけから,ストーリー性を考えたものに進化しています。一日の時間軸で,いしかわの景観とそれぞれの暮らしを繋げたスタイルが,以下の新作。

Good Morning ISHIKAWA | 石川新情報書府(石川県)

最後の最後1秒ほどのシーン,つるつるになってるところで滑ってみるの,やってしまうんですよ。なんでやろ。

昼下がりから夜へは,Good Evening ISHIKAWAを。

Good Evening ISHIKAWA | 石川新情報書府(石川県)

隠れたポイントは,水揚げされた魚介類を朝だけでなく,夜も競りにかけること。これが魚の鮮度の秘訣。映像は橋立港ですが,金沢港など他の港でも行われています。

YouTube以外にもCMが

AdobeのFlashによるCMも,各社のサイトから提供されています。そちらは,外部リンクしかできませんので,以下へどうぞ。スマホでは,環境により視聴できません。

JR東日本・大人の休日倶楽部|吉永小百合

JR西日本・おとなび|伊藤蘭(CMは公開終了のため,撮影風景のページ)

JR西日本・北陸新幹線旅情編|仲間由紀恵(公開終了)

イオンカード・お出かけ編|蒼井優

穴場スポットを蒼井優が一人旅

このうちイオンカードのものは,他のCMとは違って,定番でない穴場スポットを回っています。白山比咩しらやまひめ神社,21世紀美術館のカフェレストランfusion21,長町武家屋敷から古書店・オヨヨ書林せせらぎ通り店と知られていないコース。

金沢で日本海の砂浜・乗馬のシーンを発掘

極めつけは,ヴィテン乗馬クラブ・クレイン金沢の日本海の砂浜での外乗。1日体験などがあるのに,観光では知られていないスポットで,ここも金沢市です。綺麗な映像になるのに旅番組ではまず出てこない場所で,いい仕事。そして,旅館の庭を歩き,エンディングは犀川大橋から暮れなずむ犀川上流の景色と,他にない素材が続く30秒です。

開業前のビデオも過去記事で

新幹線開業前に作られた,金沢市や日本旅行業協会などのプロモーション・ビデオは,過去記事で紹介していました。

先ほどの女性ひとり旅の設定のほか,冬の積雪の中の21世紀美術館の映像はこちら。

石川県内の観光スポットを,カチカチと巡るのはこちらです。

主計町やひがし茶屋街の行き帰りに,金沢美大・柳宗理記念デザイン研究所

戦後日本を代表するインダストリアル・デザイナー

どこかで見たことがありそうな,下のバタフライスツールが,柳宗理氏の代表作。

f:id:KQX:20151028092256j:plain

ニューヨーク近代美術館MoMAとパリのルーブル美術館に所蔵という,当時の日本のインダストリアル・デザインのはしりです。現在もふつうに生産・販売されている商品のため,撮影ができます。

f:id:KQX:20151109003920j:plain

蝶の羽の形状というのですが,思い出すのは中括弧 { 。これをπ/2だけ回転すると,この椅子の上面になります。包み込む形状で普遍的なものということでしょうか。

その柳氏が,金沢市立金沢美術工芸大学教授だったことから設立された記念施設。名称は,金沢美術工芸大学柳宗理記念デザイン研究所です。

f:id:KQX:20151031001456j:plain

場所は後で書くように,ひがし茶屋街や主計町(かずえまち)茶屋街に最寄りのバス停のある橋場町交差点すぐ。

あれ,この外観はと気付かれた方は同世代の方で,ここはもと和菓子の森八本店。その本店は,徒歩3分ほどの,大樋美術館斜め向かいに移転・新築されています。新しい森八本店は,このような外観で,2階を和カフェと菓子木型美術館にしています。

f:id:KQX:20151109011356j:plain

テーブルウェアをコンパクトに展示して,入場無料

元に戻って,柳宗理デザイン研究所ですが,1階左手のこぢんまりとしたスペースに,氏がデザインしたテーブルウェアなどを並べて展示。展示品の規模や,金沢美大の社会貢献も兼ねていることもあり,入場は無料で一般に公開しています。

f:id:KQX:20151031005257j:plain

テーブルウェア全般に,安らぎを与える自然な丸み。

f:id:KQX:20151031005505j:plain

バターナイフはふっくらと。

f:id:KQX:20151031011612j:plain

いずれもシンプルなのに,存在感のある外観が特徴でしょう。

f:id:KQX:20151031010008j:plain

個人的には,これでカフェ営業でもしたらよいのではと思うところ。テーブルウェアと食とは,互いを求めて成り立つものですから。

自動ドアの赤い手のサインは柳氏のデザインでした

f:id:KQX:20151031015600j:plain

日本全国どこでもよく見かけた自動ドアの赤い手形と独特のロゴ。これも,柳氏の作品で,おそらく認知度のもっとも高いものかもしれません。こういう,誰もが知っている作品があるといいですね。

泉鏡花記念館に通り抜け可能

f:id:KQX:20151031020854j:plain

この建物の裏側は,独特の幻想文学を築いた作家・泉鏡花の生家跡に設けられた泉鏡花記念館

f:id:KQX:20151031021500j:plain

ここを出ると,父子像と長い椅子のある中庭へ。

f:id:KQX:20151028015212j:plain

記念館内には,初版本や直筆原稿などが展示されています。

暗がり坂から主計町茶屋街へ

その泉鏡花記念館の裏手は,神社・久保市乙剣宮(くぼいちおとつるぎぐう)。その境内の右奥から,泉鏡花も小学校への通学に使ったという石段の坂・暗がり坂が続きます。

f:id:KQX:20151028011708j:plain

なんだか尾道風ですが,より陰翳のある景観。下りたところは主計町茶屋街に。

f:id:KQX:20151028012613j:plain

この風景を幼少期に眺めていれば,ロマンチシズムが芽生えるのもわからなくはないです。ここまで徒歩2分ほど。

主計町茶屋街はひがし茶屋街と違って,昼営業の飲食店があまりないために,ときおり街並みを撮影される方ぐらいで,ひっそりしています。

なお,上の写真正面の建物は,晩年を金沢で過ごした版画家・故クリフトン・カーフの旧自宅兼アトリエで,現ギャラリーです。

ここまでの位置関係は,こちらのマップの左下のあたり。

徒歩5分でひがし茶屋街にも

上の地図で,浅野川大橋を北側へ渡れば,下の写真でおなじみの,ひがし茶屋街へも徒歩5分ほど。

f:id:KQX:20151016113833j:plain

こちらは,金箔ソフトからカフェ、レストランまで集積して,茶屋街にして昼から賑わいです。そちらの内容は,過去記事を。

南側に3分程で大樋美術館と寺島蔵人邸,森八本店と和カフェが

逆に,橋場町交差点を南側の兼六園方向に進むと,料亭・金城楼まで徒歩2分ほど

f:id:KQX:20150918010324j:plain

末広がりの枝ぶりの槙を眺めつつ,この時期は蟹を温かいジュレがけで。手前の香箱蟹には内子と外子を下に忍ばせてます。

ずわい蟹と香箱がにの温かいジュレがけに内子・外子を忍ばせる(金城楼・金沢市)

その南隣は,茶道具で重用される大樋焼で,文化勲章受賞作家の窯元・大樋美術館。ここまでも徒歩2分。

f:id:KQX:20151109021038j:plain

大通り向かいの小路を南下すると,徒歩3分ほどで,江戸時代建造の武家屋敷・寺島蔵人(くらんど)邸。武家屋敷というと長町の方が有名ですが,こちらは一棟だけでひっそりと。

金沢市の武家屋敷・寺島蔵人邸

庭の右上に見える明かりが,冒頭で写真を貼った森八本店の2階の和カフェで,こちらのお庭を借景にしています。疲れてもお茶には困りません。

f:id:KQX:20150921001641j:plain

以上全部徒歩5分圏と,気ままに歩けるエリア。次の観光スポットへも好みに応じてどうぞ。

本多の森散策の最後は,静寂の水面に物想う鈴木大拙館

過去記事からの,県立美術館→中村記念美術館→松風閣庭園→鈴木大拙館と食べて散策する最終回。その過去記事とルートはこちらに。

各色5分程度の散策路で,松風閣庭園から戻りつつ,最後は2011年開館の鈴木大拙館(すずきだいせつかん)へ。

なお,直接のアクセスは,周遊バス左回りでも右回りでも,本多町バス停から徒歩約5分。21世紀美術館からは徒歩10分程度です。

静かな水面と森を見つめる鈴木大拙館

禅の精神を英文の著書多数などで世界に広めた,この近隣出身の仏教哲学者・鈴木大拙を記念する施設。注目されるのは,設計がニューヨーク近代美術館MoMAの新館などで知られる谷口吉生氏である点でも。

f:id:KQX:20150929003816j:plain

今の金沢で,もっともターゲットを絞ったスポットでしょうか。直線を主体に,余計な装飾をしない現代建築。本多の森を借景に小刻みに揺れる水面に無常を見せるつくりです。にぎわいや驚きとは真逆の,ひたすら静かな空間。奥には思索のできるベンチを。

壁の左下には「穴」。左面には,スリットから水面に張り出した踏み石が見えます。

f:id:KQX:20150929004038j:plain

左の山手が県立美術館のある高台。歩いてきた経路は,左の壁の外の奥の方から手前にです。また,前記事の松風閣庭園は,左の壁の外側一帯。

左隅に寄って撮ると,建物の出入り口が見通せて,不思議な構図が。

f:id:KQX:20160527013926j:plain

元に戻って,スリットの外の踏み石から見ると,こんな風景。

f:id:KQX:20150915022252j:plain

奥の「穴」の向こうには,つくばい様の石が,なぜか三角形のくぼみに水をたくわえます。写真左側の灯りは,展示物のある館内です。

f:id:KQX:20150915011253j:plain

室内はこのようなつくり。上部はコンクリート打ちっ放し,開口部は閉まる扉を備えた黒,床は木と,色調をかえています。境界部分には間接照明を。

f:id:KQX:20150929012758j:plain

そのベンチから外を眺めると,幾層にも切り取られた風景が。

f:id:KQX:20150929033620j:plain

天井には,丸い明かり採りを。

f:id:KQX:20150929033315j:plain

森と水面が壁で仕切られ,さらに開口部に切り取られます。

長い間隔の水の吹き出しが波紋を広げる

さて,先ほどの穴の所を眺めていると,数分は待つようなかなり長い間隔で,同じ場所から水がぼこっと吹き出ます。それでたまに波紋が広がる仕掛け。

f:id:KQX:20150929013848j:plain

何の予兆もなく吹き出し,波紋が広がり,また元に戻る。それが禅の研究と啓蒙を記念するこの建物のコンセプトのようです。

そこで,金沢の他の施設に比べ,入館者に欧米からと思われる外国人比率は高く,トリップアドバイザーのエクセレンス認証の盾が。

f:id:KQX:20151001181832j:plain

気付いたのは,この施設の,構成としての美しさ,とくに,わずかに波立つ水面と建物の関係は,もっと広角でないと一枚に収まらないこと。手軽なデジカメではこれが限界です。きれいに撮るなら,スマホやコンデジではなく,より広角のレンズが必要です。

また当然ながら,にぎやかなところや驚かせるものが好きな方には向いていません。たとえば,枯山水の庭を眺めて,しばらく考えられる方なら納得できる施設。

その枯山水なら最高の知名度と思われる京都・龍安寺の石庭も,後ろを観光客が絶え間なく通り過ぎるのが現代で,往時の目的を果たせなくなっています。こちらは街なかながら,現在も沈思黙考に応える空間。にぎわいとは別の価値があることを認識させられます。

ずっと眺めていても,あの噴き出しと波紋に気付く人は少ないのですが,それでいいのでしょう。

なぜ谷口吉生氏の設計なのか

それは,谷口吉生氏の父も建築家で,金沢市出身の谷口吉郎氏だからです。その代表作は,帝国劇場東京国立近代美術館,ロビーが特徴的で建て替えが惜しまれた旧ホテルオークラ東京本館など。これから金沢市寺町に,谷口吉郎の生家を記念する施設をつくるそうで,開館したら行ってみたいものです。

建築が好きな人に知られているのは,父子で共同設計した唯一の作品と言われる,金沢市立玉川図書館。以前記事にした,旅行での選択も多い老舗料亭つる幸の2つ隣です。

またその徒歩圏には,金沢で暮らす人にはなじみ深い風景になっている作品が。それは,旅行者も多くが目にしている,近江町市場対面にあるデパート・めいてつエムザと上階のホテル・ANAホリデイ・イン金沢スカイ。これが父の谷口吉郎建築です。

低層,中層,高層階をあえて不均斉にすることで,広がりと伸びを感じさせるスタイル。よく見ると,高層部が中層部から右側にはみ出して建てられています。

面白いのは,この交差点に向かう2方向,香林坊からも,ひがし茶屋街からの帰路になる橋場町からも,この高層部が正面に見えること。角地に普通に高層ビルを建てただけでは,2方向の道路から正面に見えないはずで,どこをどの向きに高層にするか,よく考えられた設計です。

ホテルオークラ東京も,改築は谷口吉生氏に任され,親子継承に

なお,父の谷口吉郎氏が設計して,今年改築のために取り壊されたホテルオークラ東京本館は,長男である谷口吉生氏の設計で再興されることになりました。

親子で共同設計した唯一の作品・金沢市立玉川図書館に対して,今度は改築を親子リレーでというケースで,興味深い展開です。ロビーの輪島塗のテーブルも再利用されるとのことで,石川ゆかりの品も継承されます。