北陸新幹線で行く,はじめての金沢

お庭,お菓子,お魚,お酒が揃う城下町をまわるため,金沢出身・東京在住者が往復しながらヒントを書いていきます。

ひがし茶屋街に女子高生・斉藤由貴が下宿し,柳葉敏郎に恋する31年前の映画「恋する女たち」

2017年度から,フィルムツーリズムに力を入れるという金沢市。今から31年前になろうとする1986年,この間の歳月を忘れさせるほどのキャストで,金沢で撮影された映画がありました。この映画,Amazonでは予告編まで無料で進め,購入はその先です。

恋する女たち

金沢を舞台に、恋に悩む3人の女子高生を描いた青春ドラマ。氷室冴子の原作を大森監督が温かな視点で映画化。(C)1986 東宝

原作:氷室冴子,監督:大森一樹,出演:斉藤由貴柳葉敏郎高井麻巳子相楽ハル子小林聡美ほか

丸30年を経過しても,斉藤由貴さんはもちろん,柳葉敏郎さんの「踊る大捜査線」でのブレイク,最近ではLOTO6LOTO7シリーズCMと,活躍が続いているキャスティング。また,高井麻巳子さんは,AKB48グループを統括する秋元康氏のご令室に。その皆さんが,高校生役という時代です。

この大森一樹監督,斉藤由貴主演の映画は,東宝でこの後何作も撮られています。金沢ロケを含む撮影の裏話はこちら。

無料の予告編では梅ノ橋を渡る二人が

予告編では,ひがし茶屋街の近くで浅野川を渡る梅ノ橋を,斉藤由貴・相楽ハル子のお二人が歩きます。そのアングルで現在撮影すると,こうなります。

映画「恋する女たち」や「舞妓Haaaan!!!」に登場する梅ノ橋(金沢市・ひがし茶屋街近く)

この橋は,2時間ドラマなどでも,よくターニングポイントとなるところ。歩行者と自転車専用のため,占用許可が下りやすく,木造の欄杆で車がかぶらないために,河原からの望遠も含め,さまざまな構図がとれる場所です。

梅ノ橋でのロケは「舞妓Haaaan!!!」などでも

その梅ノ橋は,京都が舞台の映画「舞妓Haaaan!!!」にも,わずかに登場します。この映画,京都では撮りにくい,狭い路地に茶屋建築の街並みが,金沢の主計町かずえまち茶屋街でも撮影され,うまくつなげられています。

舞妓Haaaan!!!

脚本:宮藤官九郎,出演:阿部サダヲ,堤真一,柴咲コウほか (C)2007「舞妓Haaaan!!!」製作委員会

無料で見られる「舞妓Haaaan!!!」の予告編では,0'10"に主計町茶屋街の暗がり坂の石段が登場。すぐ映像が切り替わり,夢の橋という名に改められた梅ノ橋を,阿部サダヲ氏が駆け下ります。0'46"の恥ずかしいシーンも,京都のようでいて,金沢市香林坊の東急スクエア前の歩道を片町方向に写したものです。

斉藤由貴が女子高生で,ひがし茶屋街の民家に下宿

「恋する女たち」に戻ると,主演の斉藤由貴が住んでいたのは,金沢でも兼六園・21美と並ぶ観光スポット・ひがし茶屋街。30年前は,現在のような和カフェもレストランもなく,芸妓さんのいるお茶屋さんだけが並んでいて,昼はひっそりしていました。

また,下宿先も,お茶屋さんではなく,ふつうの民家に縁故でという設定。それで,芸妓さんは,まったく登場しません。

金沢で展開されるシーン

1986年の金沢が映るシーンを書き出すと,以下のようです。特記のない限り,斉藤由貴さんが現れます。場所だけで,筋は伏せますが,気になる方は本編を観てからどうぞ。

1'3" ひがし茶屋街近くの梅ノ橋

3'12" 卯辰山丘陵の墓地の一角

5'22" 主計町茶屋街の小料理店(架空)

7'45" 尾山神社(風景のみ)

7'46" 長町武家屋敷跡

8'01" 片町スクランブル交差点
セブンイレブンの位置にミスタードーナツが

8'24" 香林坊の映画館・スカラ座(廃館:現香林坊東急スクエアの裏手)

柳葉敏郎氏が野球部の高校生役で登場

8'51" その映画館前で柳葉敏郎さん初登場(若すぎる)

9'47" 石川県立工業高校のグラウンドで柳葉さんが野球の守備
(背景に隣の遊学館高校の建物)

10'52" 銭湯の帰り道:ひがし茶屋街の現・箔一東山店方向から広見を経て,現・金澤東山しつらえ角を通り,下宿へ

現在,金箔ソフトクリームに列の絶えない箔一の東山店は,当時は銭湯・東湯ひがしゆで斉藤由貴さんが通っていた設定でした。

下宿前に,実家の設定である辰口たつのくち温泉の旅館・まつさき(今も実在)のポスター。旅館の組合がひがし茶屋街にあって,そこに下宿という設定です。それは,ひがし茶屋街の検番(旧来のお茶屋さんの組合)のそばにある民家です。

下宿先から銭湯への道がこの方向。奥に見える白壁で黒い瓦屋根が当時実在した東湯で,現在は箔一の東山店です。一般のお宅でない,営業店だけの構図で現在写すとこんな感じ。

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朱色の建物は金澤東山しつらえで,その奥の広くなっているところが,観光客が写真をよく撮っている広見という位置関係。映画では,この道を斉藤由貴さんが悩みつつ歩いています。

下宿先は東山しつらえの近くで,ひっそりした茶屋街

13'11" ひがし茶屋街・金澤東山しつらえを横から

13'22" 県立工業高校・遊学館高校の俯瞰

18'54" 犀川大橋を野町広小路方向に渡る北陸鉄道バスの最後列に斉藤由貴さんと相楽ハル子さん

19'12" 土塀が背景になる野町六斗広見のバス停(架空)
以前は商店があって,菓子店の諸江屋・柴舟小出などの創業の地

27'54" ひがし茶屋街のお茶屋・藤とし前から金澤東山しつらえを右折し,検番方向へ:広見の工芸品店・桃巧鶴亀あたりから撮影

35'03" 犀川左岸の河原を歩く斉藤由貴さんと小林聡美さんを,料亭・杉の井前あたりから桜橋詰まで追って

36'29" 二人の背景にW坂だぶるざか

36'43" 西インター大通りを,松島北交差点から西へ進む北陸鉄道バスの最後列に,斉藤由貴さんと菅原薫さん

36'59" 西部緑地公園の石川県立野球場前バス停(バス停は架空)に到着

37'25" 高校野球の予選に出る柳葉氏を斉藤由貴さんが応援

なぜか石川線,それも乙丸駅

42'08" 北陸鉄道石川線乙丸おとまる駅を通過する電車から小学生の遠足の光景
台本にない偶然のようで,素朴さがかえっていい感じ。

42'38" 今はなき準急白山下行の走行シーンで,車窓から外を眺める

43'38" 加賀一の宮駅(廃線区間)に到着

44'43" 実家の設定である辰口温泉の旅館まつさきに到着
(当時から車の方が早い,というツッコミはなし)

47'54" 香林坊109(現・香林坊東急スクエア)で待つ菅原氏

48'15" なぜか広坂方向からバイクで香林坊109へ到着

58'29" 県立美術館のカフェで柳葉敏郎氏と
(現在のカフェは別位置に)

1°02'52" 県立歴史博物館を背景にした県立美術館前バス停(当時は架空)

1°03'17" 柳葉氏を置いて発車するバスの背景に成巽閣せいそんかく

1°03'23" 犀川大橋を野町広小路方向に渡るバスの車内

1°03'44" ふたたび六斗広見のバス停(架空)

1°12'01" ダンスパーティーが開かれている旧・石川県立体育館(現・玉泉院丸庭園)の玄関から駆け出す

1°12'18" 金沢城石川門を出て石川橋を渡り,兼六園方向へ

1°13'09" 石川橋から斜め下,百間堀わきの沈床園に柳葉氏を目撃

1°15'32" 香林坊東急スクエア前を日銀方向へ歩く

この間,特定困難な路地と砂浜など

1°28'56" 加賀市某所での空撮を交えたエンディング
(ネタバレにならないよう,伏せます)

21世紀美術館がないのは,20世紀の映画だから

ところで,今金沢で10代が主人公の映画を撮る場合と比べて,何か足らない。そう,21世紀美術館です。二人のデートも県立美術館のカフェ(リンクは現在のもの)で,当時の店はいたって質素。

映画の設定のような県立工業高校の位置に通う高校生なら,寄り道の風景で自然なのは,21世紀美術館。その県立工業高校や写り込んでいる遊学館高校から,徒歩10分くらいです。じっさい,遊学館や同じくらいの距離にある北陸学院の高校生が,繁華街の香林坊バス停まで歩く途中,21美を通り抜ける形で寄り道しているのをよく見ます。21美は通り抜けだけなら無料で,その開放性も設立のコンセプトの1つ。

しかし,この映画では全く登場しません。撮影されたのは20世紀で,21美はありませんでした。それが,30年の経過で進化した景観です。

金沢駅は国鉄末期でスルー,協力は全日空

そして,金沢駅も出てきません。新幹線はおろか,撮影スポットの鼓門つづみもんも存在しない,高架化前の時代だから。そのかわりに,協力は全日空です。その金沢駅はJR西日本ではなく,撮影から公開までの時期,日本国有鉄道最後の年度でした。

キャストとスタッフの交通手段として,もし鉄道なら,東京からは上野駅始発の上越新幹線長岡駅乗り換えで4時間以上かかった頃*1。航空機なら,羽田空港が小さい時代で,羽田・小松便がジャスト1時間*2。その時代のロケなら,航空機が選ばれたのは当然でしょう。それに加えて,国鉄は末期で,タイアップどころではない状態だったと察します。

玉泉院丸庭園やひがし茶屋街では復元も進む

当時と変わっているものは他にもあって,ダンスパーティーが行われていた設定の旧・石川県立体育館。金沢城の石垣の中にあったものが郊外に移転,そこが玉泉院丸庭園として復元整備されました。

細かく見ると,ひがし茶屋街も,古くは江戸時代からの建物が写るほかは,道はふつうに電柱があるアスファルト舗装。こちらも,以前の美しさを取り戻すような修景が進みました。こうしてみると,新幹線沿線の中でも観光客が増えた原因の1つは,金沢を原風景に照らして,こつこつ直してきたからだと思えます。

一方,北陸鉄道の石川線は,鶴来駅から先が廃線で,車両も東急と京王井の頭線の中古に置き換え。この映画が,旧型車両が走っている資料映像ともなります。実家の設定である旅館まつさきは,辰口温泉の老舗のまま料理重視の旅館に変わり,新館も増設。金沢から車で40分の温泉であることが活かされ,新幹線開業後の方が伸びています。

ストーリーに触れるのは無粋なので,それを避けた感想を最後に。スマホはおろか携帯もない時代に,この街で進む恋愛の速度はいたってゆるやか。ときに過敏となる感情が,若さには重しとなる風景とともに刻まれることが追体験できる作品でした。

*1:今では当然といえる東北・上越新幹線の東京・上野間開業は,1991年。さらに,撮影の前年1985年までは,暫定的に大宮駅が起点で,上野・大宮間が新幹線リレー号で接続されていました。その後,1997年に,上越新幹線の越後湯沢駅から直江津駅方面へショートカットする「ほくほく線」が完成。そこに設定された特急「はくたか」に乗り換えで,鉄道での東京・金沢間が最速3時間43分になります。そして現在は,直通の新幹線で最速2時間28分です。

*2:当時に比べて,羽田空港が沖合に拡張して,離着陸の回数も増えたため,現在の羽田・小松便は1時間5分から10分のダイヤへと遅くなっています。