仕事や旅行で,毎週のように東京から新幹線に乗る方がいます。たとえば,今週は大阪,来週は金沢というような方です。いつも同じ行先なら,回数券がお得ですが,違う行先では使えません*1。
しかし,違う向きの新幹線に短い間隔で乗るなら,安くなる買い方があります。東海道の帰りの後,数日以内に東北・上越・北陸などに乗る(逆方向も可)なら,以下の話を応用できます。
ふつうに買えば,片道ごと1枚の乗車券が…
東京から,大阪往復のすぐ後に金沢往復という場合,指定席券売機や窓口でふつうに買えば,以下の通りです。東海道にはEX予約やスマートEX,北陸にはトクだ値などの割引がありますが,それらも後で比較します。なお,東京から大阪往復や金沢往復の距離では,往復割引は適用されません*2。
区間 | 合計 | 乗車券 | 特急券 |
---|---|---|---|
東京都区内→大阪市内 | 14450 | 8750 | 5700 |
大阪市内→東京都区内 | 14450 | 8750 | 5700 |
東京都区内→金沢 | 14020 | 7340 | 6780 |
金沢→東京都区内 | 14020 | 7340 | 6780 |
何か思いつかないでしょうか。実は,黄色の部分の乗車券は,7日間以内なら,1枚にできるのです。そうするメリットは,長い区間の乗車券ほど,距離当たりの運賃単価が安くなることです(運賃の遠距離逓減制)。
乗車券を1枚にできるのは,戻らず,交わらず,同じ駅を2度目に通るところまで。それで,「一筆書き」と呼ばれます。
大阪市内→東京→金沢を1枚にすると3450円安
大阪市内→東京→金沢を,1枚の乗車券にした計算は,次の表です。
区間 | 合計 | 乗車券 | 特急券 |
---|---|---|---|
東京都区内→大阪市内 | 14450 | 8750 | 5700 |
大阪市内→東京 | 25120 | 12640 | 5700 |
東京→金沢 | 6780 | ||
金沢→東京都区内 | 14120 | 7340 | 6780 |
黄色の乗車券部分を比較すると,
- 大阪市内→東京都区内と東京都区内→金沢の合計:16090円
- 大阪市内→東京→金沢(通し):12640円
同じ電車に乗るのに,3450円も安くできるのです。
1枚の乗車券にできるのは,東京駅で戻っていないから
1枚の乗車券にできるのは,東京駅の前後で,品川→東京→上野と進んでいて,戻っていないからです。これとは違って,大阪市内→東京→名古屋市内は,品川→東京→品川と戻ることになり,乗車券を1枚にできません。この違いが重要です。
東京を越える乗車券は東京で途中下車できるものも
大阪市内→東京途中下車→金沢の乗車券の使用例です。
新大阪から東海道新幹線に乗り,東京で途中下車。その5日後に,再び東京駅から北陸新幹線に乗っています。
東京での途中下車で,このきっぷは回収されず,その先も使えます。途中下車できる条件は細かいので,後で説明します。
通しの乗車券の有効期間は距離で決まる
「帰り」と次の「行き」を1枚にした安い乗車券が使えるのは,その有効期間内にスケジュールが収まるときです。
乗車券の有効期間は,距離で決まっていて,大阪市内→東京→金沢では7日です。つまり,大阪から東京へ帰る日を1日目として,7日目までに東京から金沢へ出発するなら,通しの安い乗車券が使えます。
ただし,1つの大都市近郊区間にとどまる乗車券は,距離によらず,有効期間は1日で,途中下車もできません。現在の東京近郊区間は,関東全域だけでなく,松本やいわきを含むほど広大です。その区間内の出張や旅行では,この記事の応用は困難です*3。
1枚にできる乗車券(A→東京→B)と有効期間
結局,東京から別方向(A,B)への出張や旅行が続く場合,A→東京→Bという通しの乗車券がつくれます。その有効期間内に日程が収まると,旅費は安くできます。主な区間では,以下の通りです。
A\B | 金沢 | 富山 | 長野 | 新潟 | 仙台 市内 |
---|---|---|---|---|---|
名古屋市内 | 6 | 5 | 4 | 5 | 5 |
京都市内 | 6 | 6 | 5 | 6 | 6 |
大阪市内 | 7 | 6 | 5 | 6 | 6 |
神戸市内 | 7 | 6 | 6 | 6 | 6 |
岡山 | 7 | 7 | 6 | 7 | 7 |
広島市内 | 8 | 8 | 7 | 8 | 8 |
A→東京と東京→Bが,上の有効期間に収まるなら,それを1枚の乗車券にまとめ,東京で途中下車できます。逆方向も,同じ日数です。
他の例:大阪市内→東京→仙台市内の通し乗車券は3030円安く6日間有効
たとえば,大阪→東京を1日目として,6日目までに東京→仙台へ出発するのなら,大阪市内→東京→仙台市内という,通しの乗車券が使えます。その乗車券は11660円ですが,大阪市内→東京都区内は8750円,東京都区内→仙台市内は5940円なので,3030円安く済みます。その間,東京で途中下車して,家に帰れます。
東北↔上越・北陸では東京ー大宮の重複に注意
ただし,仙台市内→東京→金沢のような乗車券は1枚になりません。大宮―東京が折り返す形になるからで,乗車券は,仙台市内→大宮→金沢,大宮→東京,東京→大宮に分かれます。すると,遠距離逓減制による節約額は縮小します*4。
よく使われる割引きっぷとの比較
ところで,新幹線によく乗る人なら,東海道ではEX予約かスマートEX,東北・上越・北陸ではえきねっとトクだ値を使っているでしょう。ふつうの片道だけなら,そういう会員割引が最安です。
この記事が説明した,通しの乗車券と関わらない区間(東京→新大阪と金沢→東京)では,いつもの割引きっぷが使えます。
では,乗車券を通しで買える区間(大阪市内→東京→金沢)では,この記事にある,通しの乗車券とふつうの特急券の組み合わせと,会員専用の割引きっぷと,どちらが安いのでしょうか。
EX予約とスーパーモバトクより,通し乗車券が得
会員用の割引きっぷの中でも,最安のものは,乗車券と特急券セットのものです。問題となる大阪→東京と東京→金沢の部分は,次の表のようです。
区間 | 割引きっぷ | 合計 | 内訳と注意 |
---|---|---|---|
大阪-東京 (片道) |
EX予約 | 13530 | 大阪-新大阪160+新大阪-東京13370 |
スマートEX | 14410 | 大阪-新大阪160+新大阪-東京14250 | |
東京-金沢 (片道) |
スーパーモバトク | 12030 | モバイルSuica,東京駅から有効 |
e早特1 | 12130 | J-WESTカード会員 | |
WEB早特1 | 12700 | e5489会員 | |
トクだ値 | 12700 | えきねっと会員 | |
大阪-東京 東京-金沢 |
通しの乗車券 特急券(通常期) |
25120 | 大阪→東京と東京→金沢が 7日以内 |
最安のEX予約とスーパーモバトクを揃えても,25560円。利用者の多い,EX予約とトクだ値なら,26230円です。また,北陸新幹線では,JR西日本にも会員割引(J-WESTカードとe5489)があって,似た金額です。これらは,JR東日本区間でも北陸新幹線駅と東京都区内駅なら受け取れます。
結局,どの割引きっぷよりも,この記事の通し乗車券による25120円が安くなります。運賃の遠距離逓減制で,乗車券が3450円も安くなる効果は,強力といえます。
なお,スマートEXは,手元のSuicaなどとクレジットカードを登録するだけで,すぐに使える利便性が売りです。その利便性の分,割引については,EX予約に比べて,ごくわずかです。
乗車券・特急券分離タイプの割引を併用すると
東海道・山陽のEX予約や北陸のe5489では,他に乗車券があることを前提に,特急券だけを分けて割引くきっぷがあります。それぞれ,e特急券,eきっぷと呼ばれます。
このタイプの割引は,JR東日本のえきねっとやモバイルSuica特急券にはなく,東北・上越では使えない手法です。
分離された割引特急券のメリットは,通し計算で安くなる乗車券など,変わった乗車券と併用できることです。すると,どれほど安くなるのでしょうか。
区間 | きっぷ | 合計 | 乗車券 | 特急券 |
---|---|---|---|---|
大阪市内→東京 | 通常 | 25120 | 12640 | 5700 |
東京→金沢 | 通常 | 6780 | ||
大阪市内→東京 | e特急券 | 23600 | 12640 | 4820 |
東京→金沢 | eきっぷ | 6140 |
この記事が説明した,大阪市内→東京→金沢の通しの乗車券に,会員専用の特急券の割引きっぷを組みあわせると,23600円です。乗車券を通しにした場合の価格から,さらに1520円安くできます。
通しの乗車券にe特急券とeきっぷで4870円安に
以上をまとめると:
- 大阪→東京,東京→金沢を別に買う:28470円
- それら区間の乗車券を通しで買う:25120円
- さらにe特急券とeきっぷを利用:23600円
結局,券売機や窓口で片道ごとにきっぷを買うのに比べて,4870円の節約になります。
条件が合えば,早期購入割引と比較も
なお,東海道新幹線には,21日前までの購入で大幅に割引く,EX早特21があります。ただし,東京発が6時台と11~15時台に限定される,出張にも旅行にも厳しい条件です。
また,北陸新幹線は,ダイヤに対して需要が堅調で,東京―金沢では早期購入割引(お先にトクだ値)がありません。
そういうわけで,大阪往復と金沢往復などが続くとき,予約や時間の制約がほとんどないきっぷでは,この記事に書いた,通しの乗車券が最安といえます。
早期購入割引が多くある,東北や上越の一部区間が目的地なら,それが実用的でお得かもしれません。
注意1:東京で途中下車できる条件
通しの乗車券は,条件が細かく,どこにも案内がありません。そこで,誤用がないよう,注意点を3つほど。
まず,この乗車券(たとえば大阪市内→東京→金沢)で,東京駅で途中下車できる理由と,できない乗車券の差です。もう一度,安くなる乗車券の券面を。
この乗車券で途中下車するとその先が無効で回収となるのは,きっぷにあるように,券面表示の都区市内各駅だけです。この乗車券では,大阪市内駅がそうです。
「東京都区内」とは,どこにも書かれていないので,東京駅などの経路上では途中下車できます。東京都区内と書かれるのは,乗車券が東京都区内発や着となるときだけで,東京を越える乗車券では,そうなりません。
東京で途中下車できないのは,東京都区内発着のものなど
途中下車の説明(JR東日本)のように,乗車券は原則として途中下車できて,その先もまた使えるものです。
しかし,途中下車すると,その先が無効となって,改札で回収される条件があります。一般の乗車券では,以下のいずれかです。
- 100km以内のもの
- 1つの大都市近郊区間にとどまるもの
- 都区市内発着のもので,その都区市内駅での下車
大阪市内→東京→金沢という乗車券では,条件3で,大阪市内駅での途中下車が前途無効とされるだけです。途中に京都・名古屋・横浜市内駅や東京都区内駅がありますが,そこが発着地でなければ,条件3に該当しません。そこで,経路上にある名古屋でも東京でも,途中下車して,その先また使えます。
もちろん,大阪市内→東京都区内という,よくある乗車券なら,条件3によって,東京都区内で最初に駅の外に出る改札で,乗車券は前途無効となり回収されます。
なお,通常の乗車券とは別の割引きっぷや,ツアーなどのきっぷ(マル企の表示があるもの)は,個別に途中下車を制限するものがあって,その注意が記されています。
新宿などでも途中下車できるが有人改札対応
東京で家に帰るなら,JR駅の外に出る途中下車を,東京駅ではなく,新宿や渋谷などにしたい方も多いでしょう。実は,それもできます。
山手線と赤羽,錦糸町を含む区間は,そこを通過する乗車券なら,どの経路にも乗れる規則があります。ここで,新幹線の品川―東京―上野は,並行在来線と同じ扱いです。その区間内での途中下車も,戻りや交わりがなければ,何度でもできます。
したがって,東海道新幹線→東京→東北・上越・北陸新幹線という乗車券でも,東海道新幹線→品川→山手線→新宿途中下車→山手線→上野→東北・上越・北陸新幹線などと乗ることができます*5。その間,渋谷,新宿,池袋などでの途中下車も可能です。
ただし,券面のルート以外(たとえば新宿経由)での途中下車では,自動改札機が対応しておらず,扉が閉まります。有人の改札でルートを説明すれば,途中下車印を押されて,途中下車できますが,時間に余裕が必要です*6。途中下車駅から再び乗るときも,有人改札しか通れません。
混雑する有人改札が面倒なら,東京駅で,このきっぷでいったん改札の外へ出てしまい,改めて自分のSuicaと定期券などで家まで帰ってもよいでしょう。
注意2:往復割引(1割引)が効く行先か
2つ目の注意は,乗車券に往復割引1割引が適用される場合です。それは,片道が600km超のときです*7。その場合,この記事のような「帰り」と次の「行き」を通しの乗車券とする手法よりも,単純な往復割引の方が安い可能性があります。
とはいえ,600km超は,東京からの新幹線駅でいうと,東海道では西明石以遠,東北では岩手県の二戸・秋田県の大曲以遠です。上越・北陸では該当がありません。
東京から,(航空機よりも)鉄道が選ばれる県庁所在都市で,往復割引の方が得かもしれないのは,岡山・広島・秋田・新青森ぐらいです。そこまで遠くない行先なら,この記事のように,乗車券を1枚にする手法が最安と考えてよいでしょう。
注意3:乗車・途中下車後の変更・払戻し
最後の注意は,変更や払戻しの場合です。この記事の手法では,2件の出張や旅行の帰りと行きを,1枚の乗車券にまとめることになります。
すると,後の出張や旅行を,変更や中止したい場合も増えそうです。その場合にどうなるのかです。
利用開始後の変更もできるが
まず,乗車券の区間や経路の変更は,利用開始後もできるルールです。ただし,100km超で大都市近郊区間にとどまらない乗車券での乗り越しは,差額精算ではなく,手元のきっぷで不足する区間分を,新しく買う計算になります。
そして,乗車後の変更では,目的地が近くなる場合などで,現在のきっぷの方が高額となる場合でも,払戻しはありません。
それでは,通しの乗車券で,後のスケジュールが中止となると,大損をしそうです。しかし,途中下車後の先の区間が長いときは,払戻せる特例があります。
100km超の未乗区間は手数料220円で払戻せる
ある乗車券で途中下車後,その先の出張や旅行を止めたいときには,乗っていない区間が100km超なら,払戻しできます。その場合,すでに乗った区間の運賃+手数料220円を引いて,払戻されます。結局,手数料220円の追加だけで,なかったことにできます。
もちろん,これは乗車券の話です。特急券には,そのような制度はありません。
この記事の通し乗車券では,大阪から東京に帰った後,金沢行きが中止になっても,結果的な支出は,実際に乗った大阪市内→東京都区内8750円+手数料220円なのです。ふつうに片道ごと買ったときに比べ,220円の手数料が余計にかかるだけです*8。
100km超だから払戻したいと伝えた方が対応が早くて正確
よくある誤解は,「乗ってしまったきっぷはすべて,途中で降りたら先の払戻しができない」というものです。過去に,きっぷの行先よりも手前の駅で降りて,駅員に尋ねたとき,「払戻しはない」と言われた方は多いでしょう。
そう言われた場合の理由は,その乗車券が,もともと途中下車前途無効のものか,その先が100km以内だったからなのです。
窓口に尋ねる客は,そのどちらかで払い戻せない事例がほとんどです。それで,「またか」と早合点されて無駄なやりとりがないよう,残りが100km超であることを伝えた方がよいでしょう。
なお,残り100km超の払戻しは,途中下車できていることが前提です。途中下車できないきっぷで,下車前に乗車変更をすると,先の原則どおり,過剰額でも払戻しはありません*9。
未乗区間100km以内で中止:払戻しなし
そういうわけで,途中下車後に未乗区間が100km以内では,払戻しはまったくありません。東京からの新幹線では,小田原,小山,本庄早稲田までが該当します。
そのような目的地までを通しきっぷとして,途中下車後に先の予定が中止となれば,乗らなくなった区間は丸損です。予定の変更や中止がありそうなら,途中下車駅から先が100km超となる買い方に限るのが無難です。
クレカ払で乗車後の払戻しなどは発行会社限り
なお,ポイントやマイルが貯まるといった理由で,JRのきっぷもクレジットカードで買う方が増えています。その変更や払戻しは,(乗車前で券面額の返金と手数料の支払で済むものを除き)発行会社に限られます*10。利用開始後の変更や払戻しなどは,券面の金額と異なる額の返金処理が必要なことがあり,それが他社ではできないのです。
クレカ払いのきっぷで,乗車後など,単純でない変更や払戻しのものを,JR他社の窓口に持ち込むと,その場で変更や払戻しは受けられず,受付けた日時が記録され,券面に証明されます。この証明が大切なのは,いつ受付けたかで,手数料や払戻し額が変わりうるからです。
その後1年以内に,改めて発行会社の窓口を訪れると,券面の証明をもとに,変更や払戻しが行われます。それで,JR他社の窓口でも,期限前なるべく早くに証明を受けておくのが大切です。
発行会社エリア外で変更・払戻しを考えるなら,現金払いが無難
その後,発行会社へ行く機会がないときは,払戻しは受けられません。クレカ払いの払戻しでは,カードへの返金となるため,購入時のクレカも必要で,他人に頼むのは無理です。
そこで,出張や旅行が流れる可能性があって,それがJR他社のエリアで起こりそうなときは,現金での購入が無難です。現金で購入したきっぷなら,(会社限定の割引きっぷでない)一般の乗車券や特急券については,JR他社でも同じ扱いが受けられます。
*1:実は,東京から北陸新幹線の長野より先の駅までは,回数券がありません。近年の新幹線の開業区間では,これが普通になりました。
回数券を発売しなくなった理由は,回数券はバラで,金券ショップやネット売買に流れてしまい,複数回利用だから割引くという趣旨から外れた利用が誘導されるからです。また,そのマージンを転売者が抜いてしまうので,鉄道会社にとっては,価格のコントロールが十分にできなくなることもあります。
*2:往復割引が適用されるのは,片道600km超です。たとえば東京からの東海道・山陽方面では,大阪からさらに西へ進み,神戸駅を基準に運賃計算される神戸市内駅を超えた,朝霧駅(明石市)からの適用です。
ということは,600kmにあと少しの区間では,600kmを超えるまで,あえて区間を伸ばした乗車券を買った方が,往復割引が適用されて安く済むことがあります。たとえば,東京都区内→神戸市内の往復乗車券18580円よりも距離の長い,東京都区内→西明石の往復乗車券17280円の方が安くなる現象などが知られています。
*3:Suicaの利用可能区間の拡大とともに,対応する東京近郊区間も拡張されたため,現在では,松本→甲府→新宿→上野→水戸→いわきといったルートがすべて含まれます。この区間内では,本文の説明にある,途中下車可能で,翌日以降も使える1枚の乗車券がつくれません。
しかし,このような区間でも,途中下車可能で複数日有効となる乗車券を作る手法があって,一部でも新幹線を組み込むと,東京近郊区間から外れたことになるというものです。この点は本題から外れるため,説明を省きます。
*4:仙台から東京への帰りと,東京から金沢への行きを,安くつなげるなら,乗車券として,仙台市内→大宮→金沢,大宮→東京,東京→大宮が必要です。
しかし,大宮―東京往復分は,運賃の遠距離逓減制の効果がほとんどありません。そのため,長い距離の乗車券をつくるメリットは,小さくなります。
東北新幹線と上越・北陸新幹線を1枚にしても,メリットが大きいのは,大宮周辺に居住して,両新幹線を大宮駅下車・乗車とできる場合です。
*5:東海道から東北・上越・北陸へ抜けるような乗車券では,山手線を大回りできますが,逆戻りや一周はできず,東海道から東北・上越・北陸新幹線まで一筆書きでつなぐ必要があります。
ここで,池袋→山手線→上野→新幹線→大宮については,厳密には,(田端―)日暮里―上野―日暮里(―尾久―大宮)が折返す重複乗車になります。しかし,この折返し区間には,上野で途中下車しない限り,上野まで往復して乗り継げる特例があります。それで,このような乗り方が認められています。
*6:現在の大都市や観光地の駅では,有人改札に長い列ができています。そうした有人改札の利用で多いのは,外国人観光客がよく使うJapan Rail Passなどで,自動改札が通れないものです。新幹線と特急を含むJR全線(のぞみなどは除く)に乗れて,たとえば7日間用で29110円と,破格の安さです。
このパスを,磁気券や定期券のようなICカードとして,自動改札を通れるようにすることは,技術的には簡単です。しかし,このパスは極端に安い価格設定で,そうすると,転売による別人の利用や,複数人の使い回しが懸念されます。その懸念が大きいのは,日本人の出張での使い回しで,そこにセキュリティ・ホールがあれば,今度は転売価格が数倍になるでしょう。
以上をチェックするために,Japan Rail Passは,有人改札や車内改札でパスポートの提示も求められるようにしています。自動改札で正しい利用だけ通過させるには,改札機に,別人の利用を検出する機能(生体認証等)を持たせるしかなく,費用と処理速度の点で困難です。
*7:乗車券に往復割引がある条件について,JR各社の公式サイトでの説明では,営業キロが601km以上と書いてあるため,この記事の説明は不正確に見えます。一方,その根拠である旅客営業規則第32条では,「片道営業キロが600キロメートルを超える区間」と定めています。
数学では異なる表現ですが,運賃計算については,同じことなのです。鉄道の運賃計算では,営業キロの小数点以下を切り上げてから,計算に入る大原則があります(旅客営業規則第8条)。たとえば,600.3kmは,切り上げ計算で601kmとされ,往復割引の適用となります。切り上げた後は,600km超601km未満の区間は存在しないのです。
しかし,一般の方には,まず切り上げ計算をするという予備知識はありません。そこで,ネットの乗り換え検索等で出力された距離で判断される一般向けには,600km超と書く方が,実態を正確に伝えられます。
この種の文章を書くときには,予備知識を前提とした公式文書通りにするか,実態と合うよう日常用語に「翻訳」するか,悩ましいところです。
*8:手数料が220円として,中止となる確率がどのぐらいまでなら,通し乗車券を買うのが経済合理的といえるのか,あえてまじめに計算してみます。
確率pで後の用件が中止で払戻しとなるとき,この通し乗車券の期待純利益は,(1-p)3450-p・220=3450-3670pです。これが正になるのは,p<3450/3670=0.940となります。結局,中止確率が94%未満なら,通しきっぷを買うのが得と判断されます。それは,手数料220円が,得られる利益に比べて,著しく安いからと解釈できます。
なお,払戻しにかかる費用としては,手数料に加えて,費した時間に対する機会費用も計上するのが,より現実的でしょう。それは,当人の時間給×払戻しに要する時間(アクセスも含む)で評価できるでしょう。払戻しで,時間給2000円の人が駅への往復を含めて1時間を使うなら,p<3450/(3450+220+2000)=0.608などと計算できます。時給が高くなるほど,払戻しの機会費用は上昇することで,こうした手法の期待純利益は,減殺されます。
*9:たとえば,松本→中央線→東京→常磐線→水戸などは,東京近郊区間にとどまるため,乗車券は途中下車前途無効,有効期間1日です。乗車後に,東京で降りる用件ができたとき,残りの東京→水戸は100km超なので,払戻しがあるのではと思うかもしれません。
しかし,東京での途中下車では前途無効となり,きっぷは回収されます。それではと,改札内で乗車変更すると,差額精算扱いとなります。このとき,過剰な額でも,払戻しはありません。結局,東京近郊区間にとどまるきっぷでは,100km超を残して降りても,払戻しはまったくありません。
ところが,乗車券が松本→中央線→東京→新幹線→宇都宮なら,東京で途中下車できますし,その先乗らなくなっても,払戻せます。理由は,(この区間の)新幹線は東京近郊区間から外れるからです。それには,乗車券面の経路に,新幹線と指定されている必要があります。そのときは,乗車券(幹)という表示になります。きっぷの変更や払戻しの条件分岐がいかに複雑か,わかる事例です。
なお,新幹線はすべて大都市近郊区間から外れるわけではなく,米原ー京都ー新大阪と西明石ー相生の新幹線は,大阪近郊区間に含まれます。
*10:クレカ払いのきっぷを,変更や払戻そうとする場合,窓口できっぷの磁気情報をマルスに読み取らせて,支払のカード情報が照会されます。そして,そのカードへの返金処理と,さらに手数料の引き落としが行われます。それには,支払時のカードを持参する必要があります。
この際,券面の金額ちょうどの返金処理と,手数料の新たな引き落としだけなら,JR他社でもできるように改善されています。
しかし,使用開始後の変更や払戻しでは,もとのきっぷの金額とは異なる返金処理が必要で,JR他社ではできません。このほか,割引きっぷでは,変更や払戻し窓口が,最初から制限されているものもあります。
以上のような,クレカ払いのきっぷの変更や払戻しを,JR他社でも取り扱える条件は,JR各社とカード会社との契約に依存します。乗客向けの案内では公開されておらず,将来まで保証しているものではありません。