東京から新幹線で,ずわいがにを目指すなら,最速なのは北陸です。どうして北陸なのかは,別記事にまとめました。
日本海側に特徴的なのは,ずわいがにの雌も食べること。石川県では香箱がにの名称で,お隣の福井県や山陰では,せいこがにと呼ばれます。蟹の名前については,東京で食べられる店とともに,新しい記事にまとめています。
金沢のスーパーで香箱がにを買うと
では,雄よりも手頃に買える雌の香箱がにを,金沢のスーパーで買うとどうなるのでしょう。
金沢駅最寄りなのは駅ナカスーパーで,金沢百番街あんと西2階に,食品スーパーの100banマートがあります。駅の金沢港口(西口)のエスカレータで,2階へ上がった正面です。
写真は,そこで買った香箱がにと日本酒を,東京までの北陸新幹線の車内で並べたところ。
このときは,2杯で1980円(税抜)。お手頃なのは,サイズが雄よりもかなり小さいからで,脚の身よりも,独特の風味の卵(内子と外子)を食べるものといえます。金箔をあしらったグラスも,金沢百番街あんとで求めています。
雌の香箱がにの漁期は11月から年末まで
雌については,資源保護のためにどの府県でも漁期が短く,石川県では11月はじめから年末で終わってしまっています。雄のずわいがには,3月20日ごろまでで,まだまだ漁期です。
雄は雌よりも大きく,かなり高いので,さすがに駅ナカスーパーの平常時には並んでいません。近江町市場では,漁況に応じて遠方のものも仕入れているので,ものは揃うのですが,やはり相応の価格*1。コスパなら,入荷がない日があっても,市内の食品スーパーが狙い目です。
香箱がにを食べるには,甲羅の部分の卵の扱いがポイントで,無駄のない裁き方はいろいろあるようですが,新幹線の中のため,適当に済ませてます。小さいために,とくに道具はいらず,手でばりばりと外していけます。
小さいので道具がなくても簡単にさばける
お腹の側をめくると,これが外子で,受精卵にあたるものです。
やや茶色がかった色で,しゃりしゃりとした食感と独特のうまみ。粒の大きさは,とびこぐらいでしょうか。
構造がわかるように外すと,中から,かにみそと内子(未成熟卵)が現れます。
この内子は,魚介にしては鮮やかなオレンジ色で,粒までになっておらず,少し柔らかさのある状態。それで,独特のこくと,やや甘いうまみがあります。他に似たような味のものがなく,卵の黄身がもし鶏ではなく蟹だったら,と想像してもらうしかありません。
厳しい顔の香箱がに:かには肉食でした
そういうわけで,香箱がにと,その内子。
こうしてみると厳しい顔つきなのは,かにさんが,このはさみを武器とした肉食だからでしょうか。
というより,魚はほとんど肉食でした。たとえば,えびはかにに食べられ,かにはたこに食べられます。そして,いわしはあじに,あじはぶりに,ぶりはまぐろに食べられます。その食物連鎖があってこそ,天然のおいしさが生まれます。
甲羅と酒が揃うと…
かに身を食べていき,内子やかに味噌,そして甲羅が残っていれば,酒を注ぎたくなるところ。
日本酒に内子やみその旨みがじわりと溶け出して,変化のある味わい。香箱がには卵を食べるもの,というのがよくわかります。
料理店ではあしらいも工夫された一品に
香箱がにを,手でさばこうとすると,上の写真のような野性的な食べ方になってしまいます。そこで,上品に食べたいときは,料理屋さんに任せることに。
いずれも,漁況によって仕入れがない場合もあって,それは予約時や注文時に確認を。
日本料理店では甲羅に盛り付けを
こちらは,金沢市寺町の料亭・
外子が左,脚の身を真ん中に,左に甲羅の身。内子は中に忍ばせています。庭の映り込みに,酒器も映えます。
お次は同じ寺町の料亭・つば甚。
かにの脚の身を手前に,甲羅の身をすだちの輪切りの上に並べ,甲羅の左側に内子を,右側に外子を盛っています。上には生姜の細切りを渡す,あしらいにも凝った盛り付け。
ジュレがけも多様に
日本料理でも,各店腕を凝らしたジュレがけを,よく見るようになりました。こちらは,ANAクラウンプラザホテル金沢の日本料理店・雲海での蟹会席の一品。
左から,意外な走りとなる菜の花に,しゃきしゃきした食感が珍しい,加賀野菜の
鮨店では甲羅盛りに外子を和えたしゃりが
香箱がにがきれいに盛られた甲羅盛りは,鮨店で出されることもあります。こちらは,ホテル日航金沢で,鮨カウンターのある日本料理店・弁慶での,香箱がにを含んだお鮨のコースでの例。
甲羅の中に,内子とかにみそを忍ばせ,表には蟹の脚の身が整えられています。外子はしゃりと合わせて,手前に握られているのが,鮨カウンターならではです。
もちろん,鮨店としては,盛り付けに特別な時間のかかる一品で,いつもあるとは限りません。これがあるかは,予約時や注文時に確認を。
器は,金沢に長く続く大樋焼の窯元・十一代大樋長左衛門の作品。現代の大樋焼です。あえて盛り付けの構造がわかる写真を下に。
食べ進むほどに,蟹身の中から,内子とかにみそが現れ,その組みあわせが楽しめます。
かに身の握りのしゃりにも内子・外子が
握り鮨も,よくあるかに身の握りだけではなく,お店によっては,しゃりに内子や外子を和える仕事がされます。こちらは,
かに身の上にも外子があしらわれ,口の中でほどけるにつれ,外子・かに身・内子の順に味わいが広がります。奥にある野菜の浅漬けは,このお店の片町の本店からの流儀で,ガリの代わりに添えられます。
金沢発祥の東京の日本料理店でも
東京の店でも,日本海側からかにの仕入れのある店は,香箱がにを出されます。こちらは,金沢の料亭・浅田屋から分かれた,青山浅田。
下には,こちらでも加賀野菜の
中には,下の写真のように,内子と甲羅の身を合わせ,上部に外子を添えるような,美しさ重視の盛り付けです。
日本料理以外では甲殻類のソースのアレンジに
雌のかに・香箱がにを内子・外子まで食べる文化は,近海のかに漁が盛んな日本だからできたことで,料理も日本料理が主になります。
海外では,雌のかにを内子・外子まで食べること自体,難しいこと。内子・外子は卵の一形態で,ボイル後も長くは冷蔵保存できず,冷凍では食感と旨味が失われます。
そこで,フレンチやイタリアンで味わうとしても,日本独特のアレンジが必要なところ。こちらは,金沢東急ホテルのマレ・ドールで食べられる,香箱がにのニューバーグ・ライスです。
ニューバーグ・ソースとは,ロブスターの殻と味噌などに,生クリームとシェリー酒などをあわせたソース。こちらでは,香箱がにの内子や味噌もあわせて使うアレンジで,甲殻類ならではの旨味を,競わせています。
内子・外子を忍ばせた香箱がには甲羅盛りで,冴えたソースと自在に混ぜられる盛り付け。日本独特といえる香箱がにを,日本料理以外で味わえる,珍しい一皿です。
海鮮そのままと料理の差はそこに
かにも,ここまで作り込まれてくると,綺麗に食べられて,どういう機会の食事でも苦労がありません。さばくのに気をとられ,話が止まるとか,粗相しそうなので敬遠ということもないです。
調理法や盛り込み方,あしらいをどうするかは,各料理店の腕の見せ所で,そのたびに食べ応えもあります。それが,かにを食べに,港や市場ではなく,料理店へ行く価値でしょう。
なお,金沢の香箱がにの料理としては,おでんの具材・かに面も外せません。それは,金沢おでんの特徴でもあります。そちらはそのうち別記事に。
*1:近江町市場では,新幹線開業後に,観光客向けの海鮮丼などの料理店が増えました。とはいえ,かにやぶりなどの魚介類を,市内の料理店などに納入している老舗の水産会社の位置は,長らく変わりません。
どの市場でも老舗ほど立地がよいように,近江町市場では中央の十字路に陣取る,大口,
そうしたお店ほど,顧客の多くは飲食店の料理人さんで,その買い付けは朝が勝負です。それで,朝が早い代わり,午後4時ごろから店仕舞いに入るのにご注意を。
かにの場合,一杯を丸ごと盛り付ける必要がないのなら,漁の過程で「足折れ」したものが,安い価格で売られています。直近の卸売価格の目安は,流通経路の一つである,JFかなざわ総合市場でわかります。白紙の日は,悪天候も含め,漁がなかった日です。