ホテルが2000室ほど増える
北陸新幹線金沢開業から,今年で3年目。当初指摘されたホテル不足と,懸念された反動減がどれほどか,データが集まってきた頃です。
反動減が大きくないことがわかるにつれ,新たなホテル建設計画が浮上。今後2年間で約1800室(国土交通省*1),簡易宿所なども含めれば約2500室(8月22日付日本経済新聞*2)と言われる客室増が計画されています。
写真は一例として,三井ガーデンホテル金沢の建設現場。
敷地は金沢東京海上ビルの跡地で,写真奥に見える隣地が,三井住友信託銀行金沢支店などが入る住友生命金沢上堤町ビルと,金融・保険業の金沢支店が集まるところ。それでいて,観光客が増えた近江町市場まで徒歩3分,金沢城の黒門や復元中の
城と市場の近くに,統合や移転で浮く金融機関の妙味
銀行の統合や移転で土地が放出されると,そこが金沢城や近江町市場至近であることがかみ合い,ホテルに転用される例が続きます。写真奥の支店は,旧住友信託銀行ですが,そちらに統合された旧中央三井信託銀行金沢支店の跡地も,ソラーレホテルズがザ・スクエアホテル金沢を建設中。金融機関の統合や移転の跡地に建つホテルは,以前から金沢で多いのです*3。
宿泊者数の政府統計は
日本で宿泊者数の動向がわかる公的なデータは,観光庁の宿泊旅行統計調査*4と経済産業省の観光予報プラットフォーム*5です。過去記事では,外国人では欧米系に好まれる傾向や,女性の割合が増えたことを見てきました。
しかし,これらの公的データは,市町村か都道府県単位の集計で,駅前など狭い範囲のホテルの状態はわかりません。それら以外に,ホテルの現状がわかる情報はないのでしょうか。
金沢駅前のホテルにはリートの開示情報が
いまや大都市だけでなく地方でも,ホテルの一部はREIT(不動産投資信託)が保有しています。投資家への情報開示を重視するREITほど,直近の業績がウェブサイトなどで公表されています*6。
下の写真は,金沢駅兼六園口(東口)前からANAクラウンプラザホテル金沢を眺めたもの。観光客の撮影スポットとなった
このホテルは,北陸新幹線開業約4か月前の2014年11月2日に,星野リゾート・リート投資法人に買収されています。
買収は,4都市の同ブランドのホテルとセットでした。それらの概要と取得額,直近の売上高は,以下のようです。
ホテル | 場所 | 客室数 | 取得額 (百万円) |
年間売上高 (百万円) |
---|---|---|---|---|
福岡 | 博多駅博多口徒歩5分 | 320 | 7599 | 3262 |
広島 | 広島駅から車で10分, 広電市内線・袋町徒歩1分 |
409 | 17784 | 5135 |
金沢 | 金沢駅兼六園口徒歩1分 | 249 | 6609 | 3528 |
富山 | 富山駅から車で5分, 地鉄市内線・国際会議場前すぐ |
251 | 4008 | 2633 |
出所:星野リゾート・リート投資法人,国内不動産の取得及び貸借に関するお知らせ,平成27年10月8日。年間売上高は,ポートフォリオ運営実績に公表されている直近の1年分で,2016年5月から2017年4月まで。
買収額と売上高から割安・割高を判断すると
土地と建物の資産価値の今後の推移,そして各種費用の差があるので,買収額と直近の売上に関するデータだけでは,正確な投資判断はできません。それらに差がないという仮定で,各ホテルへの投資判断をざっくりと評価するなら,年間売上高に対する各物件の買収額を比べるのが簡単*7。株式でいえば,株価の割安・割高の判断に使われる,PSR(=株価/1株当たり売上高)やPER(=株価/1株当たり利益)に相当する簡便な指標です。
金沢は,福岡より安い買収額で福岡を上回る売上に
年間売上高に対して,買収額が安かったのは,富山,金沢,福岡,広島の順でした。この順に,お買い得なバリュー投資だったといえます。見やすい比較で言えば,金沢は福岡より安い買収額で,福岡を上回る売上が実現できています。
バリュー投資ということは,それまでが過小評価だったということ。それは,東京から同程度の時間で行ける同じ規模の都市と比べ,新幹線の開通に30年以上出遅れたことが主因でしょう。
そこで,ここまでの業績の推移を,以下に見ていきます。データは,星野リゾート・リート投資法人,ポートフォリオ運営実績にあるもののうち,開示されている2014年7月から,直近の公表分2017年4月までです。
稼働率の上昇はわずかだが
はじめに,わかりやすい稼働率の情報から。4ホテルを比較すると,以下の通りです。変動が見やすいように,縦軸は50%以上の部分を描いています。
金沢駅徒歩圏のシティホテルに限ってみれば,新幹線開業前から稼働率は十分に高く,開業後の稼働率の変化はわずかに見えます。
細かく見ると,金沢は開業1年目の稼働率が少し上昇,2年目は7月や2月など,反動減の目立つ月が少しあるほかは,高止まりという感じ。富山では,意外にも開業1年目の上昇がほとんどなく,開業2年目で伸びてきています。
ただし,新幹線開業前後の変化よりも,大きいのは季節変動。金沢・富山だけでなく広島も冬が弱く,極端な閑散期が1月です。一方,ビジネス需要の比重が高い福岡では,季節変動は少なく,1月でも約80%を維持しています。
経年変動より季節変動が大きい
そこで,経年変動と季節変動が切り分けられるグラフを描くと,次のとおり。
開業前後のデータの揃う月を平均すると,3%ポイント程度の上昇が見られます。
対前年では,稼働率の反動減はほぼ解消
懸念された開業2年目の反動減は,2016年7月と10月,2017年2月が大きいものの,2016年11月からほぼ解消したことがわかります。2016年12月から2017年4月までは,2月を除いて,前年比でプラスです。
そして,季節変動で稼働が最高の11月と最低の1月について,開業前年,開業1年目,2年目を追うと,次の通り。これら月では,反動減なく推移しています。
稼働率(%) | 開業前 | 開業後 | |
---|---|---|---|
2014年度 | 2015年度 | 2016年度 | |
最高:11月 | 87.0 | 92.0 | 92.9 |
最低:1月 | 56.5 | 61.1 | 61.6 |
11月上旬には,石川県内のずわいがに漁が解禁で,太平洋側では流通が限られる,雌の香箱がにが食べられます。そして,下旬には,大きくなった寒ぶりが出始める頃。しかも,兼六園など街中が紅葉のピーク。食と景観が同時に楽しめ,雪の心配がない月です。
1月は雪を警戒されるのと,学生が試験などで動きにくいことが効いています。しかし,雪対策が格段に向上した新幹線と,融雪装置のある市内の交通には,雪の影響はほとんどありません*8。一方で,魚介類は,年末で漁期が終わる香箱がにを除いて,おいしいまま。新幹線で街中観光なら,最もコスパのよい時期です。
稼働率よりも客室料金に大きな効果
次に市場の動向として重要な指標は,客室料金です。REITがもつホテルの多くでは,販売単価がADR(Average Daily Rate)として公表されています。
前年同月でみて数%の変化にとどまる稼働率よりも,客室あたりの販売単価の方が上昇が顕著です。金沢は開業で一段切り上がり,2年目もおおむね維持しています。
福岡・広島でも上昇傾向で他要因も大きい
ただし,この指標も,北陸新幹線の沿線外の福岡・広島でも,この期間で同様の上昇傾向にあることがわかります。おそらく,増加が続いている外国人観光客などが寄与しているのでしょう。沿線と沿線外,開業前の時期と後の時期の比較は,より適切な指標であるRevPARを用いて,後で行います。
6,7,12~2月がお得な季節変動
客室料金の指標も,年と月で分けて描くと,次のようです。
同月分の比較では,新幹線開業による切り上がりがよくわかります。ただし,季節変動はそれを上回るため,現在でも冬は,新幹線開業前のオンシーズンの価格にとどまります。利用者としては,お得なのは冬と6,7月(ただし夏休み前で,連休を除く)です。
空室も考慮した指標でも…
ところで,ADRは,ホテルが販売できた価格の平均値で,空室の部分が評価されません。価格を上げすぎて,空室が増えれば,機会損失が増し,収益が減ってしまうこともあります。
それを加味した指標として,客室数当たりの1日平均の売上高(RevPAR: Revenue Per Available Room)があります。それは,宿泊売上高/1日の販売可能客室数で計算されます。
たとえば,1泊12000円の客室が稼働率70%ならば,それら客室の1日平均の売上は,12000円×70%=8400円と計算されます。そこで,RevPARは,現状の需要と価格設定での,1室1日当たりの売上げの期待値ともいえます。稼働率100%は非現実的な目標で,こちらの指標の最大化の方が現実的な目標。そして,出退店を決める判断材料にもなります。
1日1室平均の売上も開業後に40%超の増加
それを図示したのがこちら。
空室を加味した現実的な指標でも,4店とも上昇傾向。その中で,北陸新幹線と無関係な福岡や広島を比較対象とすると,それらを上回る効果が金沢にはありそうです。
そのことを数値で示したのが,以下の表です。あいにく,新幹線開業前のデータが,7月から2月の部分しかありません。そのため,それらの月に限って,新幹線開業前と開業1年目,2年目の業績を,新幹線の沿線と沿線外の地域とで比較したものです。この数値から,開業前後の変化を,沿線と沿線外で比較することで,新幹線の効果をより正確に切り分けることができます*9。参考までに,開業前とは比較できないものの,通年度の数値も挙げています。
ホテル | 新幹線 開業前 |
新幹線 開業後 |
参考 | ||
---|---|---|---|---|---|
2014年 7月~翌2月 |
2015年 7月~翌2月 |
2016年 7月~翌2月 |
2015年 4月~翌3月 |
2016年 4月~翌3月 |
|
福岡 | 8227 | 9888 17.3% |
10771 22.9% |
11458 | 12163 |
広島 | 9907 | 11625 20.2% |
12178 30.9% |
9728 | 10729 |
金沢 | 8906 | 13219 48.4% |
12745 43.1% |
13303 | 13060 |
富山 | 6416 | 7572 18.0% |
7826 22.0% |
7684 | 8106 |
注)下段は,北陸新幹線開業前年にあたる2014年7月~翌2月を基準とした増加率
反動減をこなし持続的な効果へ
金沢は,1年目に初物需要が認められ,2年目の反動減もこなしたところ。とはいえ,反動減は5.3%ポイントほどと,想定された範囲。通年度で開業1年目と2年目を比較すると,13303円から13060円へと,1.83%の減少にとどまっています。
ただし,福岡や広島は,北陸新幹線では開業2年目にあたる期間にも,上昇を記録しています。RevPARが持続的に伸びている沿線外の都市を基準とすると,反動減は見かけより大きい可能性もあります。
一方,1年目が小幅上昇ながら,2年目も増加しているのが富山。反動減ではなく上昇を続けるのは,1年目が過小評価だったことを示唆していて,まだ成長余地がありそうです。
価格上昇が参入を促し,市場が成長
以上の情報は,この星野リゾート・リートのサイトで随時更新されていました。反動減は軽微とわかるにつれ,金沢でのホテル開業計画が増えたのも当然といえます。
これまでの新幹線開業区間でも,開業1年目には初物需要があって,それが一巡した2年目の業績が注目点でした。その反動減が,駅近シティホテルで,1室1日あたり数百円ほどということがわかりだして,持続的な効果が見通せた段階。
現在の宿泊料金でも,開業前に比べれば40%程のゲタを維持しています。今後のホテル建設による客室供給の増加で,今度は値下げ競争を招くものの,この40%部分を戻す過程は,「行って来い」になるだけで,経営には支障のない範囲*10。価格上昇あっての設備投資であり,設備投資あっての市場の成長という実例です。
宿泊は底堅いが,料飲部門に競合の厳しさ
ただし,公表されているデータで,気になるところもあります。それは,宿泊の売上であるRevPARが約40%増になっている期間でも,ホテル全体の売上は10%台の増加にとどまること。駅近シティホテルで,宿泊客の増加ほどに,全体の売上が伸びない理由は料飲部門で,レストランと宴会,それぞれ異業態との競合によるものです。
駅近に増えた飲食店
理由の一つは,新幹線開業前後で,駅周辺の飲食店が格段に増えたこと。鉄道より先に街があった,多くの城下町と同様に,金沢の古くからの繁華街,片町や香林坊は,駅から離れています。それで,老舗の飲食店は繁華街に集積し,駅近の飲食店はジャンルや価格帯が限られていました*11。それが,駅近のシティホテルが,宿泊客の飲食需要をある程度囲い込めていた理由です。
しかし,新幹線開業前後に金沢駅周辺では,よくある居酒屋だけでなく,日本料理・鮨・フランス料理などを,コースなど高水準で提供できる出店が続いています。ネットにレビューが蓄積された現在では,ホテルのレストランも,駅近で競合する一店舗になっています。
景観や眺望に特徴ある婚礼専業との競合
もう一つの理由は,シティホテルの宴会部門の主軸だった婚礼で,市内と周辺各所に増えた婚礼専業施設との競合が厳しくなったこと。
金沢は冠婚葬祭を重んじる土地柄で,婚礼はホテルの宴会部門の重要な柱でした。しかし,市内と周辺に,全国展開する専業施設が複数進出。それらは景観と眺望で,駅近シティホテルを凌ぐ部分があります*12。一方で既存のシティホテルは,チャペル等が建設時の設計ではなく,リニューアルによるもので,景観には限界があります。何より,婚礼は地元以外の需要が皆無で,新幹線効果がほとんどありません。
以上の飲食店や婚礼専業は出退店が身軽で,出足も逃げ足も速い業態。ホテルがそれらとの競合を避けたければ,はじめから料飲部門をもたない方が安全です。じっさい,市有地売却によるホテル誘致で,要件が厳格なハイアット・セントリックを除くと,金沢で今後開業するホテルすべてが,提供するのは朝食だけの宿泊特化型です。
5室に1室が新築ホテルとなる競争の結末は
約2000室の客室増で,金沢の宿泊市場には値下げ圧力がかかりますが,利用者にとっては,価格対クオリティの関係が改善されていく好局面です。なんと,金沢のホテルの約5室に1室はこれから建設のホテルという,築浅ホテルの比率がもっとも高い観光都市になります。
供給が急増する過程で,脚注の日経の記事が懸念するような「値下げ競争」は確実。しかし,現在の金沢のホテルを回ってみれば,すべてのホテルに一様の値下げ圧力が加わるものではなく,ホテルごとの価格やサービスレベルの設定に相当の温度差があることが見えてきます。経営サイドが,どの程度,金沢のその店舗の持続的な成長にコミットしているかです。
街中はマンション転用などの出口戦略も
たとえば,売上に占める金沢のホテルの割合が低いホテルグループでは,金沢の物件に投下した資金の回収が終わっていれば,閉店や撤退の判断は容易です。それでグループ全体の売上に与える影響も軽微でしょう。それが自己所有の物件なら,マンションへの転用など,売却も含めた出口戦略が検討できます。そうした転用では,決断が早い方が収益面でプラス。さらに,従業員を配置転換できる近隣店があれば,雇用面での制約もわずかです。
幸か不幸か,そういうホテルは,駅近でない大通り沿いで,マンションの需要が十分あるところに複数想定できます。金沢市の人口は微増で,隣の野々市市などを含む金沢都市圏では安定した増加傾向なのが,出口戦略を下支えします。これは,マンション転用が困難なリゾート地のホテルと違って,先行きを楽観できるところです。
競争の結末は宿泊市場や都市が沈むようなものではなく,予想される物件の閉店で,跡地はマンションなどに転用される,自然なものでしょう。そういった転用は,過去の金沢でも多く経験済み。介護付有料老人ホームに改装され,業績好調な二例など,街中で大通り沿いなら,いくらも挙げられます*13。
地価と固定資産税に反映,市の財政は好転へ
ところで,現在までの宿泊料金の上昇は賃料に反映され,金沢駅周辺の地価上昇の根拠となっています。地価上昇は,家賃や新規の住宅購入時のローンが気になる住民には,迷惑のようにも言われますが,市税の約4割は,地価に連動する固定資産税と都市計画税です。
どんな自治体でも,地価は上昇した方が,財政は良くなります。逆に,地価下落で安い家賃や住宅ローン負担に喜べるのは一面であって,一方で自治体の税収は落ちますから,中長期的には,財政難と公共サービスの縮小につながります。地価が下がって,より豊かになった都市など,ありません。
新幹線効果の次の注目点は,その固定資産税の評価替え。それは3年おきで,直近は平成27年度で平成26年1月1日の地価が基準でした。つまり,現在の固定資産税は,北陸新幹線開業の1年以上前の地価で計算されています。
新幹線の効果がはじめて現れる平成30年度の評価替えが焦点
次の評価替えは平成30年度。新幹線開業後はじめての評価替えが,平成29年1月1日の地価を基準に行われます。駅周辺では,ここまでの地価上昇を反映して,固定資産税の評価額も上昇し,相当の税収増が見込まれます。もっとも,郊外の住宅地に地価上昇はほとんどなく,大部分は現状のままか減額。この差も,新幹線からの経済的な便益の差と対応していて,妥当なものです。
なお,金沢市では観光対応で増えた費用をまかなう財源確保のために,東京都・大阪市・京都市のような宿泊税の導入が検討されています。すでに課税されている東京都・大阪市と,今後導入する京都市の動向を研究している段階です。
しかし,新幹線開業による駅周辺の地価上昇がもたらす,固定資産税・都市計画税収の伸びが,ようやく平成30年度から実現,増えたコストも,ひとまずは,その税収増でまかなえるはずです。その税収が,地域や対象ごとにどう変化したか,詳細に検証してからでも,遅くなさそうです。
これからも増える観光スポット
この点で,観光客に還元は?となりそうですが,たとえば,21世紀美術館は金沢市立で,無料部分だけでも楽しめる内容。ひがし茶屋街なども,景観のよい通りは市道で,その石畳の舗装や無電柱化にも,市税が投入されていて,これまでも還元はされています。観光に投入できる財源が少なければ,そのような景観と美術館などの施設は,存在していないのです。
これからも,おもに3点の新たな観光スポットが,県税・市税などで建設されていきます。
- 東京国立近代美術館工芸館の兼六園隣接地・本多の森への移転
- 金沢城の鼠多門と,尾山神社につながる鼠多門橋の復元
- 迎賓館赤坂離宮・游心亭の和室の写しを中心とした,金沢市立の建築文化拠点施設の建設(その設計者である谷口吉郎氏の生家跡地:金沢市寺町)
これらの完成までは,観光資源と宿泊市場の成長という好循環が期待できそうです。
外国人と女性の動向は過去記事へ
なお,過去記事でも,別のデータで金沢の観光を見ています。観光庁の宿泊旅行統計調査からは,金沢のある石川県の外国人観光客は,欧米からの割合が全国上位の県であることがわかります。
また,経産省の観光予報プラットフォームのデータからは,新幹線開業後に女性客の比率が高くなったことが発見できます。
*1:国土交通省,「主要都市の高度利用地地価動向報告-地価LOOKレポート-」,平成29年第2四半期(4ー6月期)
*2:日本経済新聞,北陸地域面,2017年8月22日.
*3:農林中央金庫金沢支店跡はホテルトラスティ金沢香林坊が営業中。旧第一勧銀のみずほ銀行金沢中央支店は,旧富士銀行側に統合され,跡地に東横イン金沢兼六園香林坊が営業中。いずれも,長町武家屋敷や金沢城の玉泉院丸庭園まで徒歩5分ほど,21世紀美術館も徒歩8分ほどと,観光にも便利です。
また,金沢駅金沢港口に移転した北國銀行旧本店跡地も,近江町市場まで徒歩2分の好立地で,ドーミーインの別ブランドである御宿野乃金沢(仮称)が建設中。第二本館跡地には,ユニゾイン金沢百万石通りが開業間近。
さらに,2017年には,隣接する北陸銀行旧安江町支店・のと共栄信用金庫旧金沢中央支店跡地をあわせて,和倉温泉の旅館・加賀屋グループが取得していて,ホテル建設計画が報道されています。それは,近江町市場から武蔵ヶ辻交差点の対角線上にあたり,めいてつエムザとANAホリデイ・イン金沢スカイの向かいです。
*4:都道府県単位で,宿泊者の居住都道府県か,外国人については主要国の国籍がわかります。市町村単位の集計は参考表だけで,居住地がわかりません。
*5:市町村単位の宿泊者数が,居住都道府県または国籍とともに日次で把握できます。特徴は,予約チャネルのデータを利用しているために,性別や年齢区分などの情報があること。さらに,推定に用いるモデルは非公表ですが,向こう数ヶ月にわたる宿泊者数の予測値が提供されています。
*6:上場REITでは,保有する資産などの財務内容や業績を明らかにした有価証券報告書の提出が義務付けられています。ウェブサイトなどでの速やかな開示は,推奨されていますが,任意です。
*7:正確には,このREITは,買収したこれらのホテルを,買収前の所有者であるホライズン・ホテルズに賃貸し,そこから賃料を受け取って収益としています。開示資料のように,賃料のうち変動部分は,売上高から売上原価やマネジメント・フィーなどを差し引いた,EBITDAに連動して改定される仕組み。そこで,売上が増すと,遅れて賃料が上昇して,ファンドの収益が向上します。
*8:北陸新幹線では,豪雪地帯はトンネル,ポイント箇所はシェルターや散水装置,それ以外は貯雪スペースをもった高架と除雪車の走行によって,これまで大雪の運休例がありません。市内の観光地までの道路も,散水や一部電熱による融雪装置が完備しています。
リスクがあるのは,視界不良や強風で,年に数日は欠航する航空機と,大雪や強風での運休がある在来線です。
*9:政策効果の評価をする際,その政策の対象となった処置群(treatment group)について,政策適用前後の変化を見るのが初歩的な検証ですが,現代の政策評価では,それでは不正確であることが知られています。政策の対象外の群,対照群(control group)も,同期間に何らかの変動をしているのがふつうで,両群に共通の要因があると,政策効果が過大に評価されるからです。
たとえば,北陸新幹線開業後に,金沢など沿線のホテルの稼働率や客室料金は上昇していますが,同時期にホテルの需要が増す傾向は,全国で広く観察されていて,すべてが新幹線効果だとはいえません。そのうちいくらかは,この期間の持続的な円安で,外国人観光客が増えたことによるものです。
そこで,政策変更前後の期間で,その政策の影響がある群(処置群)とない群(対照群)の変化を同じように計算し,さらに処置群の変化と対照群の変化の差分を取るのが,現代では標準的な評価です。
この例では,ホテルの平均客室単価であるADRなどの指標について,(政策変更後の処置群の値ー変更前の処置群の値)ー(政策変更後の対照群の値ー変更前の対照群の値)と「差の差」をとればよく,差分の差分法(Difference-in-Differences)として確立しています。具体的には,(金沢の2015年の値ー2014年の値)ー(福岡の2015年の値-2014年の値)などが,新幹線効果を評価する,より正確な指標として考えられます。
*10:厳密には,地価上昇にともなう固定資産税または賃料の増額分と,わずかながら賃金の増額分がありますが,宿泊料金の上昇に比べれば,限定的な変動です。
*11:飲食店の名店が金沢でどこに集まるのかを示すのに,わかりやすい数字が,金沢と周辺のミシュラン星付き店26店の地区分布です。
それによると,26店中14店が,武蔵ケ辻(近江町市場のある交差点)から,古くからの繁華街・香林坊と片町周辺の間に位置します。意外なことに,金沢駅徒歩圏は2店のみ。その2店とも,市外からの転入による新店です。
*12:婚礼専業の企業が金沢とその周辺で展開する施設は,駅近のホテルでは無理な景観や眺望のものが多く,それぞれ,犀川を見下ろす加賀藩家老由来の日本庭園,眺望のある兼六園隣接地,メタセコイア並木を抜けた丘の上,森に包まれた郊外の湖畔などです。これらはすべて,東京と福岡の婚礼専業の上場企業(元も含む)によるもので,駅近シティホテルの料飲部門とは競合関係にあります。
*13:金沢で閉店したホテルの転用例としては,建て替えず改装だけのもので,介護付有料老人ホーム:金沢シティモンドホテル→シティモンド金沢,金沢サンシャインホテル→サンシャイン神宮寺,ホテル併設の葬祭会館:メルパルク金沢→セレモニーホテルSAIENがあります。改装だけでのマンション転用例として,小規模なビジネスホテルですが,金沢プラザホテル→ミレニアム1があります。
建て替えでは,マンション:ホテル坂金沢→ドゥ・モンターニュ香林坊,結婚式場:NTT健保組合ラポート兼六(晩年独立してホテル兼六)→ラグナヴェール金沢,公共施設:金沢第一ホテル→金沢能楽美術館(21世紀美術館の広坂通り側隣地),金沢第一ホテル兼六→金沢市中央消防署味噌蔵出張所などがあります。
以上のように,街中の大通り沿いの閉店例は,空地や駐車場にはならず,同様の収益性や公共性のある活用が続いています。
なお,来館者が年間200万人台となった21世紀美術館の隣地にビジネスホテルがありながら廃業していることは,現状からは信じがたい話。それは,21美の建設計画すらない,20世紀のことで,北陸新幹線の上越妙高から先は,着工はおろか,ルートすら決まっていない時期でした。そこに存在した金沢第一ホテルは,地元の資本で,東京・新橋に本拠がある,当時の第一ホテルグループ(現・阪急阪神第一ホテルグループ)とは無関係でした。