北陸新幹線で行く,はじめての金沢

お庭,お菓子,お魚,お酒が揃う城下町をまわるため,金沢出身・東京在住者が往復しながらヒントを書いていきます。

宿泊客数は他の地方都市並みに増加して,国内15位へ:宿泊者数都市別ランキング

新幹線で東京方面からの旅行客が増え,金沢のホテルに関する論評も増えています。気になったので,客観的にわかることを書いておきます。

結論として,宿泊客数の政府統計では,地方都市の中で平均的な伸び。他の地方よりも伸びている印象は,平日まで合計された宿泊客数のデータからは読み取れません。それでも起こっている一部ホテルの価格の上昇は,週末や大型連休などに集中する旅行客によるようで,価格問題については後半と別記事に書きます。

都市別宿泊者数では17位から15位に浮上したが

観光庁は,宿泊旅行統計調査を毎月続けています。従業員数10人以上の宿泊施設は全数調査,それ未満の規模は標本調査で,調査施設数約17000と,この分野では最大規模。とくに,宿泊者がどの地域にどれだけいて,どう推移したか,全国同一の条件で継続調査していることに価値があります。

それを,直近で都市別の値が公表されている7月分まで1日平均として,新幹線開業前の前年と比較してみます。

1日平均宿泊者数の都市別ランキング
順位2014年4月~7月2015年4月~7月(速報値*1
都市宿泊者数都市宿泊者数
1 東京都区部 66094 東京都区部 78474
2 大阪 32654 大阪 37238
3 札幌 20001 札幌 22041
4 京都 18545 京都 21480
5 福岡 15510 福岡 17290
6 浦安 14742 浦安 15839
7 名古屋 10623 名古屋 12946
8 神戸 9597 横浜 12841
9 横浜 9296 神戸 10443
10 仙台 8495 仙台 8827
11 広島 7288 広島 8162
12 成田 6835 那覇 8157
13 那覇 5966 成田 6824
14 箱根町 5860 千葉 6498
15 千葉 5739 金沢 5703
16 鹿児島 5578 鹿児島 5277
17 金沢 5167 浜松 5191
18 浜松 4723 箱根町 5078
19 長崎 4216 長崎 4811
20 新潟 4017 熊本 4693
21 岡山 3971 岡山 4441
22 熊本 3790 佐世保 4019
23 北九州 3628 新潟 3983
24 宮崎 3486 北九州 3968
25 日光 3449 日光 3595
26 熱海 3168 宮崎 3584
27 佐世保 3104 松山 3448
28 大津 2935 熱海 3384
29 伊東 2780 高山 3333
30 白浜町 2654 別府 3299

出所:観光庁,宿泊旅行統計調査*2

1日平均宿泊者数は約1割増と他の地方都市並みの増加

金沢は,1日平均5167人から5703人へと10.4%の増加。しかし,より上位の他の地方都市で,広島12.0%,福岡11.5%,札幌10.2%,仙台3.9%と,いずれも伸びている中では平均的です。

日本の都市全般に増えている理由は,今年度に入って家計の実質所得が微増傾向なのと,円安による外国人観光客の伸び。全体が増加基調の中で順位を上げたのは箱根と鹿児島を抜いたものですが,このうち箱根は噴火に起因するとみられ,いずれ回復しそうです。

北陸新幹線の乗客が前年在来線比約3倍で推移する中で,この状況ですから,相対的に増えたのは日帰り客や沿線他地域の宿泊なのでしょう。ただし,脚注に書きましたが,この観光庁の調査では,小規模の宿泊施設では標本抽出調査で,回答率も50%台。金沢市が別に全数調査して公表している金沢市観光調査(平成26年)の数字よりも低めの数字です*3。金沢市観光調査による宿泊者数は,ときおりデータの一部が報道されるものの,報告書としては年単位の公表で,より正確な実態は来年までおあずけです。

より上位都市は,大都市と浦安,成田,那覇だけに

新幹線開業前から,金沢の宿泊客数は政令指定都市のいくつかよりも多い状態にまでなっています。開業後に気付くのは,金沢より宿泊客数が上位の都市はすべて,大都市(区のある政令指定都市)か,日本を代表するテーマパークやリゾート,国際空港をもつ都市であること。

この上の領域には,大都市との壁があります。それら大都市には,繁閑の変動があまりないビジネス需要と,それに応えるホテル層の厚みがあって,満足度にかかわる域内の交通インフラも充実しています。現在の金沢では,宿泊やそのアクセスの改善で,実現可能な範囲で目標とできる地方都市が少なくなっています。

地方でも広島,仙台は,ぞれぞれ人口119万,107万の大都市。人口46万人の金沢で,同じようなホテルの層の厚みや市内の交通網が用意されるのは無理です。参考となる都市としては,同様に歴史的な観光資源をもつところで,人口で同規模の長崎,より人口が多い都市なら岡山,松山,熊本,鹿児島なのでしょう。

なお,金沢より宿泊者数が上位の都市では,空港が目的の成田以外,すべて地下鉄か路面電車,軌道系の新交通システムがあります。ここも,大きな壁。金沢では観光客のほとんどがバスかタクシーに乗っていて,個々の落ち度が問われる確率も高くなります。

価格を大きく変動させているのは一部のホテル:
じゃらんなどのカレンダー表示で確認を

ネット上ではホテルが満室ぎみの日に,価格がかなり上昇する事例があると伝えられています。たとえば,平日5000円程度の部屋が,宿泊が集中する金・土曜日などに15000円台あたりまで値上がりする現象は,一部のホテルチェーンで確認できます。

とくに,部屋に入るまで,設備やアメニティの水準がわかりにくいホテルほど,そういう戦略がとれるようです。具体的には,ビジネスホテルとシティホテルの中間的な売り方のできるホテルです。

じゃらんなどのカレンダー表示では,予約済みの日の価格も含めて,同じ部屋の価格の変動がわかります。それで,予約するときに,その部屋が何もない平日にいくらなのか,カレンダー表示で確認しておくと,過剰な期待によるがっかり感も減ります。

ではなぜ,そのような部屋があるか。直前に決まった出張で,その価格でも出張費などの規程に見合う場合があるからでしょう。後で書くように,駅近のホテルで5000円の部屋は,ビジネス客に加えプライベートの観光客も集まり出す金・土曜を中心に埋まっています。急に決まるビジネスの一部では,直前に空室があれば15000円でも泊まりたい,経費は会社が払うから高くてもよい場合があります。そういう事態で,5000円のままで部屋が満室なら,泊まりようがありません。

5000円で週末は1か月前から全部満室という状態よりも,一部は15000円で空いていますという方が,選択肢が多く,多様な需要に応えているマーケット。突然のビジネス需要に応える高めの部屋を,空室として残しておくのは,一つの価格戦略です。

安いまま満室となるホテルは今でも駅徒歩圏などに

一方,シングル5000円程度の部屋を値上げせず,早々と満室にする戦略のビジネスホテルもいくつか観察されます。また,営利組織ではない共済組合の宿泊施設も,需要に応じた値上げをする誘因がなく,費用に基づいた手頃な価格のまま,かなり先まで満室になっています。

そのような値上げせずに早々と満室になったホテルは,地域と日付を指定したネット予約サイトの検索で,そのホテル自体がヒットしません。そこで,直前に予約を急いでいる人には,値上げしないタイプのホテルの存在がわかりません。結果として,金沢のホテルすべてが割高な印象に映ってしまいます。

それら需要変動で値上げしないタイプの具体的なホテル名については,長くなるので別記事にして,下にリンクしました。 

*1:第2次速報値のため,調査対象施設からの新たな回答により,数字が改訂されることがあります。

*2:各月調査結果のうち,市町村別の集計のある参考第6表ののべ宿泊者数を,調査期間日数で割って算出。おもな注意点は以下の通り。全数調査なのは従業員数10人以上の宿泊施設までで,それ未満は無作為抽出標本から母集団について推計された値であること,有効回答率が全体で50%台であること。ただし,これら標本抽出や回答条件は全国同一のため,数値が全体に過小評価されている懸念はあっても,地域や時系列の比較としては一定の目安になります。

*3:低めに出てくるもう一つの理由は,研修用も含む公共施設(定員1337人分)が金沢市の調査では入っていること。たとえば学校の宿泊学習などで利用されるような,畳敷き大部屋のある石川県青少年研修総合センターです。