誰もまとめきれていない金沢のお菓子
金沢和菓子のまとめサイトが増えつつある一方,どのまとめを読んでも,近年の広告が多いものに偏りがちです。自分用と職場へのおみやげにリピートしている,味本位ですすめられるお菓子がないことを嘆いていました。
理由はおそらく,菓子店は売れるようになると,広告をしなくなることです。そこで,SNSを含め,ネットの情報と写真をもとにまとめをつくると,新しい店の外観勝負のお菓子に偏ります。
金沢百番街あんとには,和菓子店が約30店
前記事のように,金沢は和菓子店の集積が特異で,約30店舗もの和菓子店が駅ビルのテナント・金沢百番街の「あんと」に並びます。
そこで,金沢の和菓子のうち,他で見かけないタイプのものを中心に,自分用と東京の職場におみやげにしている回数の多いものから,順不同,未完のまま,とりあげていきます。(自腹で買い,自分が撮影したものであることがわかるよう,基本的に同じ器で紹介してみます。)
きんつばやふくさは,競作が面白いため,そのうち別記事で
そのうち,別記事でまとめたいのが「きんつば」です。東京など大都市の和菓子店にもありますが,金沢でも競作の古典で,やはり味に違いがあり,そのうち比較します。
また,「ふくさ」は,もとは金沢だけでなく,全国で広くつくられてきた古典ですが,現在も複数店が競作しているのは金沢くらいでしょう。原型だけでなくアレンジした品が登場しています。アレンジした品だけ取り上げているまとめも見られるので,こちらもそのうち別記事にします。
一回目は,規模の大きな森八と小出です。新幹線改札右手のあんと入口すぐ右手が森八,正面最も奥が小出と,業容にあわせて要の位置にあるのが,その証し。金沢の和菓子で,この二店に触れないまとめは,ありえません。
森八:一番の老舗で,江戸時代からのらくがん,餅菓子の他,涼菓すずやかなどに創作も
創業が江戸時代と最も古く,加賀藩御用の重み。創作よりも伝統の品を食べてみたい方向けです。大規模な専光寺工場を有し,直営店も市内に複数。
お茶できる森八茶寮として,本店の他,ひがし茶屋街に3店舗,近江町市場十間町口向かいの近江町店など。
東京に直営店とデパ地下の出店が複数
首都圏でも,路面店で東京店(四ッ谷)の他,デパ地下に,日本橋三越,池袋西武,新宿京王,横浜そごうなどと最も多く出店をもちます。金沢だけでなく,東京のデパ地下にも上生菓子まで常備しているので,金沢の和菓子を東京周辺で揃える場合に,もっとも重宝するのは確かです。
千歳(ちとせ)
こちらは,米飴を含んだ餡を求肥で包む餅菓子で,下の写真の長生殿(らくがん)よりも古くからある品。このサイズと形状の餅菓子は,たとえば同じ城下町・姫路の玉椿などのように,他の地域にもいくつか古典的なものが残ります。
その中でも,餡に米飴の配合が多いためか,求肥だけでなく中の餡にも,もっちり感とこくがあります。このお菓子は,一向一揆のときの兵糧由来との解説があって,食べ応えがあるのはそれが理由かも知れません。
長生殿(ちょうせいでん)
こちらは,砂糖を和三盆のみとした伝統製法の落雁で,古典の極み。すべての装飾を取り払った後の,和三盆の素朴で心地よい口溶け感と深い甘みを楽しむ物だと思います。そのため,お茶や濃いめのコーヒー・紅茶などと合わせるものでしょう。最近は乾かさない生落雁も,数量限定で出ています。
近年の新作では,すずやか(小さな葛まんじゅうを含んだ和風のゼリー)あたりに面白さがあって,そのうち写真を追加します。
小出:定番・柴舟の製法特許でわかる技術力は,しっとりした生菓子や,毎年生まれる創作菓子にも反映
大正時代創業ながら,技術力と毎年生まれる新作,そして規模と品揃えで,森八の次に挙げるべき内容のお店。
柴舟(しばふね)
写真のビターな生姜せんべい・柴舟が独壇場。生姜砂糖を掛けて焼きながら,均質な白肌でざらつかず,ぱりっとしているのは,適温のコーティングを物理的刺激で結晶させる特許によるもの(特許第3445216号,2000年)。それ以外にも,共同研究による出願が見受けられます。
山野草(さんやそう)
焼菓子だけでなく,餡もおいしく,それを重くならないようにまとめた蒸菓子風のものも独特です。しっとしりした蒸しカステラとそぼろ状のこし餡を二層に合わせた山野草(さんやそう)は,大都市の大手(とらやなど)にはないタイプの和菓子。
2個単位のエージレスパックでそこそこ日持ちするので,職場で配るようなおみやげにも重宝します。生菓子のような食感と風味で,お茶と合わせる主菓子の買い置きともできます。
なお,黄色い蒸しカステラを上に,緑の餡を下にするのが,お店の展示やウェブサイトに見られる置き方ですが,そぼろ餡を上にした,下の写真の置き方(色違い)の方が,表面の起伏が見えて面白く思えます。
水てまり(山野草と入れ替わりで夏季限定)
夏期の涼菓には,甘酸っぱいジュレに,杏ジャムをわずかに含む水餅を入れた,水手まり。とろりとしたジュレに,ぷるんとした食感の水餅で,洋菓子店のジュレにはない組み合わせです。こちらは山野草とほぼ入れ替わりの販売。
持ち上げると周りのジュレがしたたり落ち,水餅は弾力を持ち続けるコントラスト。
栗法師
この他,和風のマロングラッセといえる栗法師あたりも定番で,すでに前記事で写真を挙げました。
一粒の栗の周りを羊羹がコーティングして,和三盆をまといます。微妙な色の差は,餡の成分の差で,割高になる白小豆(しろしょうず)を使っているのが老舗の誇り。栗羊羹の栗の周りだけ抜き出したような,ほっくり,まったりの食感です。
そらの舟
小出は大規模工場をもつ金沢和菓子の二番手格でありながら,創作が毎年1つは出るのが,帰るたびの楽しみ。近年では,餡とチョコレートを二層にして最中とした,そらの舟など,和菓子の枠に縛られない新作もあります。
これは,食べていくほどにチョコと餡の味が混ざり合うという独特のお菓子。それでいて違和感はありません。意外とうまくいくのは,両方とも元は豆(カカオ豆と小豆)だからでしょう。そのうち,こういうチョコと餡を組み合わせたお菓子をいくつか並べたいものです,
堅実経営で,規模の割に長らく店が金沢市内にとどまっていて,県外出店は,新幹線開業ではじめて出店した,富山駅のお店のみでした。
それが,2016年5月にはじめて東京出店。池袋西武に,「かしこと金沢」ブランドでテナントをもうけています。そこでは,定番の柴舟のほか,金箔をあしらった金つばなど,独自の品揃え。
他に大都市部で手に入るのは,デパ地下で全国各地の和菓子を揃えた区画に品物だけ流している柴舟と,東京・銀座の石川県のアンテナショップ・いしかわ百万石物語・江戸本店にある柴舟・山野草などに限られます。また,山野草は,池袋西武の本館中央地下1階・卯花壇(諸国銘菓コーナー)で売られていることがあります。
随時追記しつつ,つづきます。