開業後の利用状況がJR東日本・西日本から揃って公表されました。
北陸新幹線長野~金沢間開業後のご利用状況について: JR東日本,JR西日本
まとめると,
上下合計(人) | 3月14日(土) | 3月15日(日) | 3月16日(月) |
高崎・軽井沢(間) |
53500
|
51200
|
39000
|
上越妙高・糸魚川 |
35000
|
28000
|
21000
|
開業日の記念乗車の方々が帰られた,平日の3月16日(月)の数字が,今後のベースラインと考えられます。
北陸の上越妙高以西の乗車人員は,東北の盛岡以北を超え,上越の越後湯沢以北と同程度
この人数が,既存の新幹線区間のどのあたりに位置するか,似た数字の区間を抜粋してくると,
2013年度(九州は暦年で2013年) | 人/日 | |
東北 | 仙台・一ノ関(間) |
39947
|
一ノ関・盛岡 |
32392
|
|
盛岡・八戸 |
14919
|
|
八戸・新青森 |
9364
|
|
上越 | 高崎・越後湯沢(注) |
36536
|
越後湯沢・新潟 |
20763
|
|
九州 | 博多・熊本 |
25000
|
熊本・鹿児島中央 |
13900
|
注意:北陸新幹線開業前に越後湯沢乗換で富山・金沢方面へ向かった乗客を含む
出所:路線別ご利用状況|JR東日本
九州新幹線の3年間のまとめについて|国土交通省九州運輸局
今回の延伸区間では,長野県内までの乗客が降りた後,富山・金沢へ向かう客がすべて乗っている区間(上越妙高・糸魚川間)が気になるところ。記念乗車客が帰った後の月曜日,3月16日の乗客21000人をあてはめると,東北新幹線の盛岡以北や九州新幹線の熊本以南を大きく上回り,上越新幹線の越後湯沢以北をわずかに上回る実績です。
結局,近年建設された地方の新幹線区間は上回り,上越の新潟よりと同水準の数字で,事前に想定された範囲です。これで効果や収益性を疑問視するのなら,東北新幹線の盛岡以北,上越新幹線の越後湯沢以北,九州新幹線の熊本以南が先に問題になります。
注釈のように,2013年度の上越の高崎・越後湯沢間には,越後湯沢乗換・在来線はくたか号で富山・金沢方面へ向かっていた乗客を含んでいます。この部分は,在来線はくたか号なき現在,すでに北陸新幹線に移行しています。すると,今後の上越の高崎・越後湯沢間は,万人単位の減少が予想されます。
高崎以北の乗客数は,すでに北陸>上越に
高崎・軽井沢間は記念乗車が去った3月16日(月)でも39000人,これですでに昨年度の高崎・越後湯沢間の1日平均36536人を超えました。今後は,高崎・越後湯沢間の数字から,旧はくたか号乗り換え客が剥落しますから,高崎以遠の乗客の配分は,北陸が上越よりも多い状態が定着しそうです。
新幹線乗車人員は金沢が新潟と同水準,富山が長岡・新青森並み
各駅の新幹線乗車人員も両社から発表されていて,まとめると,
新幹線の乗車人員 | 3月14日~16日の1日平均 |
長野 |
7000
|
飯山 |
800
|
上越妙高 |
2300
|
糸魚川 |
600
|
黒部宇奈月温泉 |
700
|
富山 |
4700
|
新高岡 |
1600
|
金沢 |
9800
|
これは,新幹線改札の入場時にカウントされた,乗車だけの人員です。降りた客,在来線の乗客,入場券でホームまで見学しただけの人,改札外の見学だけの人は含んでいません。その分,信頼できる値です。これも似た駅の過去1年の値と比べると,
新幹線の乗車人員 | 2013年度の1日平均 |
新潟 |
8976
|
長岡 |
4666
|
軽井沢 |
3083
|
盛岡 |
7611
|
八戸 |
3313
|
新青森 |
4523
|
開業後の瞬間風速ですが,金沢は新潟を抜き,富山は新青森と長岡を抜いたことがわかります。今後の商業施設の需要予測も,それら類似駅の推移が目安となります。
乗客数は遜色ないのに空席があるのは,編成が長いから
最近,空席が目立つというツイッターなどが多いそうですが,乗客数としては,上に挙げた既設の地方の新幹線区間と同程度で,何も遜色はありません。大都市が連なり,いつも混んでいる東海道・山陽と比べるのは,もともと無理というものです。
ならば,なぜ他の新幹線区間に比べて空席が多いのかと言えば,
- 北陸:かがやき・はくたか・あさま(一部を除く):12両
- 東北:はやぶさ・はやての盛岡以遠:10両
- 上越:とき:8両2階建,一部10両
- 山陽:ひかり・こだま(山陽区間のみ):8両
- 九州:みずほ・さくら:8両
と,同様な乗客数の末端区間をもつ新幹線と比べて,北陸新幹線の編成が長いからです。上の数字で評価すれば,首都圏・北陸間の乗客数には,もともと8両で十分なところです。
どうして12両もつなぐのか。計画発表時に私は謎でしたが,その後に北関東の新幹線通勤事情を知り,納得はできました。それは,末端区間で北陸と同水準の乗客数になる上越新幹線が,なぜ8両の2階建なのかと同じ理由です。
上越も北陸も,高崎・熊谷などからの通勤客を乗せる席が必要
編成が長い理由は,北陸新幹線の車両E7,W7系が,高崎,本庄早稲田,熊谷から東京への通勤時間帯に入ることがあり,短編成では積み残しが出るからです。
先の乗車人数の資料では,定期券での新幹線乗客が,1日平均で高崎5668人,本庄早稲田1238人,熊谷2085人にものぼります。ここまで計8991人を,朝の1時間あまりのピーク時に,上越と北陸の車両で運ばなくてはなりません。かりに,E7,W7系のはくたかやあさまが突っ込めば,空の編成でも,高崎以南だけで10本は満席にできる大量の新幹線通勤客です。
現にそれをさばくため,上越新幹線には2階建8両,しかもピーク時に2編成併結という大量座席の車両が用意されています。
北陸の60Hz区間の存在やJR東日本と西日本の共同運行に技術的な制約が
ここからは,技術的な制約ばかりです。鉄道好きな方なら,このがんじがらめの制約に考える楽しみがあるでしょう。ネット上でも,いろいろなアイディアはありますが,シンプルな解決策はなさそうです。
上越新幹線の2階建車両の利用:60Hz区間や急勾配区間に対応しないので,北陸には乗り入れ不可
北陸に通勤輸送向け車両の新造:JR西日本には保有の誘因なし。すると,ダイヤ混乱時に,JR西日本との共通運用が困難に。
北陸新幹線は通勤時間帯の高崎以南すべて通過:東京駅の線路容量がぎりぎりで,通勤客を乗せない上り列車は極力設定できない
素人が考えつくことは,どれも無理で,そんなことぐらいは中の人はさんざん検討済みでしょう。
結果として,平日朝の上りで高崎や熊谷に突っ込んでも,ぎりぎり収容できる12両編成を両社で導入したというのが正しそうです。その通勤輸送のピークに耐える編成ですから,平日の昼間に空席があって当たり前です。
では東北新幹線の盛岡以遠はなぜ10両なのか
平日朝の高崎,熊谷と同じ大量の通勤客は,宇都宮,小山でも起こっています。それでも,盛岡以遠へ行くはやぶさと共通に運用されるやまびこも,1編成10両で済んでいます。
宇都宮や小山の朝通勤ラッシュで大変なことにならない理由は,この10両編成が,秋田新幹線用こまち用の7両や,山形新幹線つばさ用の7両を併結し,17両の長大編成でやってくるからです。その点,これまでのJR東日本の新幹線は,遠距離の高速輸送と北関東の大量の通勤輸送を両立できるよう,併結や2階建てという凝った策を使っています。
長距離高速輸送と通勤客大量輸送の両立が諸制約で困難に
それが,北陸新幹線では,60Hz区間,急勾配区間,JR西日本との共同運行と制約がさらに増えるために,通勤客との編成分離,併結,2階建といった凝った策が使えなくなりました。それで,新造車のすべての編成を,単純に長めにする凡庸な手しかなくなったということです。
ということで,他の地方の新幹線区間より北陸新幹線に空席が多いとしても,それは高崎・熊谷周辺の通勤輸送対応のためで,北陸のせいではありません。空席を少なくするには,他の地方の新幹線と同様に8両編成に減車すれば簡単ですが,それで困るのは高崎・熊谷からの通勤の方々です。
してみると,北陸新幹線は,沿線の流動が大きく異なり,しかも2つの鉄道会社の利害が錯綜している,日本でもっともややこしい新幹線であるともいえます。
ただし,通勤輸送のために編成が長く,それで空席が多くても,首都圏・北陸間の乗客が困ることはないわけで,土休日のピーク時間帯を除けば,自由席でも何とかなる路線。漁夫の利的な快適さは,制約のもととなった高崎・熊谷の方々に感謝すべきところです。
なお,利害の錯綜と言えば,北陸新幹線の大阪側がルートすら決まらないのも,関西のとくに利害が大きな滋賀県と福井県の考えが割れるからで,そのうち書いてみます。