本来のお茶屋とは,お茶するところではなく,芸妓さんのお座敷があるところと書いたのですが,そこにお茶そのものをつくる会社である丸八製茶場が店を出した例が,こちらの茶房一笑。リノベートされたシンプルモダンな内装も含めて,人気店になっているところ。整えられた内観で,金沢市のプロモーション・ビデオ(29秒~)にも登場します。
丸八製茶場は金沢よりも小松空港に近い加賀市の会社。もともと金沢周辺では,葉ではなく茎部分を焙煎したほうじ茶を,その細い棒状の形状から棒茶と呼んでいて,家庭でも飲み慣れていました。丸八さんには,その焙煎技術を高め,皇室に献上するなどで緑茶とならぶ知名度を確立させた功績があります。北陸新幹線のグランクラスで提供されるお菓子も,加賀棒茶のパウンドケーキ。
驚いたのは,お抹茶の大老舗,京都・一保堂が,いつの間にか,「くきほうじ茶」という名称で,こちらのような棒茶を出すようになっていました。ただしそこは,抹茶の大御所のプライドとして,茎の焙じ茶は葉の焙じ茶よりもリーズナブルであることが説明されていて,なかなか面白いところ。
さて,店頭の暖簾は季節に応じて変わるようで,この時期は緑。
このディスプレイの中におられるのが小杉一笑さんで,江戸時代に金沢にいた茶商かつ俳人。そうありたいとの店名。松尾芭蕉が金沢を訪れたとき,その一笑の死を悼んで,句を詠んでいます。
茶屋の建築は格子が台形状なので,写真のように,外からは中はほとんど見えないのに,中から外は見通せます。プライバシーが保たれるのに開放的な空間。茶屋は料亭と同じく,中に誰がいるかわからないことが重要な機能でした。
写真のように,こちらのテーブルはすべて予約済。もとお茶屋の建築で,リノベートしてもこれだけしか席がありませんので,新幹線のお客さんには対応できませんね。実際,私は20分くらいいましたが,その間6人ほど,満席で帰られました。茶屋街の飲食店やカフェは,予約が可能なお店では,それがすすめられます。
こちらは以前に格子窓側の席で,お抹茶と上生菓子をいただいたときのもの。ふらっと来て,こういう席につけるゆとりは,もうなくなるかな。
今回は,こちらのカウンターで。ディスプレイや照明には凝ってらっしゃいます。茶釜も現代のIHヒーターの上で存在感を。
いただいたのは上生菓子とお抹茶のセット。この時期,あしらいは梅の花。このほか,こちらの主力である加賀棒茶やケーキとのセットもあります。上生菓子は,高砂屋へ特注されているとのこと。
お茶屋さんの建築は内部に坪庭をもつものが多いですが,その窓の向こうには現代のオブジェを。
カウンター奥のディスプレイにある紅白の小さなお人形は,加賀八幡起上りという,一種の起き上がり小坊師さん。石川県のゆるキャラ,ひゃくまんさんのベースです。
こちらは,江戸時代からの老舗,中島めんやで,大きさに応じて1000円未満の手頃な価格から売られていて,おみやげにも使えます。丸八製茶場の加賀棒茶ともども,金沢百番街で買い求められます。