北陸新幹線で行く,はじめての金沢

お庭,お菓子,お魚,お酒が揃う城下町をまわるため,金沢出身・東京在住者が往復しながらヒントを書いていきます。

めいてつエムザ・黒門小路エリアで1日乗車券による5%割引開始:酒と工芸品も割引がうれしい

周遊バスなどに乗る観光客がよく買っている1日乗車券の特典が,2017年4月から増えました。めいてつエムザの1階にある,おみやげ向けの品を集めたエリア・黒門小路の5%割引です。1日乗車券を買うともらえる時刻表の下に,小さな広告が載っています。

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この話,ネットでほとんど見ないのは,はじめての観光だと,めいてつエムザがどういうお店か,想像しにくいからでしょう。金沢にあるデパート2つのうち1つで,名鉄が持株比率で87.8%になる連結子会社です*1

周遊バスの北陸鉄道も名鉄グループの関係

周遊バスを運行する北陸鉄道も,名鉄が筆頭株主で,名鉄グループの一社*2。ここに長らく回数券・定期券の売場を置いていて,1日乗車券も買えます。それもあっての割引です*3

近江町市場の対面で,地下道も接続

場所は近江町市場の対面で,観光で寄り道しやすい立地。近江町市場のエムザぐちを出て,横断歩道を渡った向かいです。上は,18階までホテルのANAホリデイ・イン金沢スカイで,目立つ建物。

近江町市場とめいてつエムザは,地下道でもつながっています。下の図のように,近江町市場のいちば館に入り,地下1階へ。そこから地下道で,めいてつエムザ地下1階に入れます。黒門小路は,図の右上のエスカレータで,1階に上がったところ。

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なお,周遊バスと兼六園シャトルが停まる武蔵ヶ辻バス停も両側にあって,屋根付き。雨や雪でも,金沢駅との往復や,めいてつエムザ・近江町市場間の行き来では,濡れません*4

割引は1階の黒門小路部分だけ

売場には,こんなポップが掲げられています。

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対象となる売場は,めいてつエムザのうち,1階の黒門小路部分だけ。このほかに,上の図にあるように,地下1階に食料品とカフェ・レストランがありますが,そこは割引の対象外です。

また,後で書くように,売場中央の工芸品レジでキャッシュバックする方式で,購入後に少し時間が必要です。

めいてつエムザとは別の包装紙

買ったパッケージはこんな感じ。

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包装紙は,黒門小路専用のものになります。もちろん,デパートなので,のしや包装紙は,慶弔・名入れなどがリクエストできます。

価値ある割引:工芸品

5%割引であえて足を運びたくなるのは,割引がそれなりの額になる品。そこで,たまに買いたくなる器を選んでみました。現代の九谷焼で,遊び心のある盃です。

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器の縁を登っている人を,一閑人いちかんじんといい,料理や酒に笑みを与える装飾です。様々な窯が手がけられている中,九谷焼では,上出長右衛門窯がカジュアルなものを出されています。

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この小皿,鱗に見立てた凹凸もおしゃれです。

以前,金沢の複数の料理店で出会った上出長右衛門窯の器が印象的で,機会があれば買おうと思う窯元の一つ。その例として,同じ一閑人がいる祥瑞柄の皿で出されたお造りです。

九谷焼・上出長右衛門窯の染付祥瑞一閑人で出されたお造り(金沢の料亭・金茶寮の懐石料理)

上の写真は,金茶寮で出されたもの。改めて調べてみると,手描きの大皿なので,なかなか買えない価格です。なるほど,海老や赤身のお造りが引き立てられる藍色の染付で,冬なら蟹が映えそうな器。食と工芸が響き合うのが,この街の楽しみです。

陶磁器の価格差:手描きと印刷は使い分け

ところで陶磁器では,同じようなサイズと絵柄でも,大きな価格差があります。たとえば,1000円ほどでも,かなり綺麗な絵柄のものが揃う一方で,上はきりがありません。その差の多くは,絵付けが印刷や印判か,手描きかによるものです。

手描きは,プリントに比べて,複雑な曲面や凹みでも描画ができ,造形の細部まで引き立てられます。一閑人の部分など,その典型。また,線画に自然なゆらぎがあって,規則正しい印刷よりも,心が安らぎます。高価なものでは,釉薬の秘伝の配合やかけ方による微妙な発色があって,プリントでの再現が困難です。

一方,プリントでは,色の豊富さや柄の鮮やかさに優位性があり,キャラクターなど絵柄の自由度も拡大。じっくり見ると印刷とわかるものの,普段使いできるコスパはそれを凌ぐ魅力です。飲食店の食器でも大部分はプリントで,高い店でようやく手描きの皿が増えてくるのが現実です。

そんなわけで,シンプルな形だが鮮やかな皿を揃えるならプリント,複雑な造形のもの,一枚の大皿や気分で選びたい酒器・豆皿をこつこつ買うなら手描き,と買い分けるのがよさそうです。

人間国宝などの工芸品が奥に

黒門小路の奥には,九谷焼だけでなく,大樋焼や加賀象嵌,蒔絵を施した漆器などの工芸品が並べられています。数点ですが,人間国宝などの作品があって,そこは美術館水準。ほとんど観賞のためのエリアで,撮影禁止です。

ちなみにもっとも高いものは,人間国宝の先生の象嵌の花器で540万円でした。それも割引になるのかは,事前に店と相談を。

価値ある割引:日本酒

そして,いくら買っても困らない日本酒です。棚は他にもあるのですが,冷蔵用のケースの一つはこちら。

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生酒を集めた,この冷蔵ケースの写真を何気なく撮っていて,帰ってからあることに気付きました。ひとまず,いつも飲んでいる手取川の,この時期はあらばしりがあったのでゲット。

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通年出荷されている吟醸酒は,大都市圏に広く出ていて,買って帰ろうとまで思いにくいもの。しかし,あらばしりなど,季節ごとのお酒で要冷蔵のものは,あまり出回りません。

手取川の良さは,淡麗でありながら,酸味が抑えられていて,甘みと旨みがほどよく調和することだと思います。とくに,酸味の少なさは,もともと淡泊な魚の白身や甘えび・かにの旨みを消さない利点があって,そういう食材の多い北陸で伸びるのもわかります。また,昆布だしを主とした,淡味のお椀にも合います。これには,後に書く,酵母の特性が寄与していそうです。

冷蔵ケースにあったお酒の共通点は

加賀鳶ブランドが主力となった福光屋も,地元向けに残る福正宗ブランドの生酒をこちらに出していました。福光屋は大きな蔵で,酵母は巧みに使い分けられていますが,この生酒は金沢酵母との表示。一方で,写真右手には,吟醸酒で定番の黒帯が写っています。

後で気付いた冷蔵ケースのお酒の共通点は,偶然でしょうが,金沢酵母の酒か,金沢酵母をよく使われるお蔵でした。能登の竹葉,小松の神泉もそうです。

金沢酵母,それは隠れた金沢ブランド

知る人ぞ知る金沢酵母。それは,国税庁の金沢国税局鑑定官室で培養されていた酵母のうち,有望なものの特性が分析され,日本醸造協会で頒布されているものです。その「きょうかい14号」と「きょうかい1401号」の通称が,以下で名付けられた金沢酵母。成り立ちと特性は,以下の原典に。

こういう資料が,全文pdfで読めるようになったのは,よいことです。

局内で培養されていた酵母は,当地の蔵付き酵母を採取したもの。北陸の酒蔵では,これと類似の酵母が,意識せず,文字通り自然と使われてきたことになります。

1401号の記事では,試験醸造などに関する謝辞がその手取川の吉田酒造と,富山の満寿泉の枡田酒造にあります。どちらも東京で手に入る好きなお蔵ですが,なるほど似たようにはまります。

金沢に あってよかった 国税局

この酵母が金沢酵母と名付けられたのは,培養と分析が金沢国税局だから。国税局が金沢になければ,分析は行われなかったかもしれません。また,北陸国税局のような名称なら,この名前ではない可能性も大でした。

ネーミングは,予算ゼロでできるブランディングの第一歩。地方創生には,各地の酒蔵独特の酵母でめぼしいものを特定し,名前を付けること。「名もない花には名前を付けましょう」(コブクロ「桜」作詞:小渕健太郎・黒田俊介)です。

5%は現金で戻る

肝心の割引ですが,いったん現金,クレカ,Suicaなどで払った後,売場中央の工芸品カウンターにレシートと1日乗車券を提示する方式。

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レシートの裏にスタンプが押され,現金で5%分が返ってきます。返金分のレシートが欲しいところですが,それは売場に残され,手元にはもらえません。ここは手作業なので,時間に余裕がいります。

上の九谷焼と日本酒は,ネット販売等と(割引前の)店頭価格は同じで,そこから5%割引のありがたみがあります。また,店の前のバス停まで,この1日乗車券が使えますから,結果的に買わなくても損はしません。

*1:(株)金沢名鉄丸越百貨店,平成28年2月期有価証券報告書

*2:ただし,持株比率は13.6%にとどまり,名鉄の連結対象ではありません。

*3:金沢のバスとデパートの1つが名鉄系であることは,東海地域以外の方には,意外と言われます。実は,加賀藩初代藩主の前田利家は,仕えていた豊臣秀吉と同じく,現在の名古屋市出身。また,このデパートの対面は,近江商人に由来する命名との説のある近江町市場ですが,その東隣は前田利家に関連して尾張からの人々が移住した尾張町で,明治時代までは金沢で一番の繁華街でした。要所にその地名が残るのが,東海・近畿と人の往来が盛んだった証しです。

*4:観光で雨や雪のときのおすすめは,という質問がよくあります。近江町市場はいちば館から先も,ほとんどすべて屋根付きで,そこと地下道でめいてつエムザを回ると,時間がつぶせます。近江町市場内だけでなく,めいてつエムザの地下と1階,上階に,スタバを含めてカフェとレストランが複数あります。

新幹線が金沢を女子旅の街に:宿泊客は男性より女性が伸びて,女性の割合は京都・奈良の水準へ

彼女が行きたいと言ったから

突然ですが,まずはこの方のインタビューを。

どうして金沢かというと,「彼女が行きたいと言ったから」だそうです。

映像では,記憶に残ったものがありのままに答えられていて,いい感じ。やはり定番の,庭や城(palaceと言われてましたが),そして茶屋街に行かれたようです*1

誘われてちょっと金沢まで,でよいのです。それが今度の週末でもと気軽になったのが,新幹線の絶大な効果です。

昔旦那衆の街,今女子旅の街

金沢に3つある茶屋街の中で,最も客を集めるひがし茶屋街。それは女子旅の街になりました。3月の平日,みぞれの日の様子。

金沢のひがし茶屋街では女性の観光客が増え,着物のレンタルの利用も多い(2017年3月の平日・みぞれ)

同じ3月の平日で晴れの日はこちら。天候がよいと,写真もきれいにとれ,人出も増します。

金沢のひがし茶屋街では女性の観光客が増え,着物のレンタルの利用も多い(2017年3月の平日・晴れ)

和服のレンタルと着付けのできる店が増えて,若い女性ほど街歩きの楽しみになっています。着こなしもさまざまで,それをスマホで記念撮影や自撮りすることが,SNS時代の付加価値です。

グループから一人旅まで女性が多く

写真のように,現在のひがし茶屋街で多いのは女性のグループで,次がカップル。さらに,女性の一人旅もよく見ます。片方向毎時4本(両方向で毎時8本)が循環する周遊バスで金沢の観光地を一通り回れることが,一人旅も気楽にしています。

また,茶屋街の昼のカフェなどは,人の流れから推測される通り,多くが女性。予約が必要なレベルの鮨店でも,女性一人旅を見かけるようになりました。カフェ,割烹,鮨店などのカウンターは,人数によらず横並びで,おひとり様が浮くことがなく,実は気が楽です。

工芸品店はお連れ様以外ほぼ女性

そして,女性比率がもっとも高くなるのは工芸品店で,ほとんどが女性客とそのお連れ様です。

石川県には,人間国宝や文化勲章などの重鎮を擁する輪島塗,九谷焼,大樋焼などの産地があります。そして金沢では,国内の生産シェア約99%をもつ金箔が作られます。また,公立美大では全国でも3番目と,戦後早い時期に創設された金沢美大に,工芸系の学科が充実。さらに,金沢市立の卯辰山工芸工房で,若手作家を育みます。

そういう背景で,普段使いのできるかわいい器が千円前後から揃います。ひがし茶屋街や金沢駅のあんと,そして街中の各所に老舗から新店までが充実。予算に応じた品が選べることが,女性に受けているようです。

経産省のデータで男女別の宿泊客数がわかる

さて,本当に金沢は女子旅の街になったのか。宿泊客の地域別統計でもっとも使われる観光庁の宿泊旅行統計調査では,調査票に性別の項目がなく,調べようがありませんでした。

一方,経済産業省が2015年12月から公表している観光予報プラットフォームは,各種宿泊予約チャネルで得られたビッグデータから宿泊客数を推計したもの。予約時の情報を利用するため,大規模な宿泊統計ではじめて性別の宿泊客数がわかります。

女性の方が伸びている金沢の宿泊客

その月次集計を用いて,金沢の男女別の宿泊客の推移をグラフにしたのがこちら*2

金沢市の男女別宿泊客数を北陸新幹線開業前後にみた推移

開業後の宿泊客は,男性に比べて女性が大きく伸びたことが,よくわかります。開業前は,宿泊客の男女差はあまりなく,女性が増える3月と夏から秋だけ,10%ほど女性が多くなる程度でした。

新幹線開業後には,女性と男性の差が拡大しています。客全体が落ち込む12月,1月以外は,女性は男性より毎月5万人ほど多い情勢。大人の宿泊客に占める女性の比率は,60%を超えました。男性は40%未満で,その差が2割ついています。

代表的な地方都市とリゾートの女性比率は

遅れてやってきた新幹線ですから,気になるのは,観光で思い浮かぶ他の都市の女性比率。そこで,観光に注力する都市いくつかの宿泊客のうち,女性の比率をグラフに描いてみます。

女性の宿泊客が多そうな場所としては,街中観光の都市だけでなく,リゾートも考えられるところ。そこで,ビーチ,高原とアウトレット,テーマパーク,温泉の代表格を入れてみました。知名度の高いところで,リゾートホテルが集中する沖縄県恩納村,長野県軽井沢町,浦安市,そして新幹線駅すぐの有名温泉地である熱海市を比較しています。

女性の比率と大人の比率で散布図を描くと

ところで,この調査では,子供(宿泊が子供料金となる小学生以下)の性別がわかりません。リゾートでは子供の割合が高く,それも比較したいところ。そこで,都市ごとに,女性の比率を横軸に,大人の比率を縦軸に描いた散布図がこちら。

国内の地方都市や代表的な観光都市の宿泊客のうち女性の比率と大人の比率の関係

右に行くほど女性が多く,上に行くほど大人が多いことを表した図。右上ほど女性・大人の観光地であることを意味します。

きれいに読み取れるのは,金沢が京都と奈良の特性(女性・大人の観光地)に近づいたこと。新幹線開業前後の比較のために,金沢だけ開業前の位置も入れています。以前の金沢は,地方都市の平均的な位置でしたが,開業2年で京都・奈良の近くへと進みました。

金沢は地方都市の平均から京都・奈良へ近づく

全般的な傾向として,ビジネスの宿泊に加えて,女性に人気の観光スポットが増えるほど,女性比率が高まります。たとえば,すでに世界遺産登録されている明治時代のグラバー園や,登録をひかえる大浦天主堂などのある長崎市の女性比率は,やや高い方。佐世保にあるハウステンボスを目指す宿泊も多いでしょう。新幹線開業前の金沢は,道後温泉と江戸時代の天守の残る松山城などが見どころの松山市と同じポジションでした。

とりわけ,長崎市や松山市が気になる理由は,両市も人口が40万人台の後半で,金沢市と人口と財政力が同水準。できることと無理なことが似ていて,勉強になる都市です。観光資源にも類似性があって,江戸時代前後からの建築物や街並み,漁港があって魚介類が豊富,独特の料理やお菓子などです。

一方で,仙台や新潟は,女性より男性の割合が高い宿泊地であることがわかります。すでに内部の情報でわかっていることと思いますが,JR東日本が首都圏からの新幹線の旅を訴求するなら,この男女差は重要。現状では,仙台・新潟には男性向けのツアーを,金沢には女性向けのツアーを企画するのがよさそうです。

有名観光地で女性が多いのは浦安

もっとも,有名どころで女性の比率が最高になるのは,街中観光の都市ではありません。ディズニーリゾートを擁する浦安で,大人の宿泊客のうち,女性は66.5%,ほぼ3人に2人です。全市町村を比較したわけではありませんが,よく知られた宿泊地では,浦安が女性比率の特別に高い都市といえそうです。

ただし,散布図でわかるように,リゾート全般に子供を連れた家族旅行も増えるため,同じく女性が多い京都・奈良とは客層が異なります。当然ながら,リゾートでは,ファミリー向けのサービスが重視されるところ。逆に京都・奈良そして現在の金沢では,それが手薄なところです。

女性の比率は開業2年目も増加,秋は京都の水準へ

開業前後で女性比率が10%ポイントも上昇したことについて,その経過がわかるようなグラフを最後に。大人の宿泊客のうち女性の比率の推移を,京都と金沢で比べたものです。

宿泊客のうち女性の比率の推移(京都市と金沢市の比較)

新幹線開業までは,10%ポイントの差がありました。開業後に詰めていって,現在の差は数%ポイント。客数全体としては反動減のある開業2年目も,女性の比率は微増傾向です。

女性比率のピークは11月で,京都と同傾向

差がもっとも小さくなるのは,兼六園など街中の紅葉が美しく,かに漁が解禁となる11月。そこが女性比率が最も高くなる月です。建物や庭園だけでは,千年の都にはとてもかないませんが,そこに紅葉,プラス他にない魚介類とその料理があると,「合わせ技」で迫れることがわかります。

女性が増えた原因は:観光資源に大きな変化なく

女性の比率が高まったことは事実として,疑問が残るのは,その理由です。新幹線が開通してから,文化財が発掘されたり,街並みが急に整備されたわけではありません。

新幹線開業前後で,新しい景観が整ったのは,玉泉院丸庭園かなざわ玉泉邸ぐらい。増えた観光客が全員,これら新しい観光スポットに行ったのではありません。両方とも定番のコースから少し逸れるところで,兼六園やひがし茶屋街,21美とは異なり,SNSであまり写真を見ません。

増えた新店は女性客増加の原因ではなく結果で

ひがし茶屋街と主計町かずえまち茶屋街には,新幹線開業前後から,鮨,和食,カフェ,酒,工芸品などの新店が,あわせて2桁ほどできました。ただし,これらは茶屋建築の内部のリノベーションがほとんどで,開業前後で伝統的な街並みが蘇ったのではありません。

この点は,店の増加と女性客の増加の因果関係が逆で,女性が訪れる街になったから,女性向けの新店が増えたと考えるのが正しそうです。

原因は首都圏から見た競合観光地との特性の違いか

女性が増加したのはグラフのように新幹線開業後。観光地側の店の変化が需要に合わせた結果とすれば,原因はやはり交通機関の進化(速さと乗り換えなし)でよいのでしょう。それに加えて,首都圏を起点としたときに競合する観光地の中で,金沢の観光スポットや食と工芸などが,比較的女性向きであったことが効いていそうです*3

それなら,女性が増えたことは一時的ではなく構造的な変化で,ホテルなどでは客室やサービス,飲食店ではメニューやサービスなどの進化が,次の課題です。

女性が増えたことに応えるなら

たとえば,下の写真は,ひがし茶屋街の和カフェの新店で,最近出されるようになった抹茶アフォガード。温かい抹茶を,冷たいアイスクリームにかけて楽しみます。

金沢・ひがし茶屋街の和カフェ・波結(はゆわ)にある,抹茶をアイスにかけて楽しむ抹茶アフォガード

若い女性が増えるほどに,リーズナブルなメニューも求められるなか,その範囲で写真も楽しめる趣向は大切と思われます。そしてこちらも,ひがし茶屋街の新店。

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茶屋街には珍しい新しい庭に,ガトーとスパークリングワインが映えます。これも女性向けの進化です。日本料理で言えば,接待に向く伝統的な個室での懐石料理より,上質なカウンター割烹や居酒屋が混んでいるのも,その志向でしょう。

考えてみれば明日が,新幹線開業2周年。桜の季節も近いので,昨年撮影した主計町茶屋街と浅野川にうつる桜を。

金沢・主計町(かずえまち)茶屋街で,浅野川に映る満開の桜(2016年4月)

この桜が今年見られる頃には,開業3年目。北陸新幹線もこの先,福井・京都・新大阪と人口が集中する大都市へつながります。これまでの整備新幹線で,人口がもっとも多い区間で,思い立った旅行も双方向で増えそうです。

*1:Castleとpalaceの違いは,外国の方には難しいようで,外国人観光客を案内するときの注意点とも言えます。
 外国人が石垣のある日本の城を見て,palaceと思われる理由は,東京での皇居(Imperial Palace)の印象が残っているからでしょう。もちろん皇居は,もとの江戸城(Edo Castle)でした。そのため,他の街で城を見ても,東京で見てきたImperial Palaceが思い出されるわけです。
 そういう意味では,日本最大の城下町は江戸・東京です。江戸時代,金沢は,江戸・大坂(大阪)・京(京都)に次ぐ日本第四の都市でした。その後,金沢は,太平洋戦争の空襲をまったく受けなかったので,他の城下町に比べても木造の建物が多く残っています。
 後の写真にある,観光スポットの茶屋街なども,東京大空襲がなければ,新橋,赤坂,神楽坂,向島などに,日本最大規模のものがあったはず。現在,そうした建物が残存する規模では,金沢の三茶屋街は,京都の次といえます。

*2:性別のわからない子供(宿泊予約なので子供料金となる小学生以下)を除いています。

*3:開業した北陸新幹線によらず,金沢はもともと関西・中京から直通2時間台で,旅行の候補地でした。それでも,新幹線開業前は,女性客はこれほど多くなかったところ。
  関西を起点に考えると,京都・奈良に歴史的な観光資源が集積するのに加え,山陽・山陰・四国に国宝の城や特別名勝の庭園をもつ城下町が連続します。たとえば,大阪出発を考えると,金沢は,岡山・倉敷・尾道・広島・松江・高松・松山などと,観光資源の種類,時間と費用の点で競合します。
  一方,首都圏を出発地とすると,JR東日本の新幹線沿線の城下町は,それぞれが大きく離れていて,国宝や特別名勝も散在。金沢と競合する目的地は,西日本ほど連続的ではありません。

ひがし茶屋街に女子高生・斉藤由貴が下宿し,柳葉敏郎に恋する31年前の映画「恋する女たち」

2017年度から,フィルムツーリズムに力を入れるという金沢市。今から31年前になろうとする1986年,この間の歳月を忘れさせるほどのキャストで,金沢で撮影された映画がありました。この映画,Amazonでは予告編まで無料で進め,購入はその先です。

恋する女たち

金沢を舞台に、恋に悩む3人の女子高生を描いた青春ドラマ。氷室冴子の原作を大森監督が温かな視点で映画化。(C)1986 東宝

原作:氷室冴子,監督:大森一樹,出演:斉藤由貴柳葉敏郎高井麻巳子相楽ハル子小林聡美ほか

丸30年を経過しても,斉藤由貴さんはもちろん,柳葉敏郎さんの「踊る大捜査線」でのブレイク,最近ではLOTO6LOTO7シリーズCMと,活躍が続いているキャスティング。また,高井麻巳子さんは,AKB48グループを統括する秋元康氏のご令室に。その皆さんが,高校生役という時代です。

この大森一樹監督,斉藤由貴主演の映画は,東宝でこの後何作も撮られています。金沢ロケを含む撮影の裏話はこちら。

無料の予告編では梅ノ橋を渡る二人が

予告編では,ひがし茶屋街の近くで浅野川を渡る梅ノ橋を,斉藤由貴・相楽ハル子のお二人が歩きます。そのアングルで現在撮影すると,こうなります。

映画「恋する女たち」や「舞妓Haaaan!!!」に登場する梅ノ橋(金沢市・ひがし茶屋街近く)

この橋は,2時間ドラマなどでも,よくターニングポイントとなるところ。歩行者と自転車専用のため,占用許可が下りやすく,木造の欄杆で車がかぶらないために,河原からの望遠も含め,さまざまな構図がとれる場所です。

梅ノ橋でのロケは「舞妓Haaaan!!!」などでも

その梅ノ橋は,京都が舞台の映画「舞妓Haaaan!!!」にも,わずかに登場します。この映画,京都では撮りにくい,狭い路地に茶屋建築の街並みが,金沢の主計町かずえまち茶屋街でも撮影され,うまくつなげられています。

舞妓Haaaan!!!

脚本:宮藤官九郎,出演:阿部サダヲ,堤真一,柴咲コウほか (C)2007「舞妓Haaaan!!!」製作委員会

無料で見られる「舞妓Haaaan!!!」の予告編では,0'10"に主計町茶屋街の暗がり坂の石段が登場。すぐ映像が切り替わり,夢の橋という名に改められた梅ノ橋を,阿部サダヲ氏が駆け下ります。0'46"の恥ずかしいシーンも,京都のようでいて,金沢市香林坊の東急スクエア前の歩道を片町方向に写したものです。

斉藤由貴が女子高生で,ひがし茶屋街の民家に下宿

「恋する女たち」に戻ると,主演の斉藤由貴が住んでいたのは,金沢でも兼六園・21美と並ぶ観光スポット・ひがし茶屋街。30年前は,現在のような和カフェもレストランもなく,芸妓さんのいるお茶屋さんだけが並んでいて,昼はひっそりしていました。

また,下宿先も,お茶屋さんではなく,ふつうの民家に縁故でという設定。それで,芸妓さんは,まったく登場しません。

金沢で展開されるシーン

1986年の金沢が映るシーンを書き出すと,以下のようです。特記のない限り,斉藤由貴さんが現れます。場所だけで,筋は伏せますが,気になる方は本編を観てからどうぞ。

1'3" ひがし茶屋街近くの梅ノ橋

3'12" 卯辰山丘陵の墓地の一角

5'22" 主計町茶屋街の小料理店(架空)

7'45" 尾山神社(風景のみ)

7'46" 長町武家屋敷跡

8'01" 片町スクランブル交差点
セブンイレブンの位置にミスタードーナツが

8'24" 香林坊の映画館・スカラ座(廃館:現香林坊東急スクエアの裏手)

柳葉敏郎氏が野球部の高校生役で登場

8'51" その映画館前で柳葉敏郎さん初登場(若すぎる)

9'47" 石川県立工業高校のグラウンドで柳葉さんが野球の守備
(背景に隣の遊学館高校の建物)

10'52" 銭湯の帰り道:ひがし茶屋街の現・箔一東山店方向から広見を経て,現・金澤東山しつらえ角を通り,下宿へ

現在,金箔ソフトクリームに列の絶えない箔一の東山店は,当時は銭湯・東湯ひがしゆで斉藤由貴さんが通っていた設定でした。

下宿前に,実家の設定である辰口たつのくち温泉の旅館・まつさき(今も実在)のポスター。旅館の組合がひがし茶屋街にあって,そこに下宿という設定です。それは,ひがし茶屋街の検番(旧来のお茶屋さんの組合)のそばにある民家です。

下宿先から銭湯への道がこの方向。奥に見える白壁で黒い瓦屋根が当時実在した東湯で,現在は箔一の東山店です。一般のお宅でない,営業店だけの構図で現在写すとこんな感じ。

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朱色の建物は金澤東山しつらえで,その奥の広くなっているところが,観光客が写真をよく撮っている広見という位置関係。映画では,この道を斉藤由貴さんが悩みつつ歩いています。

下宿先は東山しつらえの近くで,ひっそりした茶屋街

13'11" ひがし茶屋街・金澤東山しつらえを横から

13'22" 県立工業高校・遊学館高校の俯瞰

18'54" 犀川大橋を野町広小路方向に渡る北陸鉄道バスの最後列に斉藤由貴さんと相楽ハル子さん

19'12" 土塀が背景になる野町六斗広見のバス停(架空)
以前は商店があって,菓子店の諸江屋・柴舟小出などの創業の地

27'54" ひがし茶屋街のお茶屋・藤とし前から金澤東山しつらえを右折し,検番方向へ:広見の工芸品店・桃巧鶴亀あたりから撮影

35'03" 犀川左岸の河原を歩く斉藤由貴さんと小林聡美さんを,料亭・杉の井前あたりから桜橋詰まで追って

36'29" 二人の背景にW坂だぶるざか

36'43" 西インター大通りを,松島北交差点から西へ進む北陸鉄道バスの最後列に,斉藤由貴さんと菅原薫さん

36'59" 西部緑地公園の石川県立野球場前バス停(バス停は架空)に到着

37'25" 高校野球の予選に出る柳葉氏を斉藤由貴さんが応援

なぜか石川線,それも乙丸駅

42'08" 北陸鉄道石川線乙丸おとまる駅を通過する電車から小学生の遠足の光景
台本にない偶然のようで,素朴さがかえっていい感じ。

42'38" 今はなき準急白山下行の走行シーンで,車窓から外を眺める

43'38" 加賀一の宮駅(廃線区間)に到着

44'43" 実家の設定である辰口温泉の旅館まつさきに到着
(当時から車の方が早い,というツッコミはなし)

47'54" 香林坊109(現・香林坊東急スクエア)で待つ菅原氏

48'15" なぜか広坂方向からバイクで香林坊109へ到着

58'29" 県立美術館のカフェで柳葉敏郎氏と
(現在のカフェは別位置に)

1°02'52" 県立歴史博物館を背景にした県立美術館前バス停(当時は架空)

1°03'17" 柳葉氏を置いて発車するバスの背景に成巽閣せいそんかく

1°03'23" 犀川大橋を野町広小路方向に渡るバスの車内

1°03'44" ふたたび六斗広見のバス停(架空)

1°12'01" ダンスパーティーが開かれている旧・石川県立体育館(現・玉泉院丸庭園)の玄関から駆け出す

1°12'18" 金沢城石川門を出て石川橋を渡り,兼六園方向へ

1°13'09" 石川橋から斜め下,百間堀わきの沈床園に柳葉氏を目撃

1°15'32" 香林坊東急スクエア前を日銀方向へ歩く

この間,特定困難な路地と砂浜など

1°28'56" 加賀市某所での空撮を交えたエンディング
(ネタバレにならないよう,伏せます)

21世紀美術館がないのは,20世紀の映画だから

ところで,今金沢で10代が主人公の映画を撮る場合と比べて,何か足らない。そう,21世紀美術館です。二人のデートも県立美術館のカフェ(リンクは現在のもの)で,当時の店はいたって質素。

映画の設定のような県立工業高校の位置に通う高校生なら,寄り道の風景で自然なのは,21世紀美術館。その県立工業高校や写り込んでいる遊学館高校から,徒歩10分くらいです。じっさい,遊学館や同じくらいの距離にある北陸学院の高校生が,繁華街の香林坊バス停まで歩く途中,21美を通り抜ける形で寄り道しているのをよく見ます。21美は通り抜けだけなら無料で,その開放性も設立のコンセプトの1つ。

しかし,この映画では全く登場しません。撮影されたのは20世紀で,21美はありませんでした。それが,30年の経過で進化した景観です。

金沢駅は国鉄末期でスルー,協力は全日空

そして,金沢駅も出てきません。新幹線はおろか,撮影スポットの鼓門つづみもんも存在しない,高架化前の時代だから。そのかわりに,協力は全日空です。その金沢駅はJR西日本ではなく,撮影から公開までの時期,日本国有鉄道最後の年度でした。

キャストとスタッフの交通手段として,もし鉄道なら,東京からは上野駅始発の上越新幹線長岡駅乗り換えで4時間以上かかった頃*1。航空機なら,羽田空港が小さい時代で,羽田・小松便がジャスト1時間*2。その時代のロケなら,航空機が選ばれたのは当然でしょう。それに加えて,国鉄は末期で,タイアップどころではない状態だったと察します。

玉泉院丸庭園やひがし茶屋街では復元も進む

当時と変わっているものは他にもあって,ダンスパーティーが行われていた設定の旧・石川県立体育館。金沢城の石垣の中にあったものが郊外に移転,そこが玉泉院丸庭園として復元整備されました。

細かく見ると,ひがし茶屋街も,古くは江戸時代からの建物が写るほかは,道はふつうに電柱があるアスファルト舗装。こちらも,以前の美しさを取り戻すような修景が進みました。こうしてみると,新幹線沿線の中でも観光客が増えた原因の1つは,金沢を原風景に照らして,こつこつ直してきたからだと思えます。

一方,北陸鉄道の石川線は,鶴来駅から先が廃線で,車両も東急と京王井の頭線の中古に置き換え。この映画が,旧型車両が走っている資料映像ともなります。実家の設定である旅館まつさきは,辰口温泉の老舗のまま料理重視の旅館に変わり,新館も増設。金沢から車で40分の温泉であることが活かされ,新幹線開業後の方が伸びています。

ストーリーに触れるのは無粋なので,それを避けた感想を最後に。スマホはおろか携帯もない時代に,この街で進む恋愛の速度はいたってゆるやか。ときに過敏となる感情が,若さには重しとなる風景とともに刻まれることが追体験できる作品でした。

*1:今では当然といえる東北・上越新幹線の東京・上野間開業は,1991年。さらに,撮影の前年1985年までは,暫定的に大宮駅が起点で,上野・大宮間が新幹線リレー号で接続されていました。その後,1997年に,上越新幹線の越後湯沢駅から直江津駅方面へショートカットする「ほくほく線」が完成。そこに設定された特急「はくたか」に乗り換えで,鉄道での東京・金沢間が最速3時間43分になります。そして現在は,直通の新幹線で最速2時間28分です。

*2:当時に比べて,羽田空港が沖合に拡張して,離着陸の回数も増えたため,現在の羽田・小松便は1時間5分から10分のダイヤへと遅くなっています。

フランス人が楽しそうな茶屋街の夜:外国人宿泊客の約1/3は欧米からで,この割合は全国3位

このブログでも,金沢での外国人観光客増加に関する検索が続きます。開業2年目で,日本人観光客は若干の反動減のところ,外国人は増加基調のまま。

日本全体では,外国人観光客の多くがアジア系ですが,金沢で兼六園,ひがし茶屋街,長町武家屋敷,忍者寺に行けば,欧米からのお客さんも相当いるのが特徴。そのことがわかる統計と動画をとりあげてみます。

「県別にどの国から」という分析は多いが

何度か記事にした観光庁の宿泊旅行統計調査では,都道府県別に宿泊客の国籍を調べています。そのため,「どの国から,どの県へ」という2次元の集計ができます。

よくある分析は,都道府県ごとに,どの国からの宿泊客が多いのかを調べるもの。すると,日本のどこでも,アジア系が最多となり,地域により,中国,台湾,香港,韓国の割合が変わるという結論になりがちです。

「国籍別にどの県へ」を調べると別の様相に

一方,この統計では,各国籍の日本旅行者が,日本のどの県を選んでいるかと集計することも可能です。つまり,旅行者の嗜好の視点での分析です。すると,アジア系に限らない,全く別の実態が現れて,驚きます。

イタリア人の宿泊地で石川は全国5位

訪問客の国籍別に,日本のどこに泊まっているか,上位から見たのが下の表です。特徴をとらえるため,旅行者の国籍のうち石川が強い国と,比較のため,日本全体では最多の中国とを抜粋。なお,データは,国籍がわかるもので直近の2016年8月分で,冬はこれより弱い傾向なのが留意点です。

各国籍の宿泊客ののべ宿泊者数
順位 フランス イタリア スペイン 中国
1 東京 京都 東京 東京
2 京都 東京 京都 大阪
3 大阪 大阪 大阪 千葉
4 広島 広島 岐阜 北海道
5 沖縄 石川 広島 京都
6 岐阜 岐阜 神奈川 静岡
7 石川 沖縄 石川 愛知
8 兵庫 神奈川 沖縄 沖縄
9 神奈川 千葉
和歌山
栃木
長野
山梨
10 千葉 神奈川
  石川:26位
観光庁,「宿泊旅行統計調査」,2016年8月*1

石川県は,イタリア人には5位,フランス人とスペイン人には7位の宿泊地で,規模の割に上位です。とくに,フランス・イタリアからは,横浜と箱根を擁する神奈川や,浦安・幕張・成田に巨大ホテル群のある千葉を上回ります。

欧米からの観光では,より特徴的なのが広島。世界遺産の宮島・厳島神社と平和祈念公園・原爆ドームが主な目的地で,東京・京都・大阪の次に選ばれています。

意外に思われるかもしれない岐阜県は,世界遺産の合掌造り集落・白川郷と,江戸時代の天領由来の街並みが残る高山市が,外国人に好まれる目的地です。

一方,中国からは,北海道と静岡が上位に入るところが特徴的で,広島は上位に入りません。富士山や北海道・沖縄といった自然の景観が求められているようです。

欧米系の割合が高いのは広島・京都・石川

次に,外国人客のうち地域ごとの構成割合を,都道府県別に並べてみます。

具体的には,この統計で分類のある欧州主要国(ロシアを除く)と,それにアメリカ・カナダを加えたもの,さらに中国が占める比率をつくります。それを,上位の都道府県から挙げると,意外なランキングに。

外国人宿泊者のうち各地域からの比率が高い都道府県
順位 欧州主要国*2 欧米主要国*3 中国
都道
府県
比率
(%)
都道
府県
比率
(%)
都道
府県
比率
(%)
1 広島 34.8 広島 47.1 静岡 76.5
2 石川 27.6 京都 36.7 茨城 63.3
3 京都 25.9 石川 34.5 奈良 62.2
4 岐阜 25.2 栃木 29.8 山梨 61.8
5 東京 12.3 岐阜 28.3 三重 54.7
全国平均 8.5   15.1   31.7
観光庁,「宿泊旅行統計調査」,2016年8月

外国人宿泊客のうち欧米からの比率が高くなるのは,まず広島,次に京都か石川です。京都は予想される結果で,むしろ広島の突出が目立ちます。石川も欧州で2位,欧米で3位で,京都と同程度の比率です。

石川へは3人に1人が欧米系で,全国平均の倍

石川県では外国人宿泊客の3人に1人は欧米系,4人に1人が欧州系で,この比率は全国平均の倍以上。どおりで,兼六園や茶屋街では,欧米系の観光客をよく見かけるわけです。

自然志向か文化志向か

表は略しますが,この統計を細かく見ると,欧米の中でも嗜好の差は大きいことがわかります。たとえば,アメリカ・イギリス・ドイツからは,石川よりも北海道が上位。一方,フランス・イタリア・スペインからは,北海道よりも石川が上位です。

日本を旅行する目的には,自然の景観か,建築や庭園も含めた文化か,そこに2つの方向性がありそうです。たとえば,フランス・イタリア・スペインは,歴史的な建築など史跡が集積し,観光も街中が多い国。一方で,アメリカなどは,自然の景観が魅力の観光地が多い国です。

住む土地の風景は,旅行を考えるときの参照基準となりますから,日本旅行でも行先の選択に反映されていそうです。自然を求める観光と文化を求める観光,そのどちらを求めるかは,生育と居住環境に起因するところが大きいでしょう。

金沢の観光地は,文化志向のフランス・イタリア・スペインなどからの旅行客に受けているところ。一方で,アジア系など自然志向の旅行客には,富士山や北海道・沖縄などの景観が好まれていて,近くでは五箇山・白川郷や立山黒部アルペンルートなどの方が受けそうです。

古い街並みにあわせる付加価値は

文化志向の外国人旅行客が石川を訪れる理由として考えられるのは,太平洋戦争の空襲にあっていない都市で,金沢が京都に次ぐ規模であること。それで,茶屋街などに江戸時代後期からの建築が残り,兼六園も大名庭園として一定の規模を保ちます。

とはいえ,日本庭園も寺社も京都・奈良の集積が圧倒的。フランス・イタリア・スペインからのお客さんには,京都が東京の次か,それを凌ぐトップの位置で受けていることも,納得できます。

ではなぜ金沢なのか,それを端的に表す動画を2つ。

金沢で外国人が楽しそうな動画

ヨーロッパからの金沢観光を素材とした動画では,次のものが金沢の特徴をとらえています。

こちらは,季節ごとに週3日のペースで行われている,ひがし茶屋街・懐華楼外国人向けのイベント。2階のお座敷に,予約の外国人客を招き,芸妓さんが登場するものです。ただし,外国人限定。

伝統的なお座敷にはある特別な料理や酒をなくし,芸事の観賞に限定することで,リーズナブルな価格で提供されています。外国人向けには,縁故による紹介がいらないシステムが必要で,それもネット予約などで実現。現在は,当日並んでも,空きがあれば参加できます。良い席の中から選ばれたお客さんは,芸妓さんとのお座敷遊びに参加できる工夫がされています。

2階のお座敷と女将さんの英語が活かされる

これには,金沢のお茶屋が,置屋の機能だけでなく,2階に座敷を持っていたことが効いています。置屋は,芸妓が所属する芸能プロダクションのようなもので,料亭や旅館の宴席に芸妓さんを派遣するのが本来の業務。それで,全国的には,最小限の広さしかないものが普通です。

金沢のお茶屋はそれに加え,2階に座敷があって,自店で宴席ができました。人材派遣と飲食の座敷の提供を両方営む組織形態は,とくに金沢で発達したようです。それが今日まで維持されたことで,動画のような外国人向けのイベントもこなせています。

また,重要なのは,女将さん自身が英語で説明していること。別の案内役ではないことで,宴席の臨場感を自然な形で伝えています。それには,留学経験などが活かされています。さらに,踊りだけでなく,芸妓さんとの写真撮影が可能なのも,本来の宴席とは違う扱いで,ほかにない記念として喜ばれているようです。

茶屋建築に現代の日本酒バー

もう一つは,そちらから徒歩5分ほどの主計町かずえまち茶屋街にあるSAKE BAR KAZOE(數)で嗜む日本酒。

主計町は,ここに屋敷があった加賀藩士・富田主計とだかずえに由来する町名。かぞえまちと発音されることも多く,それとかけた「数」を旧字体にした店名です。茶屋建築を,カウンターとテーブルでの日本酒主体の店へ改装されています。

その店の浅野川を見渡せる2階で,利き酒師でもある女性店主から,日本酒とあてをすすめられています。川面に明かりがゆれる風景に,日本酒がはまります。

動画を見ると,淡麗な吟醸酒では,のどごし爽やかで,すぐ満足げな笑顔。一方で,濁り酒には甘味が感じ取れる表情や,別の吟醸酒ではいったん渋い顔で,すぐ解き放たれた表情となるなど,飲み口にあった自然な反応です。

日本酒の味と香りは千差万別で,飲み比べの楽しさが伝わります。甘い・辛いというよりは,旨味と酸味そして香りのバランスで,好みも様々。酒好きには,好みに合う酒を探すプロセスに,幸せがあります。

代謝酵素が揃う欧米人こそ,度数の高い日本酒の奨めがい

ところで,酒好きからすると,欧米からの旅行客はすすめがいのある存在。われわれ日本人と違って,アルコール代謝酵素が,ほぼ全員にあるからです。彼らはほとんど,日本で酒がかなり強い人と同じスピードで,すいすい飲めています。

日本酒は,ワインよりもアルコール度数がやや高く,日本人なら,好きでも1人2合ほどで終わる場合が多いもの。ほとんどが酒に強い欧米人にこそ,ワインよりも度数の高い日本酒の方が,向いているとも思えます。

彼らも,日本酒を飲み進めれば,ワインにはない方向性に気づくでしょう。穀物由来の甘味と旨味,それでいてリンゴやバナナ,ライチにも似た香りと酔い心地です。欧米では,穀物の酒というと,ビールのような苦味と酸味を効かせるもの以外は,蒸留酒がほとんど。蒸留していない米の酒で,ほのかな甘味や果物の香りがするのは,意外な発見のようです。

追伸:お店の入れ替わりがありました

主計町茶屋街の動画に登場したSAKE BAR KAZOE(數)は,ひがし茶屋街に移転し,カウンターバー形式で,昼も営業する日本酒 真琴としてリニューアル。その2店舗目が,金沢駅兼六園口(東口)徒歩5分に日本酒 真琴升ますとして開店しています。

SAKE BAR KAZOE(數)だった主計町茶屋街の元お茶屋には,繁華街・片町の鮨の名店・あいじの二店目,金澤主計鮨処あいじが開店しています。

*1:第2次速報値で,遡及改訂される場合があります。以下も同じ。

*2:欧州で国別の集計のある,イギリス・ドイツ・フランス・イタリア・スペインののべ宿泊者数/外国人ののべ宿泊者数。分子には,ロシアと,欧州でもその他の分類に合算されている国は含みません。

*3:欧州主要国に,アメリカとカナダを加えたものの比率。

外国人観光客は開業2年目も増加,Googleトレンドでも金沢よりKanazawaの伸びが大

金沢で外国人観光客が増えています。東京を朝出発するかがやき号で金沢に向かうと,スーツケースを伴った欧米系の観光客をいつも見るようになりました。その外国人客も,最近は金沢まで乗り通す方が多く感じます。

そして,欧米にないタイプの観光スポット,兼六園,ひがし茶屋街,忍者寺,武家屋敷跡野村家などでは,平日でもそうした観光客が何組も訪れています。予約が必要な鮨店でも何回か目にしましたが,それには予習が必要。ツアー任せではなく,調べて訪れる外国人の増加は,新幹線開業前なら珍しかったこと。

そこで,統計から見た現状と,足下の動向の把握方法を。なお,地方の観光地の中では,金沢はとくに欧米からの観光客に選ばれているのが特徴で,それは新しく別記事にしました。

外国人宿泊客は開業から概ね全国平均を上回る伸び

外国人の動向がわかる旅行関連の統計で速報性と信頼性が高いのは,観光庁の宿泊旅行統計調査です。チェックインや予約時に宿泊者が記した住所をもとに,宿泊施設が回答するため,宿泊者の国籍,日本の居住者ではその都道府県まで集計されています*1

その調査では,外国人宿泊者数ののべ数が月次で公表されていて,北陸新幹線沿線の主な都府県では以下の通り。

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出典:観光庁,「宿泊旅行統計調査」,平成28年7月分別表2ー2

外国人観光客は,金融緩和による円安で全国的に増えているので,地域ごとの要因を切り出すには,全国平均などとの比較が必要。そこで,全国平均と東京都,さらに,外国人が最も好む観光地・京都府を比較対象にしています。

石川県の外国人宿泊客は,開業後の2015年7月から現在まで,全国平均や東京・京都の伸び率を上回って増加しています。新幹線以外に大きな動きのない北陸では,それ以外の増加要因は考えにくいところ。航空機の羽田・小松線は,新幹線開業で小型機化や減便をしていて,開業前も外国人をあまり見かけなかったものです*2

石川・長野は2年目も反動減なく増加

注目点は,反動減が懸念された開業2年目も,外国人については,石川・長野で前年比プラスを続けていること。観光向けの情報も英語がわずかな現状で,彼らが信頼するのは,トリップアドバイザーなどの英語での口コミでしょう。2年目も伸びている理由は,母国にない観光スポットに英語のレビューが蓄積されるのに,相当のタイムラグがあるからと推測されます。日本人は熱しやすく冷めやすいですが,外国人は伝わるのに時間がかかるのが特徴。後に書くデータでも,その傾向がわかります。

石川は2年目も20%台の増加

開業2年目も,石川県の伸びは,前年同月比20%超。全国平均や東京では,伸び率が数%台までスローダウンしているのに対してです。今どき,年率20%台で客数が増えるビジネスなどほとんどなく,動向の把握は大切です。

一方,富山は開業2年目で4,6,7月が反動減。もっとも,開業直後に90%台の急増を2か月分も経験していたので,数%の反動減でも,開業前に比べればまだ大きく増えた外国人客数の水準です。直近も増加している石川との乖離が続くなら,日本を訪れる外国人の嗜好の反映かもしれず,要注視でしょう。

ところで,この宿泊旅行統計調査では,7月分の外国人宿泊者数がわかるのが9月30日と,最大2か月のタイムラグがあります。さらに,集計は都道府県単位で,現場の経営判断にはあまり役立ちません。

Googleトレンドで旅行関連の検索動向がわかる

そこで,ネット検索動向を直近まで無料で分析できるGoogleトレンドです。検索ワードごとの検索回数を,相対的な指数にしたもの。設定期間中,比較対象で検索回数が最大の値を100とする指数のため,対象と期間を変えると数値も変わるのに注意が必要です*3

それではと,金沢のほか,新幹線がはるか前に通じていた都市を,Googleトレンドでグラフ化してみました。開業日2015年3月14日までの経緯が十分わかるように,2013年はじめから直近まで。カテゴリーは「旅行」に絞っています*4

グラフをマウスか指でなぞると,その時点の数値が現れ,週単位(スマホ版では月単位)の変動がわかります。なお,Google Trendsのロゴをクリックした場合に飛べるのは,トップページに変わりました。そこに,期間や比較対象を入力すると,同様のグラフが現れます。カテゴリーを旅行にすることも忘れずに。

注意点として,新潟と長野は,都市名と県名が同じで,都市ではなく県域全体を意図した検索も含まれること*5。都市名=県名の地域では,検索数のカウントに過大評価の懸念があります。とはいえ,「新潟」と「新潟市」の数値を比べると,旅行目的で「市」まで付けての検索は少ないために,市を付けない都市名で比較しています。

金沢は夏以外では長野を超え,新潟を追う

開業前の検索数は,仙台,新潟,そして大きなギャップがあって,長野,金沢の順でした。それが,2015年3月の開業前後から,金沢が伸び,開業前のほぼ2倍の検索量に達しています。夏のピークを除けば,長野を上回る情勢。新潟とは,時期によっては互角の水準です。

ただし,季節変動は各都市で微妙に違います。学校などの休みで旅行全般が増えるのに加え,夏のピークには高原などでの避暑や登山,冬のピークにはスキーや冬山があると想像されます。長野は,後で書く英語検索のスキー客とともに,日本語検索では夏の避暑のピークが大きい都市。一方で金沢は,季節変動の少ない街中観光に特徴があります。

外国人の動向はGoogleトレンドでKanazawaと入力

さて,このツールで外国人観光客の動向を知るには,英語でKanazawaと入力することです。外国人観光客のほとんどは,日本旅行の情報収集でも英語のページを読んでいて,Kanazawaで検索してきます*6。上のグラフと同じ都市で,英語での検索の推移はこうなります。

英語の傾向は,日本語とまったく違うのが驚き。なお,ここでもカテゴリーを「旅行」に限定しています。

開業前から英語検索は長野,仙台・金沢,新潟の順

北陸新幹線開業前は,英語での検索がもっとも多いのは長野,続いて仙台と金沢が同程度,やや開いて新潟の順でした。

とくに長野は,英語の方が季節変動が大きく,巨大な盛り上がりが冬にあります。やはり,長野オリンピックのレガシーは偉大で,多くはスキー目的でしょう。たしかに,北陸新幹線でも,冬は長野で荷物の大きな外国人がかなり乗降しています。

一方で仙台は,日本語での検索はこれら四都市で頭一つ抜けて多いのに,英語での検索は,新幹線開業前でも金沢と同程度。日本人に比べ外国人の検索が少ない傾向は,先の観光庁の宿泊旅行統計調査とも符合します。

外国人宿泊者数(のべ数)は,新幹線開業前の2014年で宮城117,150人,石川348,290人。それが開業年の2015年で宮城190,610人,石川517,430人。開業前後とも,外国人の宿泊客は宮城より石川が多いという,意外な数字です。

なお,新潟の英語検索がさらに少ないのは,Niigataという英語圏にはない綴りで損をしている部分もありそうです*7

開業後は金沢が約3倍増で,冬以外は長野を超える

新幹線開業後,金沢の英語検索は急速に伸び,開業前の3倍程度へ成長。開業2年目も明確に増えています。

以前の英語検索は,通年で長野がトップ,仙台をはさんで金沢の順だったものが,開業後は,冬は長野,冬以外は金沢がもっとも検索されています。現在は,次に仙台,さらに離れて新潟の順。また,長野・仙台は検索が長く増加している一方,新潟は長期的に横ばいなのも特徴です。

Japan Rail Passなどで有利な京都との回遊性

開業後は,英語検索での長野・金沢と仙台・新潟の差が広がっています。考えられる差は,外国人を最も引きつける京都方面との回遊性。実際,東京・京都間のルートの片道で北陸観光という経路が広まっています。

この際,よく使われるのが,外国人の日本旅行者などに限定して,海外の旅行会社と日本の主な国際空港・駅だけで発売されるJR全線ほぼ乗り放題のパス,Japan Rail Pass*8。東海道・山陽新幹線ののぞみを除くものの,7日間で普通車用29110円,グリーン車用38880円と,日本人からすると羨望の割引。このパスを購入する旅行者にとっては,日本の観光地を無駄なく長く回れるような,周回ルートを選ぶ誘因になっています。

さらに,北陸経由で東京・関西間を乗り放題とするHokuriku Arch Pass(7日間,国外購入時24000円)も販売が開始されました*9。Japan Rail Passでは,のぞみに乗れないという不満を,JR東海を外すことで解消するものです。乗り放題区間を,成田空港・東京都区内←北陸新幹線・特急サンダーバード→京都・大阪・神戸市内・関西空港の全列車に限定することで,Japan Rail Passよりも料金を抑えています。

世界遺産の白川郷・五箇山へ最短アクセスの新幹線駅に

そして,金沢周辺で外国人比率がとりわけ高くなるのが,世界遺産の合掌造り集落,五箇山・白川郷へのアクセス。今や,金沢ー五箇山・白川郷間の高速バスは,外国人客が大勢。意外にも,金沢が時間的に最短の新幹線駅(五箇山まで60分,白川郷まで最速75分)になったからです。外国人の地方観光では,日本固有のもので,大都市周辺にはない観光資源が求められるようです。

直前までの検索がわかるのが売り

Googleトレンドの実用性は,直前までの検索動向が無料でわかること。たとえば,直前の週を1年前,2年前の対応週と比較すると,以下のような推移がわかります。需要予測の一材料として,出退店や価格設定の判断にも使えそうです。

Googleトレンドでみる旅行カテゴリーでのウェブ検索の推移*10
検索ワード 2014年
10/19~25
2015年
10/18~24
2016年
10/16~22
仙台 54 62 70
新潟 48 57 55
金沢 34 55 59
長野 39 44 43
最高値は2015年8/9~15の新潟で,それを100とした指数*11
Sendai 19 17 23
Niigata 10 11 10
Kanazawa 16 48 65
Nagano 44 46 51
最高値は2015年12/27~2016年1/2のNaganoで,それを100とした指数

なお,上の数値は週単位の詳細がわかるPC版をもとにしていて,スマホ表示では月単位に集計された少し違う値になっています。詳細を分析するなら,PCで改めて確認することをおすすめします。

*1:一方,観光地で行われるアンケートは,深く質問ができますが,調査日や場所が限定されるため,抽出率や回答率が低く,宿泊者ベースのデータよりも偏りや標本誤差が懸念されます。

*2:外国人旅行者の日本国内の移動に,航空機よりも新幹線が選ばれる理由の一つは,JR全線に通用するJapan Rail Passが,7日間29110円からという大幅な割引で売られているからで,後述します。

*3:比較対象や期間を変えると,(基準の100が設定される)最大値の期間とワードが変わります。それで,各検索ワードの指数の値も変わります。数値に意味があるのは,比較対象と期間を固定して,大小比較や時系列的な増減を把握するところまでです。

*4:カテゴリーを旅行に絞る理由は,そうしないと,地元の住所や企業名の検索,同一名称の人名の検索などが大量に含まれてしまうからです。

*5:たとえば,新潟の検索数には,新潟市を意図したもののほか,新潟県域の意味で「新潟,温泉」とか「新潟,スキー」という検索も含まれます。そこから新潟市ではなく湯沢町のスキー場のページに進んだ場合も含まれます。

*6:例外として,漢字が入力できる中国系の方があります。しかし,検索結果は日本語より英語の方が理解されるため,漢字入力ができても最初から英語で検索する方が多数派でしょう。

*7:もっとも,NigataやNeegataなどと,発音につられたミスタイプを想定してトレンドを見ても,数は極端に少なく,綴りの難しさが主要因ではなさそうです。

*8:利用の条件は,外国籍で日本に短期滞在の資格で入国する者などと厳格です。入国資格が,留学や仕事では,購入できません。また,東海道・山陽新幹線ののぞみなど一部除外列車があるものの,北陸新幹線では全列車有効です。
 さらに,金沢での知られざるメリットに,金沢駅-広坂(21美最寄り)-兼六園下-橋場町(ひがし茶屋街最寄り)を経由するJRバスに,このパスだけで乗れることがあります。金沢のJRバスは,北陸鉄道の周遊バスなどより本数が少ないものの,追加料金なく市内観光ができます。
  下の写真は,金沢駅兼六園口バス乗り場にあるJRバスのチケット売場の掲示。
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4番乗り場は,(高速バスを除く)JRバスの乗り場です。

*9:ただし,Japan Rail Passと違って,金沢のJRバスには有効ではありません。

*10:記事中のグラフの数値によるもの。具体的には,2013年1月1日から2016年10月22日までの期間設定で,日本語と英語の別に4都市の比較を,2016年10月23日にPC版のグラフから読んでいます。期間と比較対象の設定次第で,値が変わることに注意。また,Google側で数値が遡及改訂されることもあります。

*11:2015年8月21日に,NGT48の初イベントが新潟市で開催されています。

金沢市営の観光施設3館でGoogleインドアビューを公開:金沢蓄音器館は国産初期のものも

金沢のイメージから連想しにくい観光施設,金沢蓄音器館。たぶん思うのは,金沢に蓄音器のメーカーか工場でもあったかな,ということでしょう。

そういうわけではなく,金沢で1914年(大正3年)から営業していたレコード店・ヤマチク(旧・山田屋蓄音器専門店)の経営者が集めた蓄音器とレコードのコレクションが母体。ここでも,金沢市が太平洋戦争で空襲を受けなかったことが効いています。

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そのコレクションが金沢市に寄贈されてからの開館で,2001年の建築。色調を違えたレンガづくりの瀟洒なたたずまいです。

音楽はダウンロードかストリーミングが当然の世代には,蓄音器の説明も要りそう。蓄音器はレコード・プレーヤーの原型で,無電源のもの。ゼンマイ動力でレコードを回転させ,その溝に沿って動く針の振動を,ホーンによる拡声だけで聞いていたものです。時間を合わせて,実演を聴くと,無電源で音が聞こえることに感動します。

ひがし茶屋街にも近く,橋場町バス停下車徒歩約2分

アクセスは,ひがし茶屋街というより主計町かずえまち茶屋街に近く,それらと同じ橋場町バス停から徒歩2~3分ほど。茶屋街と合わせて立ち寄れます。また,隣に金沢美大の展示施設と泉鏡花記念館が続いているので,そこは最後に挙げる過去記事もどうぞ。

蓄音器約150台の展示とSPレコードが

所蔵される蓄音器は,国産初期のものから約600台で,常設展示はうち約150台。ほかに,SPレコードが約2万枚ですが,それらは収蔵されていて,後に書く1日3回の聴き比べの時間に,その音が披露されます。

科博認定の重要科学技術史資料が3点

特筆ものとしては,国立科学博物館が認定している重要科学技術史資料(愛称:未来技術遺産)。それがここに3点あります。

うち1点は,国産初の蓄音器・ニッポノホン35号で,1910年(明治43年)日本蓄音器商会(現日本コロムビア)製。

このショットでは中段の右に位置している,花弁状のホーンのものです。下段左の蓄音器のホーンにほとんど隠れていますが,中段の真ん中に,青色のマークのある盾があります。それが,重要科学技術史資料の認定で,国立科学博物館から贈られたものです。

それとセットで認定されているのが,下のラッパ内蔵型蓄音器ユーホン1号で,1911年(明治44年)製。

こちらは,ホーンを箱の内部に収める小型化で,一般家庭への普及を目指したもののようです。

両方の蓄音器とも量産なのに,重要科学技術史資料として認定されたのは,この金沢蓄音器館収蔵のもの。収蔵に至る経緯が明確なことと,現状が原型のままという点などで,こちらが選ばれたのでしょう。認定に関する説明はこちら。

国産初期の蓄音器|国立科学博物館

フィルモンの再生機も重要科学技術史資料に

ほか2点の認定は,国産初のSPレコード卓上型フィルモン/円盤兼用再生機。とくに後者は,1930年代に日本で独創されたメディア「フィルモン」の貴重な再生機です。

6分の収録が限度だったSPレコードに対し,13mのセルロイドのフィルムをエンドレスにし,らせん状に溝を刻んで,36分の収録を可能にしたもの。どう考えたらこうなるのかわからないほど変わった方法で,結果的には普及しなかったものの,技術史の1ページとしての認定です。

1日3回の聴き比べタイムがおすすめ

SPレコードは,針で溝が削れてしまうため,100回程度の再生で寿命が来る,儚いメディア。残念ながら,自由に聴けるものではなく,蓄音器ごとの聴き比べの時間が11,14,16時に設定されています。そのほか,自動再演ピアノが,日曜のみ10時30分,13時30分,15時30分の3公演。それが聴ける時間帯の入館がおすすめです。

Youtubeに演奏の一部収録を公開

実際の音を知りたい方のために,Youtubeにいくつかのファイルが。

デジタル音源になれた耳にとっては,ノイズとゆらぎのある別世界。それがかえって独特の心地よさを生んでいるような気もします。

隠れたおみやげにビクターの犬

ミュージアムショップで,HMVやビクターでおなじみの,蓄音器をのぞく犬・ニッパーの置物が売られています。

ホーンの中に亡き飼い主がいると思う故事は,当時の蓄音器の偉大さを伝えています。

入館料は300円,1日乗車券などで50円割引

入館料は大人300円,65歳以上200円,高校生以下は無料。50円割引となる対象として,北陸鉄道バスの1日乗車券(500円),いしかわ観光旅ぱすぽーとのほか,JAF会員クラブオフ福利厚生倶楽部ベネフィットワンなどがあります。

16館回れるパスポートが1日券510円

蓄音器館のある橋場町交差点周辺は,さまざまな施設が集まっています。隣が泉鏡花記念館,斜め向かいの交差点角が金沢文芸館,路地を進むと,徒歩4分で寺島蔵人邸です。

逆方向へ向かうと,徒歩5分でひがし茶屋街の中心で,大通り沿いには安江金箔工芸館,徒歩6分で徳田秋聲記念館です。

これらは,21世紀美術館を除く市営の文化施設16館をすべて回れるパスポートで入れます。1日券510円,3日券820円,年間2050円です。

お隣の施設は過去記事に

とくにお隣は,柳宗理記念デザイン研究所(無料)と泉鏡花記念館(有料)で,この機会にあわせて回れます。

クレジットとSuicaなどが利用可

何度か書きましたが,金沢市営の主な観光施設では,入館料の支払いにクレジットやSuicaなどが利用できます。1日券からの共通パスポートの購入にも使えます。詳細は過去記事を。