北陸新幹線で行く,はじめての金沢

お庭,お菓子,お魚,お酒が揃う城下町をまわるため,金沢出身・東京在住者が往復しながらヒントを書いていきます。

金沢駅兼六園口の金沢都ホテルが建て替えへ:対面は本州の日本海側で地価最高地点

ブログやSNSなどでいったん閉店の予兆が伝えられてきた,金沢駅前の金沢都ホテルの動きが,本日の日経でようやく報道されました。結論は,ホテルとオフィスの複合ビルの建設で,都ホテル・ブランドの継続が軸とのことです。

公式発表としては,11月4日に,2017年3月末で一時閉店のお知らせが示された段階。

金沢都ホテル営業終了のお知らせ | 金沢都ホテル

しかしまだ,建設されるホテルを含むビルの発表が,グループ持株会社である近鉄グループホールディングスのニュースリリースなどにありません。よくある,日経には話して,反応を見るという状態でしょうか。他紙が追従するのは確実で,近日中にある第2四半期の決算発表と説明会などで,質問に対応できる準備が整ったと見ます。

場所は撮影スポットの鼓門を抜けた角

場所の説明は,一枚のGoogleストリートビューで済みます。

金沢で最も多くの観光客が写真を撮る鼓門。その奥に見える角地のホテルです。鼓門の写真にはよく写り込みますから,建て替え後は当然として,取り壊しや建設の工事中も,景観に配慮が求められるところです。

金沢のシティホテルでは最古参

金沢都ホテルは1963年の開業で,金沢ではじめてのシティホテル*1。何度かの改装を経ているものの,当時の設計のため,シングル12m2などの狭小感が否めなくなってきたのは事実です。建設時の2室を,1室に改装した部屋が一部にあって,駅近ではお得な料金設定でしたが,改装とコスパのアピールで凌ぐには限界がありました。さらに,せっかく地下通路で金沢駅と直結しているのに,その地下1,2階から1階のフロア構成やテナントには,開業時の時代感が残されていました。

金沢都ホテルの俯瞰(ANAクラウンプラザホテル金沢からの撮影)

金沢駅前ですが,築50年超で,写真のように8階(一部7階)建と比較的低いまま。しかし,建設当時は金沢駅前で唯一の高層ビルでした。駅近最高層は,今や,ホテル日航金沢の特例による30階建。

都ホテルの場所は60m高度地区で,特段の変更や許可がなくても,15階はゆとりをもって建てられるはずです。実際,対面のホテル金沢は2008年開業で16階建。上の写真は,斜めに見下ろせるANAクラウンプラザホテル金沢から撮っています。

現在は2棟のビルで,建て替えで効率化

よく見ると,手前の道路面と,奥に向かう道路面の角で,ビルが斜めに切れています。両サイドで,窓も造りが違い,しかもフロアがずれています。これは,奥に向かう道路に面した当初の本館に,後で手前の道路面に新館を増築して,つないだ結果。本来は一体で建てられるビルが,2つの棟の構造で非効率となっている面もあり,すべて取り壊しての建て替えです。

近鉄の非鉄道部門は,これまで,あべのハルカスとサミット対応を含む伊勢志摩関連が最重要案件。とくに自社の路線と相乗効果のないこの地の意思決定は,長らく先送りされてきたと見ます。それが,北陸新幹線の京都・大阪までの建設計画で,年内にもルートの方向性が示されることと,以下の競合プロジェクトの進展という環境の変化で,ここでの意思決定と公表と思われます。

近鉄にとっては気になるJR西日本が,北陸新幹線の増収・増益効果で増配まで実現したことも,刺激の一つになったでしょう。

2020年,西口にオリックス,東口に近鉄がシティホテルを開業

見出しだけだと「どこやそれ」という話ですが,金沢駅でした。

2020年は東京オリンピックの開催年で,外国人観光客が急増します。さらに金沢では,東京からのアクセスが新幹線の開業で飛躍的に改善したことから,外国人宿泊客が2015年の開業後の平均で約6割増,2年目でもさらに約3割増ペースを続けています。それは前記事に。

その対応を念頭に,駅金沢港口(西口)に,外資系ホテルの誘致が進んでいます。

そちらは,オリックスが事業主体。そこで,2020年には,近鉄とオリックスが金沢駅の東と西で別のシティホテルを開業することになりました。金沢都ホテルは,開業が1963年と古く,敷地もほとんどを所有。オリックスも金沢市の市有地を取得します。

オリックスの本社機能は,すでに大阪から東京にシフトしていますが,設立母体が旧三和銀行と旧ニチメンという大阪の企業のため,発祥は大阪。くしくも,金沢駅近の新しいシティホテル2棟は,大阪発祥の2企業で進められることになります。もっとも,これは自然なことで,駅も新幹線もショッピングモールの金沢百番街も,JR西日本。当然ではあるのですが,東京方面からは,着いてはじめてわかる場合も多いようです。

対峙する金沢駅徒歩圏のシティホテルでは,筆頭といえるホテル日航金沢が,所有ではなく運営委託のみの関与。その対面のANAクラウンプラザホテル金沢は,2015年に星野リゾート・リート投資法人によって買収されています。買収時の報道では,当面はANAクラウンプラザ・ブランドのままですが,将来の改装に含みを持たせています。

駅徒歩圏でシティホテルが2棟も新築と建て替えとなると,広い部屋が増えるのは確実で,それを受けた動向が気になります。

対面の地価は金沢の最高地点で‥

この場所は,観光客が鼓門の写真を撮るだけでなく,ビジネスを考えるにも特異なポイントです。それは,金沢の公示地価最高地点の対面であることで,2017年1月1日現在で88万円/m2。その調査地点は,地場資本のままに営業を続ける,独立系のビジネスホテル・ガーデンホテル金沢です。

上のストリートビューでは,左がガーデンホテル金沢,正面が金沢駅兼六園口(東口)の鼓門,右が建て替えられる金沢都ホテルという位置関係です。

その構図を下向きにしたライブカメラを,金沢市が2017年6月からYouTubeで配信しています。

右側に写る建物が金沢都ホテルで,時間帯による車と人の流れがわかります。今後の工事状況も,このカメラでフォローできます。

2012年から上昇を続け,2013年に新潟を抜く

この地点の地価の推移は,北陸新幹線の効果を端的に表すもので,以下の通り。

金沢市と新潟市の公示地価最高地点の地価推移:金沢駅兼六園口と新潟駅万代口

2013年4月からの異次元の金融緩和で,都市部の地価は全般に回復傾向のため,新幹線の影響を取り出すには,比較対象が必要。気候を含めた地理的条件が類似で,地価の水準が同様な都市を比較しています。その後,2017年1月の地価公示が公表されたため,グラフをアップデートしました。

金沢駅兼六園口(東口)正面角地で調査されている地価は,2013年の1月に新潟市の新潟駅万代口を抜いて,本州の日本海側で最高地点となりました。上昇は2012年7月調査から続いていて,新幹線の開業後も反動減なく順調に伸びています。

建て替えの判断は,この地価の上昇基調と整合的です。地価は,その土地からの将来にわたる期待収益を現在価値に割り引いた値が妥当で,その土地の生産性の先行指標です。そこで,不整合な期待や予期せぬショックがない限り,それを反映した設備投資が引き出されます。逆に,値下がり基調で,新たな設備投資を引き出すのは,困難です。

アクセス難の解消で都市本来の価値を探しに

この指標で,どちらの物件に投資したいかと問われれば,答えは明らかでしょう。最近よく見る金沢と新潟の比較ですが,信頼できる経済指標で,年単位の先行性があるのは地価。

この傾向の差には,第一に大都市圏からの新幹線アクセスの条件が,ようやくほぼ対等になったことが寄与。金沢は,これまでのアクセス難の制約が外れ,都市本来の価値を探りにいくところ。初物需要が一巡した開業一年後もなお,地価が上昇を続けるのは,ファンダメンタル・バリューがより上であることを期待させます。

第二に,このプロジェクトでもわかるように,金沢の位置は,関西から観光客だけでなく,投資を呼び込めることが効いています。そして,この第二の要因は,新幹線の今後の関西への延伸で,さらに拡大します。

近鉄のコミットメントは大きい

これまでは不透明感もあった,金沢都ホテルの将来について,この時期に近鉄のコミットメントが得られたことは大きな展開です。物件の取得は1960年代で,簿価は時価に比べて著しく低く,売却ならかなりの益出しができたもの。投資としては売却でも大成功で,そういう出口戦略もありえたのでしょうが,さらなる設備投資の方が選ばれました。

設計の古さは,反面で,再開発による価値向上の余地が大きいということ。現在の建築や都市計画上の規制でも,約2倍規模のビルに建て替えられるので,この近鉄の決断により滞在者と通行量の大幅な増加が確実になりました。

さらに,1階の路面部分や,金沢駅と地下通路で直結する地下1,2階は,類似規模の都市の駅前と比べて十分に活用されておらず,テナントの大幅な拡充も見込めます。

鼓門側の外周部はカフェやレストランに適した眺め

金沢都ホテルの角地だけの価値は,鼓門側の低層階から,観光客がずっと写真を撮っている鼓門が,窓越しの対面に眺められること。道路の状況から,その眺望は,他の駅近ホテルでは実現できない独占的なもので,カフェやレストランに最適です*2。今その場所に店舗がないのは,鼓門が存在しない時点で金沢都ホテルが設計されているからで,せっかくの価値を活かせていません。

実際,金沢駅の新幹線改札や兼六園口からほぼ同距離にある,スターバックスの金沢フォーラス1階の店は,前面がバス乗り場だけなのに,日中ほぼフル稼働。同じ歩行距離で,さらに鼓門の景観を活かせる店が都ホテル外周部にできれば,それを凌ぐ稼働は確実です。それが整うまでは,金沢駅近の地価の上昇基調が続くのでしょう。

なお,この種のプロジェクトで,「本州の」日本海側といつも書く必要があるのは,福岡市と北九州市も日本海に面した都市だからです。もちろん,福岡・北九州は,都市規模と産業の集積を反映して,地価の水準もかなり上。福岡や北九州を日本海側の都市と捉えているかは人によって分かれそうですが,いつもお約束の限定付きです。

*1:地場のデパート・大和の子会社である金沢ニューグランドホテルが最も古いと思われがちですが,そちらはやや遅れて1972年の開業です。宿泊では旅館の割合がまだ高かった時代に,大都市からのホテル進出への対抗勢力として,地場の資本でホテルを完成させたものです。

*2:対面で,公示地価では最高となるガーデンホテル金沢側は,惜しいことに,斜めに一方通行の路地が入っている敷地です。かりに設計をやり直しても,鼓門を眺める方向にカフェなどを配置するスペースには,限りがあります。