周遊バスなどに乗る観光客がよく買っている1日乗車券の特典が,2017年4月から増えました。めいてつエムザの1階にある,おみやげ向けの品を集めたエリア・黒門小路の5%割引です。1日乗車券を買うともらえる時刻表の下に,小さな広告が載っています。
この話,ネットでほとんど見ないのは,はじめての観光だと,めいてつエムザがどういうお店か,想像しにくいからでしょう。金沢にあるデパート2つのうち1つで,名鉄が持株比率で87.8%になる連結子会社です*1。
周遊バスの北陸鉄道も名鉄グループの関係
周遊バスを運行する北陸鉄道も,名鉄が筆頭株主で,名鉄グループの一社*2。ここに長らく回数券・定期券の売場を置いていて,1日乗車券も買えます。それもあっての割引です*3。
近江町市場の対面で,地下道も接続
場所は近江町市場の対面で,観光で寄り道しやすい立地。近江町市場のエムザ
近江町市場とめいてつエムザは,地下道でもつながっています。下の図のように,近江町市場のいちば館に入り,地下1階へ。そこから地下道で,めいてつエムザ地下1階に入れます。黒門小路は,図の右上のエスカレータで,1階に上がったところ。
なお,周遊バスと兼六園シャトルが停まる武蔵ヶ辻バス停も両側にあって,屋根付き。雨や雪でも,金沢駅との往復や,めいてつエムザ・近江町市場間の行き来では,濡れません*4。
割引は1階の黒門小路部分だけ
売場には,こんなポップが掲げられています。
対象となる売場は,めいてつエムザのうち,1階の黒門小路部分だけ。このほかに,上の図にあるように,地下1階に食料品とカフェ・レストランがありますが,そこは割引の対象外です。
また,後で書くように,売場中央の工芸品レジでキャッシュバックする方式で,購入後に少し時間が必要です。
めいてつエムザとは別の包装紙
買ったパッケージはこんな感じ。
包装紙は,黒門小路専用のものになります。もちろん,デパートなので,のしや包装紙は,慶弔・名入れなどがリクエストできます。
価値ある割引:工芸品
5%割引であえて足を運びたくなるのは,割引がそれなりの額になる品。そこで,たまに買いたくなる器を選んでみました。現代の九谷焼で,遊び心のある盃です。
器の縁を登っている人を,
この小皿,鱗に見立てた凹凸もおしゃれです。
以前,金沢の複数の料理店で出会った上出長右衛門窯の器が印象的で,機会があれば買おうと思う窯元の一つ。その例として,同じ一閑人がいる祥瑞柄の皿で出されたお造りです。
上の写真は,金茶寮で出されたもの。改めて調べてみると,手描きの大皿なので,なかなか買えない価格です。なるほど,海老や赤身のお造りが引き立てられる藍色の染付で,冬なら蟹が映えそうな器。食と工芸が響き合うのが,この街の楽しみです。
陶磁器の価格差:手描きと印刷は使い分け
ところで陶磁器では,同じようなサイズと絵柄でも,大きな価格差があります。たとえば,1000円ほどでも,かなり綺麗な絵柄のものが揃う一方で,上はきりがありません。その差の多くは,絵付けが印刷や印判か,手描きかによるものです。
手描きは,プリントに比べて,複雑な曲面や凹みでも描画ができ,造形の細部まで引き立てられます。一閑人の部分など,その典型。また,線画に自然なゆらぎがあって,規則正しい印刷よりも,心が安らぎます。高価なものでは,釉薬の秘伝の配合やかけ方による微妙な発色があって,プリントでの再現が困難です。
一方,プリントでは,色の豊富さや柄の鮮やかさに優位性があり,キャラクターなど絵柄の自由度も拡大。じっくり見ると印刷とわかるものの,普段使いできるコスパはそれを凌ぐ魅力です。飲食店の食器でも大部分はプリントで,高い店でようやく手描きの皿が増えてくるのが現実です。
そんなわけで,シンプルな形だが鮮やかな皿を揃えるならプリント,複雑な造形のもの,一枚の大皿や気分で選びたい酒器・豆皿をこつこつ買うなら手描き,と買い分けるのがよさそうです。
人間国宝などの工芸品が奥に
黒門小路の奥には,九谷焼だけでなく,大樋焼や加賀象嵌,蒔絵を施した漆器などの工芸品が並べられています。数点ですが,人間国宝などの作品があって,そこは美術館水準。ほとんど観賞のためのエリアで,撮影禁止です。
ちなみにもっとも高いものは,人間国宝の先生の象嵌の花器で540万円でした。それも割引になるのかは,事前に店と相談を。
価値ある割引:日本酒
そして,いくら買っても困らない日本酒です。棚は他にもあるのですが,冷蔵用のケースの一つはこちら。
生酒を集めた,この冷蔵ケースの写真を何気なく撮っていて,帰ってからあることに気付きました。ひとまず,いつも飲んでいる手取川の,この時期はあらばしりがあったのでゲット。
通年出荷されている吟醸酒は,大都市圏に広く出ていて,買って帰ろうとまで思いにくいもの。しかし,あらばしりなど,季節ごとのお酒で要冷蔵のものは,あまり出回りません。
手取川の良さは,淡麗でありながら,酸味が抑えられていて,甘みと旨みがほどよく調和することだと思います。とくに,酸味の少なさは,もともと淡泊な魚の白身や甘えび・かにの旨みを消さない利点があって,そういう食材の多い北陸で伸びるのもわかります。また,昆布だしを主とした,淡味のお椀にも合います。これには,後に書く,酵母の特性が寄与していそうです。
冷蔵ケースにあったお酒の共通点は
加賀鳶ブランドが主力となった福光屋も,地元向けに残る福正宗ブランドの生酒をこちらに出していました。福光屋は大きな蔵で,酵母は巧みに使い分けられていますが,この生酒は金沢酵母との表示。一方で,写真右手には,吟醸酒で定番の黒帯が写っています。
後で気付いた冷蔵ケースのお酒の共通点は,偶然でしょうが,金沢酵母の酒か,金沢酵母をよく使われるお蔵でした。能登の竹葉,小松の神泉もそうです。
金沢酵母,それは隠れた金沢ブランド
知る人ぞ知る金沢酵母。それは,国税庁の金沢国税局鑑定官室で培養されていた酵母のうち,有望なものの特性が分析され,日本醸造協会で頒布されているものです。その「きょうかい14号」と「きょうかい1401号」の通称が,以下で名付けられた金沢酵母。成り立ちと特性は,以下の原典に。
- きょうかい酵母清酒用第14号(金沢酵母),日本醸造協会誌,90:9,1995
- きょうかい酵母清酒用1401号(金沢酵母),日本醸造協会誌,94:10,1999
こういう資料が,全文pdfで読めるようになったのは,よいことです。
局内で培養されていた酵母は,当地の蔵付き酵母を採取したもの。北陸の酒蔵では,これと類似の酵母が,意識せず,文字通り自然と使われてきたことになります。
1401号の記事では,試験醸造などに関する謝辞がその手取川の吉田酒造と,富山の満寿泉の枡田酒造にあります。どちらも東京で手に入る好きなお蔵ですが,なるほど似たようにはまります。
金沢に あってよかった 国税局
この酵母が金沢酵母と名付けられたのは,培養と分析が金沢国税局だから。国税局が金沢になければ,分析は行われなかったかもしれません。また,北陸国税局のような名称なら,この名前ではない可能性も大でした。
ネーミングは,予算ゼロでできるブランディングの第一歩。地方創生には,各地の酒蔵独特の酵母でめぼしいものを特定し,名前を付けること。「名もない花には名前を付けましょう」(コブクロ「桜」作詞:小渕健太郎・黒田俊介)です。
5%は現金で戻る
肝心の割引ですが,いったん現金,クレカ,Suicaなどで払った後,売場中央の工芸品カウンターにレシートと1日乗車券を提示する方式。
レシートの裏にスタンプが押され,現金で5%分が返ってきます。返金分のレシートが欲しいところですが,それは売場に残され,手元にはもらえません。ここは手作業なので,時間に余裕がいります。
上の九谷焼と日本酒は,ネット販売等と(割引前の)店頭価格は同じで,そこから5%割引のありがたみがあります。また,店の前のバス停まで,この1日乗車券が使えますから,結果的に買わなくても損はしません。
*1:(株)金沢名鉄丸越百貨店,平成28年2月期有価証券報告書
*2:ただし,持株比率は13.6%にとどまり,名鉄の連結対象ではありません。
*3:金沢のバスとデパートの1つが名鉄系であることは,東海地域以外の方には,意外と言われます。実は,加賀藩初代藩主の前田利家は,仕えていた豊臣秀吉と同じく,現在の名古屋市出身。また,このデパートの対面は,近江商人に由来する命名との説のある近江町市場ですが,その東隣は前田利家に関連して尾張からの人々が移住した尾張町で,明治時代までは金沢で一番の繁華街でした。要所にその地名が残るのが,東海・近畿と人の往来が盛んだった証しです。
*4:観光で雨や雪のときのおすすめは,という質問がよくあります。近江町市場はいちば館から先も,ほとんどすべて屋根付きで,そこと地下道でめいてつエムザを回ると,時間がつぶせます。近江町市場内だけでなく,めいてつエムザの地下と1階,上階に,スタバを含めてカフェとレストランが複数あります。