1日2万人台後半,在来線比3倍超が定着か
北陸新幹線の利用客のデータですが,おおむね安定的で新しい話題もなかったところ,年が改まり追記です。継続して発表されているのは,延伸区間で富山・金沢方面への乗客をすべて含む区間の上下線合計の乗客数。
期間 | 期間合計(万人) | 1日平均(人) | 在来線前年比(倍) | 出典 | |
3月14~31日 |
49.0
|
27200
|
2.73
|
*1 | |
うち | 14日(土) |
3.5
|
35000
|
3.74
|
*2 |
15日(日) |
2.8
|
28000
|
2.81
|
||
16日(月) |
2.1
|
21000
|
2.54
|
||
4月 |
68.6
|
22900
|
3.21
|
*3 | |
うち | 24~30日 |
15.5
|
22100
|
3.00
|
*4 |
5月 |
89.8
|
29000
|
3.46
|
*5 | |
うち | 1~6日 |
23.6
|
39300
|
3.18
|
*6 |
6月 |
75.0
|
25000
|
3.22
|
*7 | |
うち | 平日 |
*
|
23000
|
3.19
|
|
土・日 |
*
|
32000
|
3.44
|
||
7月 |
75.7
|
24400
|
3.05
|
*8 | |
8月 |
91.9
|
29600
|
2.64
|
*9 | |
うち | 7~17日 |
37.9
|
34500
|
2.51
|
*10 |
9月 |
82.0
|
27300
|
3.08
|
*11 | |
うち | 18~23日 |
23.6
|
39300
|
4.44
|
*12 |
10月 |
90.0
|
29000
|
3.19
|
*13 | |
11月(速報値) |
86.7
|
28900
|
3.19
|
*14 | |
12月1~14日(速報値) |
28.7
|
20500
|
3.09
|
||
開業以降通算 | |||||
3月14日~11月30日 |
708.7
|
27000
|
3.08
|
*15 |
秋の大型連休は1日平均39300人で開業日超え
9月からは前年在来線比3倍をキープしています。とくに,曜日の並びのよかった秋の大型連休は1日39300人と,春の大型連休の後半と同数を達成。両期間は開業日の記念乗車分を上回っていて過去最高です。さらに,10月は祝日が1回だけなのに,大型連休のあった5月,9月に匹敵する乗客数と好成績です。
ただし,12月前半の数値は急減。それでも,前年比は3倍をキープしているので,毎年の季節変動,つまり冬の観光の減少分と,ひとまずは考えます。次の注意点は,夏のお盆よりも多いはずの年末年始の帰省の動向でしょう,
JR東日本の純増収は半期で260億円
この乗客数は当初計画を超えるものと報道されています。きりのよい数字では,延伸区間で「前年比2倍程度との予測が3倍に」などと言われます。
公式の文書としては,JR東日本の次の開示資料の12ページで確認できます。
2016年3月期第2四半期決算説明会資料|JR東日本
2015年4月から9月までの上期,北陸新幹線による純増収(在来線の減収分を減算後)を165億円と計画していたところ,大幅に上振れして260億円。計画の1.58倍の出来で,2倍の想定が3倍にという報道内容と符合します。
その好調で,通期で285億円の純増収となる当初計画が,10月時点で450億円に上積みされています。
JR西日本の純増収は半期で153億円
一方,JR西日本の純増収分は同じ時期で153億円。連結ベースで過去最高益で,純利益は前年同期比21%増です。
それを受けて,2016年3月期で中間に5円増配,期末も5円増配予定です。増収額は東日本の方が大きいですが,1株当たり利益への貢献は西日本の方が大きく,西日本は増配ができました。
北陸新幹線開業前から,JRの配当利回りは,西日本>東日本>東海の順です。収益性は,東海道新幹線をもつ東海が一段高く,つづく東日本の水準を西日本が追うところ。ということは,西の株価が,JRの本州3社では過小評価されがちなことになります。なお,東海はJR3社で収益性や財務内容がもっとも良好ですが,今後のリニア建設という兆円単位の巨額投資があるので,配当を増やせる状況ではありません。
さて,JR西日本の収益還元は,株主だけでなく全従業員に及んでいます。冬のボーナスに付加して,一時金が正社員に5万円,契約社員に3万円支給されました。
首都圏と関西を新幹線で行き来するたびに,すべて名古屋に吸収される東海道新幹線の収益。それが,回遊性のある別ルートの創出で,一部でも大阪や東京に流れる道ができたともいえます。交通機関を選択できる区間が増えることで,健全な競争が進んでほしいものです。
開業前の在来線は大阪・名古屋方面が東京方面の約3倍の乗客数
北陸新幹線は現在敦賀まで建設中で,その先敦賀から関西へのルートは,今年中に決定されます。首都圏では過小評価されがちなこの区間,現在はサンダーバードが9両編成で毎時ほぼ2本,しらさぎが6両編成で毎時ほぼ1本走っていて,乗客数は以下の通りです。
各区間片道(人/日) | はくたか・北越など 直江津-糸魚川 |
サンダーバードなど 京都-敦賀 |
しらさぎ 米原-敦賀 |
新幹線開業前(2014年) |
4352
|
8566
|
3879
|
新幹線開業後 |
13500
|
ルート検討中 |
出典:データで見るJR西日本2015(79ページ)
東京方面が新幹線になったことで,在来線時代の1日あたり片道の乗客4352人の区間が,開業からの1日平均で13500人(=27000/2)と,3倍に増えました。もちろん,増えた分は航空機からのシフトが中心です。これが投資プロジェクトとして成功なのは,JR両社とも増収増益,JR西では増配と一時金のおまけ付きで,実証済です。
この先,北陸新幹線が当初計画通り,関西まで完成すれば,現在サンダーバードやしらさぎに乗っている8566+3879=12445人のほとんどすべては,北陸新幹線に移行するでしょう。
この基礎的な需要は,増益と増配をもたらした現在の北陸新幹線の上越妙高・糸魚川間の乗客数をやや下回る位。これだけでも建設に十分な旅客需要で,過去の整備新幹線区間の熊本以南,盛岡以北を超えています。
関西まで完成後は,関西から長野・高崎・新潟への最速ルートに
その従来の需要に加え,乗客が増える部分は,関西から長野・軽井沢へ乗り換えなしで2時間台と,北陸新幹線が新たに最速の選択肢になる地域です。また,関西・新潟間も,上越妙高乗り換えで3時間台と,東海道新幹線の東京駅乗り換えよりも速く,安くなります。
さらに意外な効果は,関西から高崎へ,北陸新幹線で乗り換えなしの3時間程度となること。こちらも現在の東海道新幹線東京駅乗り換えよりも,速くなります。
群馬・長野・新潟から関西への流動が今後の純増要因
北陸新幹線は観光路線と思われがちですが,この区間の沿線には有力な企業が並びます。たとえば,製造業の自動車関連で富士重工,日信工業,ミツバ,サンデン,化学では信越化学,デンカ,電子部品で太陽誘電,新光電工などの本社や基幹工場,流通ではヤマダ電機の本社です。この区間が関西に直通すれば,ビジネス需要は底堅いでしょう。
その関西への移動が,現在は,長野からは中央本線・名古屋経由,群馬からは東京を経由していて,北陸新幹線の需要予測で見落とされがちです。これら長野や高崎と関西間の流動は,現在のサンダーバードにはほとんど乗っていませんから,今後の関西延伸時の乗客の増加要因です。
また,新潟と関西との流動も,現在は航空機か上越・東海道新幹線経由が多数派です。こちらは北陸経由が上越・東海道経由よりかなり短く,安くなるでしょうから,大きなシフトが見込めます。
関西から見れば,これまで東海道新幹線に払っていた運賃・料金のうち,一部の行先でも北陸新幹線にシフトすれば,収益はJR西日本を通じて大阪をはじめ関西圏に戻ってきます。金沢延伸で増益・増配が実証済の現在,関西まで完成させることの波及効果は,経営主体のJR西日本をもつ関西にとって大きいはずです。
京都の舟運の拠点跡で一服
最後は,今後の鍵を握る京都で一服ということで,国の名勝指定・一之舩入。
そこに面したあんカフェ,ル・プティ・スエトミ(Le Petit Suetomi)。
高瀬川から引き込んだ運河の船着き場を修景したところで,明治時代になるまで大坂からの舟運があったそうです。そこに老舗和菓子店・末富が開くカフェ。
海に面していない都に,瀬戸内海・大阪湾からここまで船で来るルートを築いたことに敬服します。その時代の京都・大阪の繁栄にも,こうした交通手段の整備が大きく寄与しています。
京都駅に北陸新幹線が通れば,金沢から1時間30分,富山から2時間弱となるだけでなく,長野から2時間半,軽井沢や高崎からは3時間あまりで直通します。今後の関西延伸での乗客増を予測するには,長野・高崎方面や新潟方面の需要の評価が鍵と思われます。