北陸新幹線で行く,はじめての金沢

お庭,お菓子,お魚,お酒が揃う城下町をまわるため,金沢出身・東京在住者が往復しながらヒントを書いていきます。

外国人観光客は開業2年目も増加,Googleトレンドでも金沢よりKanazawaの伸びが大

金沢で外国人観光客が増えています。東京を朝出発するかがやき号で金沢に向かうと,スーツケースを伴った欧米系の観光客をいつも見るようになりました。その外国人客も,最近は金沢まで乗り通す方が多く感じます。

そして,欧米にないタイプの観光スポット,兼六園,ひがし茶屋街,忍者寺,武家屋敷跡野村家などでは,平日でもそうした観光客が何組も訪れています。予約が必要な鮨店でも何回か目にしましたが,それには予習が必要。ツアー任せではなく,調べて訪れる外国人の増加は,新幹線開業前なら珍しかったこと。

そこで,統計から見た現状と,足下の動向の把握方法を。なお,地方の観光地の中では,金沢はとくに欧米からの観光客に選ばれているのが特徴で,それは新しく別記事にしました。

外国人宿泊客は開業から概ね全国平均を上回る伸び

外国人の動向がわかる旅行関連の統計で速報性と信頼性が高いのは,観光庁の宿泊旅行統計調査です。チェックインや予約時に宿泊者が記した住所をもとに,宿泊施設が回答するため,宿泊者の国籍,日本の居住者ではその都道府県まで集計されています*1

その調査では,外国人宿泊者数ののべ数が月次で公表されていて,北陸新幹線沿線の主な都府県では以下の通り。

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出典:観光庁,「宿泊旅行統計調査」,平成28年7月分別表2ー2

外国人観光客は,金融緩和による円安で全国的に増えているので,地域ごとの要因を切り出すには,全国平均などとの比較が必要。そこで,全国平均と東京都,さらに,外国人が最も好む観光地・京都府を比較対象にしています。

石川県の外国人宿泊客は,開業後の2015年7月から現在まで,全国平均や東京・京都の伸び率を上回って増加しています。新幹線以外に大きな動きのない北陸では,それ以外の増加要因は考えにくいところ。航空機の羽田・小松線は,新幹線開業で小型機化や減便をしていて,開業前も外国人をあまり見かけなかったものです*2

石川・長野は2年目も反動減なく増加

注目点は,反動減が懸念された開業2年目も,外国人については,石川・長野で前年比プラスを続けていること。観光向けの情報も英語がわずかな現状で,彼らが信頼するのは,トリップアドバイザーなどの英語での口コミでしょう。2年目も伸びている理由は,母国にない観光スポットに英語のレビューが蓄積されるのに,相当のタイムラグがあるからと推測されます。日本人は熱しやすく冷めやすいですが,外国人は伝わるのに時間がかかるのが特徴。後に書くデータでも,その傾向がわかります。

石川は2年目も20%台の増加

開業2年目も,石川県の伸びは,前年同月比20%超。全国平均や東京では,伸び率が数%台までスローダウンしているのに対してです。今どき,年率20%台で客数が増えるビジネスなどほとんどなく,動向の把握は大切です。

一方,富山は開業2年目で4,6,7月が反動減。もっとも,開業直後に90%台の急増を2か月分も経験していたので,数%の反動減でも,開業前に比べればまだ大きく増えた外国人客数の水準です。直近も増加している石川との乖離が続くなら,日本を訪れる外国人の嗜好の反映かもしれず,要注視でしょう。

ところで,この宿泊旅行統計調査では,7月分の外国人宿泊者数がわかるのが9月30日と,最大2か月のタイムラグがあります。さらに,集計は都道府県単位で,現場の経営判断にはあまり役立ちません。

Googleトレンドで旅行関連の検索動向がわかる

そこで,ネット検索動向を直近まで無料で分析できるGoogleトレンドです。検索ワードごとの検索回数を,相対的な指数にしたもの。設定期間中,比較対象で検索回数が最大の値を100とする指数のため,対象と期間を変えると数値も変わるのに注意が必要です*3

それではと,金沢のほか,新幹線がはるか前に通じていた都市を,Googleトレンドでグラフ化してみました。開業日2015年3月14日までの経緯が十分わかるように,2013年はじめから直近まで。カテゴリーは「旅行」に絞っています*4

グラフをマウスか指でなぞると,その時点の数値が現れ,週単位(スマホ版では月単位)の変動がわかります。なお,Google Trendsのロゴをクリックした場合に飛べるのは,トップページに変わりました。そこに,期間や比較対象を入力すると,同様のグラフが現れます。カテゴリーを旅行にすることも忘れずに。

注意点として,新潟と長野は,都市名と県名が同じで,都市ではなく県域全体を意図した検索も含まれること*5。都市名=県名の地域では,検索数のカウントに過大評価の懸念があります。とはいえ,「新潟」と「新潟市」の数値を比べると,旅行目的で「市」まで付けての検索は少ないために,市を付けない都市名で比較しています。

金沢は夏以外では長野を超え,新潟を追う

開業前の検索数は,仙台,新潟,そして大きなギャップがあって,長野,金沢の順でした。それが,2015年3月の開業前後から,金沢が伸び,開業前のほぼ2倍の検索量に達しています。夏のピークを除けば,長野を上回る情勢。新潟とは,時期によっては互角の水準です。

ただし,季節変動は各都市で微妙に違います。学校などの休みで旅行全般が増えるのに加え,夏のピークには高原などでの避暑や登山,冬のピークにはスキーや冬山があると想像されます。長野は,後で書く英語検索のスキー客とともに,日本語検索では夏の避暑のピークが大きい都市。一方で金沢は,季節変動の少ない街中観光に特徴があります。

外国人の動向はGoogleトレンドでKanazawaと入力

さて,このツールで外国人観光客の動向を知るには,英語でKanazawaと入力することです。外国人観光客のほとんどは,日本旅行の情報収集でも英語のページを読んでいて,Kanazawaで検索してきます*6。上のグラフと同じ都市で,英語での検索の推移はこうなります。

英語の傾向は,日本語とまったく違うのが驚き。なお,ここでもカテゴリーを「旅行」に限定しています。

開業前から英語検索は長野,仙台・金沢,新潟の順

北陸新幹線開業前は,英語での検索がもっとも多いのは長野,続いて仙台と金沢が同程度,やや開いて新潟の順でした。

とくに長野は,英語の方が季節変動が大きく,巨大な盛り上がりが冬にあります。やはり,長野オリンピックのレガシーは偉大で,多くはスキー目的でしょう。たしかに,北陸新幹線でも,冬は長野で荷物の大きな外国人がかなり乗降しています。

一方で仙台は,日本語での検索はこれら四都市で頭一つ抜けて多いのに,英語での検索は,新幹線開業前でも金沢と同程度。日本人に比べ外国人の検索が少ない傾向は,先の観光庁の宿泊旅行統計調査とも符合します。

外国人宿泊者数(のべ数)は,新幹線開業前の2014年で宮城117,150人,石川348,290人。それが開業年の2015年で宮城190,610人,石川517,430人。開業前後とも,外国人の宿泊客は宮城より石川が多いという,意外な数字です。

なお,新潟の英語検索がさらに少ないのは,Niigataという英語圏にはない綴りで損をしている部分もありそうです*7

開業後は金沢が約3倍増で,冬以外は長野を超える

新幹線開業後,金沢の英語検索は急速に伸び,開業前の3倍程度へ成長。開業2年目も明確に増えています。

以前の英語検索は,通年で長野がトップ,仙台をはさんで金沢の順だったものが,開業後は,冬は長野,冬以外は金沢がもっとも検索されています。現在は,次に仙台,さらに離れて新潟の順。また,長野・仙台は検索が長く増加している一方,新潟は長期的に横ばいなのも特徴です。

Japan Rail Passなどで有利な京都との回遊性

開業後は,英語検索での長野・金沢と仙台・新潟の差が広がっています。考えられる差は,外国人を最も引きつける京都方面との回遊性。実際,東京・京都間のルートの片道で北陸観光という経路が広まっています。

この際,よく使われるのが,外国人の日本旅行者などに限定して,海外の旅行会社と日本の主な国際空港・駅だけで発売されるJR全線ほぼ乗り放題のパス,Japan Rail Pass*8。東海道・山陽新幹線ののぞみを除くものの,7日間で普通車用29110円,グリーン車用38880円と,日本人からすると羨望の割引。このパスを購入する旅行者にとっては,日本の観光地を無駄なく長く回れるような,周回ルートを選ぶ誘因になっています。

さらに,北陸経由で東京・関西間を乗り放題とするHokuriku Arch Pass(7日間,国外購入時24000円)も販売が開始されました*9。Japan Rail Passでは,のぞみに乗れないという不満を,JR東海を外すことで解消するものです。乗り放題区間を,成田空港・東京都区内←北陸新幹線・特急サンダーバード→京都・大阪・神戸市内・関西空港の全列車に限定することで,Japan Rail Passよりも料金を抑えています。

世界遺産の白川郷・五箇山へ最短アクセスの新幹線駅に

そして,金沢周辺で外国人比率がとりわけ高くなるのが,世界遺産の合掌造り集落,五箇山・白川郷へのアクセス。今や,金沢ー五箇山・白川郷間の高速バスは,外国人客が大勢。意外にも,金沢が時間的に最短の新幹線駅(五箇山まで60分,白川郷まで最速75分)になったからです。外国人の地方観光では,日本固有のもので,大都市周辺にはない観光資源が求められるようです。

直前までの検索がわかるのが売り

Googleトレンドの実用性は,直前までの検索動向が無料でわかること。たとえば,直前の週を1年前,2年前の対応週と比較すると,以下のような推移がわかります。需要予測の一材料として,出退店や価格設定の判断にも使えそうです。

Googleトレンドでみる旅行カテゴリーでのウェブ検索の推移*10
検索ワード 2014年
10/19~25
2015年
10/18~24
2016年
10/16~22
仙台 54 62 70
新潟 48 57 55
金沢 34 55 59
長野 39 44 43
最高値は2015年8/9~15の新潟で,それを100とした指数*11
Sendai 19 17 23
Niigata 10 11 10
Kanazawa 16 48 65
Nagano 44 46 51
最高値は2015年12/27~2016年1/2のNaganoで,それを100とした指数

なお,上の数値は週単位の詳細がわかるPC版をもとにしていて,スマホ表示では月単位に集計された少し違う値になっています。詳細を分析するなら,PCで改めて確認することをおすすめします。

*1:一方,観光地で行われるアンケートは,深く質問ができますが,調査日や場所が限定されるため,抽出率や回答率が低く,宿泊者ベースのデータよりも偏りや標本誤差が懸念されます。

*2:外国人旅行者の日本国内の移動に,航空機よりも新幹線が選ばれる理由の一つは,JR全線に通用するJapan Rail Passが,7日間29110円からという大幅な割引で売られているからで,後述します。

*3:比較対象や期間を変えると,(基準の100が設定される)最大値の期間とワードが変わります。それで,各検索ワードの指数の値も変わります。数値に意味があるのは,比較対象と期間を固定して,大小比較や時系列的な増減を把握するところまでです。

*4:カテゴリーを旅行に絞る理由は,そうしないと,地元の住所や企業名の検索,同一名称の人名の検索などが大量に含まれてしまうからです。

*5:たとえば,新潟の検索数には,新潟市を意図したもののほか,新潟県域の意味で「新潟,温泉」とか「新潟,スキー」という検索も含まれます。そこから新潟市ではなく湯沢町のスキー場のページに進んだ場合も含まれます。

*6:例外として,漢字が入力できる中国系の方があります。しかし,検索結果は日本語より英語の方が理解されるため,漢字入力ができても最初から英語で検索する方が多数派でしょう。

*7:もっとも,NigataやNeegataなどと,発音につられたミスタイプを想定してトレンドを見ても,数は極端に少なく,綴りの難しさが主要因ではなさそうです。

*8:利用の条件は,外国籍で日本に短期滞在の資格で入国する者などと厳格です。入国資格が,留学や仕事では,購入できません。また,東海道・山陽新幹線ののぞみなど一部除外列車があるものの,北陸新幹線では全列車有効です。
 さらに,金沢での知られざるメリットに,金沢駅-広坂(21美最寄り)-兼六園下-橋場町(ひがし茶屋街最寄り)を経由するJRバスに,このパスだけで乗れることがあります。金沢のJRバスは,北陸鉄道の周遊バスなどより本数が少ないものの,追加料金なく市内観光ができます。
  下の写真は,金沢駅兼六園口バス乗り場にあるJRバスのチケット売場の掲示。
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4番乗り場は,(高速バスを除く)JRバスの乗り場です。

*9:ただし,Japan Rail Passと違って,金沢のJRバスには有効ではありません。

*10:記事中のグラフの数値によるもの。具体的には,2013年1月1日から2016年10月22日までの期間設定で,日本語と英語の別に4都市の比較を,2016年10月23日にPC版のグラフから読んでいます。期間と比較対象の設定次第で,値が変わることに注意。また,Google側で数値が遡及改訂されることもあります。

*11:2015年8月21日に,NGT48の初イベントが新潟市で開催されています。