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北陸新幹線で行く,はじめての金沢

お庭,お菓子,お魚,お酒が揃う城下町をまわるため,金沢出身・東京在住者が往復しながらヒントを書いていきます。

蟹の名は。 男子加能がに,女子香箱がに:女子香箱がに東京へ編

食事・カフェ

雪吊りを眺めての香箱がに

冬の金沢と言えば,ずわいがに,窓の外には雪吊り。とくに,雌の香箱がには,日本海側ならではの水揚げです。料理店ではジュレがけに,あしらいなど,おしゃれな一品に仕立てられます。

東京での雪吊りと蟹料理(ANAインターコンチネンタルホテル東京・雲海)

ですが,この写真をじっくり見て,何か気づいた方は,北陸の方か造園関係者でしょう。

実は東京・港区で,各種撮影に使えそう

その通りで,こちらは東京・港区の溜池交差点近くにあるANAインターコンチネンタルホテル東京の雲海です。ホテル3階の日本料理店ですが,池に鯉の泳ぐ日本庭園に雪吊りを配し,それを背景に,端正な蟹料理が構図に入れられます。向こう側に写る,貸し切れる個室もあるため,雪吊りと蟹を含めた日本料理を前に展開する会話など,冬の金沢・北陸の設定の絵を撮りたい映像関係の方には,受けそうです。

こちらは場所柄,出張での来日と思われるスーツの外国人と日本人のグループ客もいらっしゃいましたが,満足そうです。海外で鮨店をはじめ日本料理店の人気が高まっているとはいえ,そこに出される魚介類のほとんどは,まぐろやかつおなど遠洋の冷凍もの。

本来,日本の食の強みは,沿岸漁業のおかげで冷凍でない魚介が食べられること。冷凍の有無でおいしさが大きく違うものの一つは,かに。海外から日本を訪れるなら,日本でしか食べられないものを,日本にしかない景観で食べたくなるものでしょう。

雌には外子・内子があり,独特のおいしさ

日本海側で獲るかにの特徴は,ずわいがにの雌も食べること。雌は雄より小型で安いのですが,味では雌だけにある外子と内子が独特です。外子はとびこを赤茶色にしたような粒状で,ぷちぷちした食感。内子はオレンジ色で,ほろほろした食感におだやかな甘味と旨味があります。

料理屋さんでは,その食感と味覚を引き立たせるように,甲羅に脚の身のほかに,内子・外子も合わせられ,あしらいやつまなどを工夫されます。

蟹の名は,地域と雄・雌ごとに

雌も食べるとなると,名前も分かれます。蟹の名は,男子か女子かと,地域ブランドで決まり,表のようです。

蟹の名は。:ずわいがにの名称
水揚港
石川県 加能がに 香箱がに
福井県 越前がに せいこがに
せこがに
おやがに
山陰地方
京都府・兵庫県を含むことも
松葉がに

なお,似た食材である,たらばがには,ずわいがにのような(はさみを入れて)足10本のカニ下目ではなく,足8本のヤドカリ下目です。たらばがには,山陰・北近畿・北陸の日本海側では獲れず,国内の漁場は北海道です。

松葉がには地域呼称,越前がには地域団体商標登録済

かにの名前では,松葉がにが,もっとも知名度があるようですが,それはずわいがにで山陰地方水揚げのものの呼称。この範囲に,京都・兵庫の日本海側を含めるかどうかも,公的な基準がありません。同じものが,福井県で水揚げされると越前がに,石川県では加能がにになります。なお,加能がには石川県の旧国名,加賀・能登からの命名。

地域名称のうち,越前がには福井県漁連の地域団体商標として登録されていて,他では使えません。より細かい地域団体商標として,舞鶴かにと間人たいざガニが京都府漁協によって登録されています。松葉がには,関係地域が広く,水揚げ港の範囲に考え方の違いもあり,地域団体商標としては登録されていません。

香箱がには昭和2年の泉鏡花作品で確認できる古い名称

雌のずわいがには,もともと日本海側で広く獲られていて,せいこがに,せこがになどと呼ばれる地域が多いものです。しかしなぜか,石川県ではかなり早くから,香箱がにと呼ばれています。その由来に諸説あるのはそのうち記事にします。

確認できる出版物への初出は,金沢の近江町市場を訪れた主人公たちの描写がある,泉鏡花,「卵塔場の天女」で,雑誌「改造」1927年(昭和2年)4月特別号への掲載。遅くとも昭和2年には,金沢で香箱がにの名称が一般に使われていたことになります。現在では,下のお店のメニューでも,香箱がにの名前が使われていて,近隣府県のものを含めて,広く通じるようになりました。

石川の漁期は11月から雄は3月,雌は12月まで

注意点は漁期で,石川県の場合,11月から雄は翌3月までと長い一方で,雌は12月までと短いもの。年により多少の違いがあって,正確な期間の確認は,石川県漁業協同組合の情報で。

漁期は日本海側の府県ごとに違いもあり,北の方が長め。端境期では近隣の府県のかにも流通しています。また,ずわいがにの漁期以外,たとえば夏でも,地物の毛がには水揚げがあり,それはまた別のおいしさです。

女子香箱がにも東京で食べられるように

冷凍では内子・外子がもたない香箱がには,輸送に時間のかかる東京には,あまり出回らなかったものです。食品スーパーはもちろん,デパ地下の魚店でも扱わないのが普通。しかし現在では,冷蔵輸送の進歩で,日本料理店や鮨店ならば,出しているお店がそこそこあります。

この冬は昨年の11月以降,金沢へ帰ってかにを食べる機会があまりなく,東京で香箱がにを食べていたところ。それで撮りためた写真を載せてみます。ただし,石川県産の香箱がにについては,漁期が12月までで,この冬の提供がすでに終わった店もあるでしょう。

ANAインターコンチネンタルホテル東京・雲海

先ほどの日本庭園をもつ日本料理店で,香箱がには,シーズン中の会席料理の先付のほか,一品料理でも提供されています。

東京で味わえる,ずわいがにの雌・香箱がに(ANAインターコンチネンタルホテル東京・雲海)

写真は,一品料理として注文できる,越前香箱がにの浜茹で。甲羅に,内子・外子と脚の身,あしらいに黄色の食用菊を盛り合わせ,甘酢のジュレがけ。その上に,木の芽と松葉のあしらいです。最後に,お皿に広く散らしているのは,林檎のみじん切りと,手の込んだ一品。

とくに,林檎を散らすのは,しっとり柔らかいかに身とは食感が好対照で,なるほどと思わせる組合わせでした。海鮮に果物の付け合わせは,味と食感の変化が楽しめて,意外といけそうです。

別日の夜に食べたときは,庭が要所でライトアップされていました。

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奥に見通せる雪吊りに,かにが浮かび上がります。あしらいに,銀杏の葉。雪吊りと蟹の構図としてよく整えられていて,そこに雪が少し積もると,情緒が高まりそうです。知らない人が見ると,北陸の温泉旅館かと思うでしょう。

もっとも,この眺めと蟹料理を,東京の都心でやられると,北陸の観光地の売りが一つ減るわけで,コスパなら冬の北陸と付け加えたいところです。金沢では以前の記事に。

こちらには,香箱がにの茶碗蒸しもあって,あたためるとまた別のおいしさに。

香箱がにの茶碗蒸し(内子を中に,外子は銀餡層に上のせ)

脚の身と内子と味噌を少しずつ,卵液とともに中に入れて,緩めの蒸し上がり。内子は,卵の卵黄のような成分で,なるほど茶碗蒸しとは調和します。

一方で,外子は上層の銀餡部分に散らして,彩りを鮮やかにしています。まったりした食感に,外子のしゃりしゃり感が上のせされて,その使い分けが活きています。

外子を炊き込みご飯にするのもよく見ますが,その場合も色合いがポイントです。

久兵衛

次は鮨店で,名店ながら席数もあることで,現在も独立する若手を多く輩出している久兵衛さん。需要に対して鮨店の名店が希少な東京の都心部では,名の知れた鮨店は,かなり先まで予約で一杯。こちらは,席数があるため,予約の準備なく,突然お鮨が食べたくなったときにも頼れる,貴重なお店です。

本店は銀座ですが,ほかホテルなどに数店があります。フリーでの入店可能性という点では,本館と新館に2店舗あって,あわせれば席数のあるホテルニューオータニのお店がおすすめ。こちらは本館側です。

ありましたよ,こちらにも香箱がにの一品が。正直びっくりしました。

東京の鮨店での香箱がに(雌のずわいがに)久兵衛ホテルニューオータニ東京店

東京の鮨店ですから,かには期待せず訪れたもので,隣のお客さんが食べていて,久兵衛でも食べられるのかという驚きのままに注文したもの。仕入れが少ないのか,おまかせでも一部か,リクエストしなければ出ないものでした。あたたかい状態で出てくるのも,鮨店の一品としては特徴的。小皿の蟹の絵付けも,何げに気が利いています。

こちらのお酒は少数に固定されていて,山田錦の源流にあたる雄町の酒を多く手がける,伏見の玉乃光を。伏見の酒蔵では,全国で流通している最大手の2つ松竹梅や月桂冠の次に,東京に出ているものです。

香箱がに(雌のずわいがに)に日本酒をあわせる(久兵衛ホテルニューオータニ東京店)

香箱がにを出されるようになった時期をうかがってみると,現在は築地に入っているのだが,入るようになったのは最近ではないというお返事。どれくらい前から店で出しているかは,すでにわからないとのことでした。断層撮影はこちら。

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縦に並べられた脚の身の下では,かに味噌と内子とを合わせて盛り込んでいます。外子を上に集めているのも,よく見る盛り方です。鮨店らしく,付け合わせやあしらいよりも,内容重視の一皿といえます。

なお,お鮨の方はすでに膨大な言及がある通り,砂糖を使わず,赤酢主体で甘くない,やや固めのしゃり。わかりやすい特徴というと,穴子がよくある煮穴子ではなく,一貫ずつ焼いて,外側がかりっとして香ばしいもの。それを,甘だれだけでなく,塩に柚子を散らしたものと,比べて食べさせます。

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写真を撮ったのは,盃に金箔が使われているからでも。金箔の生産はほとんど金沢で,それを使われた器を東京で見ると,こうして応援したくなります。金箔を控えめに使われたグラスは,酒や料理を引き立てて,きれいです。

ネタに戻ると,柚子などは,焼き物や他のネタ,いかや貝類などでも,要所で散らして使われます。卵も,すり身の入ったカステラタイプで,注文後に,個別に焼いた温かいものが出されてほっこり。食べたくなったときに予約なしでも入れる可能性のある鮨店では,もっとも安心感のある一店です。

ここも場所柄,かなりの確率で外国人客がいて,握りの写真に,英語が入ったメニューが大活躍です。これは,注文も増えて間違いも防げるので,外国人客の増えた鮨店にはおすすめです。

銀座や東京駅などに複数店舗の居酒屋・方舟

よりカジュアルな店では,北陸の魚介と日本酒を多く扱う居酒屋・方舟はこぶね

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こちらは,東京駅ナカにあるお店で,場所は駅改札外の北側,丸の内・八重洲口を結ぶ自由通路に接した黒塀横丁地下1階です。駅ナカなので,居酒屋には珍しく,11時から23時(22時ラストオーダー)の通し営業。中途半端な時間からでも飲んでいけます。

銀座など首都圏に,海鮮と日本酒主体の11店舗と鮨1店舗をもつ会社で,本部は東京ですが,北陸支社を金沢市香林坊に構えます。石川県内でも能登のシーサイドヴィラ渤海など特徴ある施設を運営。ただし,金沢にまだ飲食店はなく,東京設立で北陸も開拓する沿革です。

特徴は,北陸の魚介類と日本酒を独自のルートで仕入れることで,輪島港のせりに直接参加できる買参権も保有。それで,おもに新潟・富山・石川・福井から直送の魚介が並びます。

こちらの香箱がには,1日10食限定扱いで,このときは新潟・佐渡水揚げのもの。

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脚の身と内子を甲羅に盛り付けるのは,各所で見る標準形。一方で,外子は,腹側の甲羅で前掛けと呼ばれる部分に,薄く伸ばして別盛りにしてあります。酒を飲みすすめるには都合のよい分け方で,居酒屋の流儀。限定10食とはいえ,これが東京駅ナカで昼から食べられる現代です。

赤坂浅田

こちらは,東京・赤坂の料亭浅田。金沢の近江町市場近くにある老舗料亭旅館・浅田屋から分かれて独立の店で,他に東京では青山と,名古屋に店があります。金沢の浅田屋は,多様な店舗まで展開していて,日本料理では石亭,よりカジュアルで海鮮に振った松魚亭や,別ジャンルでステーキ専門店である六角堂でも,知名度があります。

東京では,赤坂と青山のどちらも,季節により香箱がにを含んだ会席があるほか,一品料理としても,別に注文できます。

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料亭なので個室主体ですが,一部にカウンターもあるのが,個人客にもありがたいところ。そのカウンターなら,予約がなくても入れる場合があります。

料亭だけあって,器にも力を入れていて,現代の大樋焼や九谷焼が揃えられています。この器は,江戸時代に,京都の茶道・裏千家とともに金沢に招聘された大樋焼の窯元によるもので,十一代大樋長左エ門の作品。十代は文化勲章受章作家で,その作品は国立近代美術館工芸館に収蔵されています。その大樋焼独特の,飴釉の深みのある艶が,かに料理を彩ります。

こちらでは,大きめの香箱がにの甲羅に,脚の身をきれいに縦に揃えて並べる盛り付け。上に出ているところに,外子を埋め込んであります。左下の付け合わせは,しゃきしゃきした加賀野菜の金時草きんじそうと,こちらも金沢の地物を合わせます。

揃えられた蟹身を食べていき,断層撮影すると,このような盛り付けです。

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敷き詰められた脚の身の下は,甲羅の身のほか,手前に内子,上部に外子です。お椀状の甲羅を安定させるために,中空の大根の飾り切りを台としてあります。これらもまた,海鮮そのままではない,料理店に行く楽しみです。