北陸新幹線で行く,はじめての金沢

お庭,お菓子,お魚,お酒が揃う城下町をまわるため,金沢出身・東京在住者が往復しながらヒントを書いていきます。

本多の森散策の最後は,静寂の水面に物想う鈴木大拙館

過去記事からの,県立美術館→中村記念美術館→松風閣庭園→鈴木大拙館と食べて散策する最終回。その過去記事とルートはこちらに。

各色5分程度の散策路で,松風閣庭園から戻りつつ,最後は2011年開館の鈴木大拙館(すずきだいせつかん)へ。

なお,直接のアクセスは,周遊バス左回りでも右回りでも,本多町バス停から徒歩約5分。21世紀美術館からは徒歩10分程度です。

静かな水面と森を見つめる鈴木大拙館

禅の精神を英文の著書多数などで世界に広めた,この近隣出身の仏教哲学者・鈴木大拙を記念する施設。注目されるのは,設計がニューヨーク近代美術館MoMAの新館などで知られる谷口吉生氏である点でも。

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今の金沢で,もっともターゲットを絞ったスポットでしょうか。直線を主体に,余計な装飾をしない現代建築。本多の森を借景に小刻みに揺れる水面に無常を見せるつくりです。にぎわいや驚きとは真逆の,ひたすら静かな空間。奥には思索のできるベンチを。

壁の左下には「穴」。左面には,スリットから水面に張り出した踏み石が見えます。

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左の山手が県立美術館のある高台。歩いてきた経路は,左の壁の外の奥の方から手前にです。また,前記事の松風閣庭園は,左の壁の外側一帯。

左隅に寄って撮ると,建物の出入り口が見通せて,不思議な構図が。

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元に戻って,スリットの外の踏み石から見ると,こんな風景。

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奥の「穴」の向こうには,つくばい様の石が,なぜか三角形のくぼみに水をたくわえます。写真左側の灯りは,展示物のある館内です。

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室内はこのようなつくり。上部はコンクリート打ちっ放し,開口部は閉まる扉を備えた黒,床は木と,色調をかえています。境界部分には間接照明を。

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そのベンチから外を眺めると,幾層にも切り取られた風景が。

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天井には,丸い明かり採りを。

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森と水面が壁で仕切られ,さらに開口部に切り取られます。

長い間隔の水の吹き出しが波紋を広げる

さて,先ほどの穴の所を眺めていると,数分は待つようなかなり長い間隔で,同じ場所から水がぼこっと吹き出ます。それでたまに波紋が広がる仕掛け。

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何の予兆もなく吹き出し,波紋が広がり,また元に戻る。それが禅の研究と啓蒙を記念するこの建物のコンセプトのようです。

そこで,金沢の他の施設に比べ,入館者に欧米からと思われる外国人比率は高く,トリップアドバイザーのエクセレンス認証の盾が。

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気付いたのは,この施設の,構成としての美しさ,とくに,わずかに波立つ水面と建物の関係は,もっと広角でないと一枚に収まらないこと。手軽なデジカメではこれが限界です。きれいに撮るなら,スマホやコンデジではなく,より広角のレンズが必要です。

また当然ながら,にぎやかなところや驚かせるものが好きな方には向いていません。たとえば,枯山水の庭を眺めて,しばらく考えられる方なら納得できる施設。

その枯山水なら最高の知名度と思われる京都・龍安寺の石庭も,後ろを観光客が絶え間なく通り過ぎるのが現代で,往時の目的を果たせなくなっています。こちらは街なかながら,現在も沈思黙考に応える空間。にぎわいとは別の価値があることを認識させられます。

ずっと眺めていても,あの噴き出しと波紋に気付く人は少ないのですが,それでいいのでしょう。

なぜ谷口吉生氏の設計なのか

それは,谷口吉生氏の父も建築家で,金沢市出身の谷口吉郎氏だからです。その代表作は,帝国劇場東京国立近代美術館,ロビーが特徴的で建て替えが惜しまれた旧ホテルオークラ東京本館など。これから金沢市寺町に,谷口吉郎の生家を記念する施設をつくるそうで,開館したら行ってみたいものです。

建築が好きな人に知られているのは,父子で共同設計した唯一の作品と言われる,金沢市立玉川図書館。以前記事にした,旅行での選択も多い老舗料亭つる幸の2つ隣です。

またその徒歩圏には,金沢で暮らす人にはなじみ深い風景になっている作品が。それは,旅行者も多くが目にしている,近江町市場対面にあるデパート・めいてつエムザと上階のホテル・ANAホリデイ・イン金沢スカイ。これが父の谷口吉郎建築です。

低層,中層,高層階をあえて不均斉にすることで,広がりと伸びを感じさせるスタイル。よく見ると,高層部が中層部から右側にはみ出して建てられています。

面白いのは,この交差点に向かう2方向,香林坊からも,ひがし茶屋街からの帰路になる橋場町からも,この高層部が正面に見えること。角地に普通に高層ビルを建てただけでは,2方向の道路から正面に見えないはずで,どこをどの向きに高層にするか,よく考えられた設計です。

ホテルオークラ東京も,改築は谷口吉生氏に任され,親子継承に

なお,父の谷口吉郎氏が設計して,今年改築のために取り壊されたホテルオークラ東京本館は,長男である谷口吉生氏の設計で再興されることになりました。

親子で共同設計した唯一の作品・金沢市立玉川図書館に対して,今度は改築を親子リレーでというケースで,興味深い展開です。ロビーの輪島塗のテーブルも再利用されるとのことで,石川ゆかりの品も継承されます。