金沢のお鮨は,あいじに始まって,歴々に終わる。というのは,あいうえお順の話。たしかに,五十音順で先頭と,忘れられなくなる店名で,さらに「アルプスの少女はハイジ,金沢のお鮨はあいじ」と覚えてしまうからでもあります。
お名前はともかく,
場所は,昔からの繁華街・片町でも,犀川沿いに飲食店が集中する一方通行。老舗料亭の一つ・銭屋もこの通りの並びにあるのが,飲食店の競合区の証しです。お店は,写真のようにビルの半地下で,やや気付きにくいものの,徒歩圏に朝までお酒が飲める店がたくさんあるのがそれを補います。
このお店のもう一つの特徴は,ほとんどの鮨店が用意する生姜の酢漬け・がりの代わりに,野菜の浅漬けを出されるところ。知る限り,周辺にこういう流儀のお店はなく,オリジナルと思われます。
北陸のネタは,酢で締めることで引き立つ光り物よりも,甘えびや白身など,自然な甘みを楽しむものが多いので,付け合わせも酸味が少ない,野菜本来の甘みが活かされます。酸っぱいのが苦手な方にも,酸味が強くなくてもおいしい鮨があることに気付くお店です。
もちろん,このクラスのお店になると,醤油を付けさせることもなく,すべてそのまま食べられる出し方。
まずは,当地独特のばい貝で,独特のこりこり感に,ほのかな甘み。
このときの器は,鮨店では珍しい,右縁に花が緻密に描かれた金沢の若手陶芸作家・川崎知美さんの作。その工房はひがし茶屋街そばですが,会社は徒歩圏の長町ですね。お鮨はネタによって色彩が多様なので,一色のデッサンの方がかえって引き立ちます。
春が旬の蛍烏賊は,このときはボイルで。
鰤の腹身。これも包丁を細かく入れて。
当地独特のがすえびも,尻尾を取った仕立て。
そして,いい具合に熟成された甘みの甘えび。ちらちらと靑いのは卵で,このようにまとわせる鮨店も増えてきました。
鮪の漬けですが,回りを炙ってあるのが,こちらの趣向。なるほど,味がはっきりしてきます。
そして,こちらのスペシャリテ,うにの蒸し寿司。師匠である太平寿しは,のどぐろの蒸し寿司をおそらく最初に世に出したお店ですが,その系譜で,うにを蒸し寿司にします。
銀餡をかけて,蒸し上げているので,うにのこくに,まったりした銀餡が,おだやかなしゃりを包みます。中はこんな感じ。
そして,中トロ。
あかいかも包丁を入れて,歯ごたえと柔らかさを両立。
春なので,さより。ほのかな甘みと食感はもとより,銀のねじれが綺麗です。
もはや金沢の定番となった,のどぐろに,
あえて,加賀野菜の金時草(きんじそう)。しゃきしゃきの歯ごたえが,箸休めとなる一品。
手巻きは鰻です。もともと金沢にある鮨店は,江戸前なら穴子を使うところに,鰻を使うことも多く,穴子の肉厚さよりも鰻の香ばしさが効きます。奥に写るお酒は,どんどん飲みすすめていますが,能登の白菊です。
おいしかったので,のどぐろを別の仕立てで。
鰤ももう一貫で,包丁を細かく入れてもらって,また違う味に。
鮪の漬けの二枚重ね。これはコクが強まって,締めるにはふさわしい品でした。
ひょっとしたら,二枚重ねるとさらにおいしくなるネタは,いろいろあるのかもしれません。
写真以外に,お椀とその他をいただいて,ごちそうさま。お酒二合を入れて8000円台は,東京では考えられない価格です。
ということで,まったりした蒸し上げも含めて,創作色のあるお鮨を繁華街・片町で味わえるお店。徒歩圏のホテルも多数あり,この後朝まで飲める店も多いことも,活きてきます。