板屋:蒸しカステラと栗の合わせを早くにはじめた独創性
こちらは昭和の創業ながら,創作性の高いお菓子を提案しつづけるお店。本店で作り続ける姿勢で,規模は大きくせず,市外にお店はもちません。
香林(こうりん)
蒸しカステラ生地で刻んだ栗を挟んだもの。甘さはかなり落としていて,しっとりした食感をとどめています。栗はやや堅めのままで,これも甘くなく,よいアクセントに。
餡をまったく使わない点など,洋菓子ともいえる作りで,しっとり系のお菓子が好きな方全般にすすめられそうです。それでいて,エージレスパックで,それなりに日持ちします。
1984年に第20回の全国菓子博名誉総裁賞を受賞している独創性で,私の記憶する限り,金沢の和菓子店で,蒸しカステラだけのタイプの先駆けではないでしょうか。
長年,大判の正方形だった形状が,昨年に細長い棒状に改められています。ただし,今でも個包装ではなく,自分でスライスして食べる方式なので,職場などで多数の相手に分けてしまうことができれば,もっと小口のお客さんもあるのではと思います。
恋するちょこ
ミルク餡をチョコでコーティングした,通称・恋チョコ。これも和洋の壁を超えるお菓子。中のこし餡にはミルクが加わることで,十分になめらかになり,外のチョコレートと違和感のないもの。金箔・銀箔のあしらいもあいまって,金沢和菓子の面白さを表しています。
うら田:もっちり感や口溶けなど他にない特徴の品が
同じく昭和ですが,戦前の創業組で,近年は創作の頻度も高く,おやと思われる品が毎年出るお店。こちらも市内だけの店舗展開で,県外への出店はありません。後に書く,愛香菓と加賀八幡起上もなか,時期により栗天真あたりが,東京・銀座にある石川県のアンテナショップ・いしかわ百万石物語に出ています。
以前は,さい川という,最中タイプの2枚の皮で,メレンゲ風の口溶けの芯を挟んだ干菓子が主力となるお店だったのですが,近年は新作が生まれる一方で,古典的な最中もなぜか復調しているなど,全般的に進化しています。
栗天真(くりてんしん)
こちらの二層の蒸しカステラ合わせは,後発ながらさらなる工夫が二点ほど。まず生地に丸芋を配合することで,もっちりとした食感に仕上げていること,さらに,甘栗をあえて渋皮部分を残して使うことで,ほのかなえぐみを残していることです。
先ほどの,しっとり軽快な仕上がりの香林よりは,やや甘く食べ応えのある仕上がりです。こちらは,日持ちは短いものの,写真のものをエージレスパックで個包装していることで,職場などで分けて配れることも,おみやげにしやすいところです。
全体の構成としては,板屋の香林と,小出の山野草の草をあわせもつようなタイプ。和菓子店が集積すると,味と食感のバラエティが増えるのは,競合が次の進化につながるからでしょうし,それが金沢和菓子の選びがいでしょう。
愛香菓(あいこうか)
他にないものとして,もう一点挙げるなら,ふわっと口溶けする砂糖菓子,愛香菓でしょう。和菓子店なので落雁ベースかと思いきや,小麦粉と砂糖の生地を適度な油脂で成形して口溶け感を出しているようで,和菓子店のつくるポルボロンといえます。風味は,アーモンドを主体に,レモンピールとシナモンで調えられたもの。これも和菓子の域を出る品で,餡をまったく使わず,洋菓子といわれれば洋菓子です。
一方,伝統のポルボロンがラードを使うのに対して,こちらの独自性はラードを使わないレシピ。ポルボロンのように包み紙が油脂分で染みていないは,そのためでしょう。
この他,郷土人形の一つ,達磨風の加賀八幡起上りをかたどった「加賀八幡起上もなか」が,ここにきて売れ筋になっているようなのは,少しびっくりです。私の幼少期から続く商品ですが,中身はもなかのため,以前は独特の「さい川」の方がよくすすめられていました。現代に復調したのは面白く,今やパッケージの方が大事ということかもしれません。
ということで,追記しつつ,つづきます。このペースで行くと,あと10記事はいくでしょう。