北陸新幹線で行く,はじめての金沢

お庭,お菓子,お魚,お酒が揃う城下町をまわるため,金沢出身・東京在住者が往復しながらヒントを書いていきます。

和菓子の購入額,15年以上連続日本一の街・金沢

ーこの記事は,おみやげを選びたい旅行者向けではなく,菓子処の現状を知りたい人向けです。ー

餃子日本一を宇都宮と浜松が争う,そのデータでは

餃子の日本一をめぐって,広く知られた宇都宮と浜松。そのデータとは,世帯の品目ごとの購入金額を毎月調べている総務省統計局の「家計調査」で,1年間の購入額の1世帯平均を基準としています。

では,和菓子の年間購入額日本一の都市はどこか。予想されるように答えは金沢で,15年以上首位です。以上というのは,2000年より前のデータが,ネットでとれないから。この調査では,(羊羹と饅頭を除いた)他の和生菓子という品目で,それがわかります。羊羹や饅頭だけとると他都市が首位ですが,和生菓子が長年連続首位というのが,金沢の特徴です。

例:吉はしの上生菓子,水若葉

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むしろ,意外と思われるのは,和菓子だけでなく,洋菓子も上位にあるところで,後に書きます。

その統計が開示されているのは,こちら。

家計調査(2人以上世帯)品目別都道府県庁所在市および政令指定都市ランキング(2012年〜2014年平均):総務省統計局

過年度分は,上のページのリンクのように,年ごとに別の表があります。

旅行客の購入を含まない統計のため,売上はもっと大きい

なお,この購入額は,金沢市に住んでいる世帯を標本として調査されたもので,旅行者が買うお菓子や,料理店やカフェなどがコースの一品として発注するお菓子はまったく含まれていません。それらが加わる販売サイドの数字は,もっと上のはずです。京都などの観光都市の菓子業界も同じ事情で,これはかなり堅めの数字です。

和菓子だけでなく洋菓子を含む菓子類合計でも,4年連続1位

上のデータで直近3年の平均で,金沢市は,洋菓子を含む菓子類の総額でも調査都市中1位です。各年別の集計を見ると,これは2011年から4年連続で,近年は総額でも上位が定着しています。

順位 都市 菓子類の
年間購入額(円)
1 金沢市 99,255
2 宇都宮市 90,054
3 川崎市 89,248
4 山形市 88,642
5 仙台市 87,421
全国平均 78,951

和生菓子,ケーキ,アイス,チョコ,スナック菓子で首位の5冠

その菓子類の内訳をみると,その他の和生菓子,ケーキ,アイスクリーム・シャーベット,チョコレート,スナック菓子が全国首位で,現在5冠。意外と思われるでしょうが,洋菓子もよく買われています。比較のため,他の洋生菓子も加えて,その5位までの地域を挙げました。たしかにケーキや洋生菓子になると,東京都区部や神戸が上位になります。

一世帯あたり菓子類の年間購入額(円)(内訳の抜粋)
順位 他の和生菓子 ケーキ 他の洋生菓子
1 金沢市 15,325 金沢市 8,583 神戸市 10,316
2 岐阜市 13,179 東京都区部 7,914 山形市 10,301
3 仙台市 12,458 熊本市 7,882 金沢市 9,496
4 京都市 12,406 宇都宮市 7,849 京都市 9,131
5 山形市 12,388 山形市 7,835 宇都宮市 9,110
  全国平均 9,034 全国平均 6,809 全国平均 6,951
順位 チョコレート アイスクリーム・
シャーベット
スナック菓子
1 金沢市 6,543 金沢市 10,301 金沢市 6,941
2 山口市 5,853 富山市 9,593 鳥取市 6,643
3 宇都宮市 5,797 宇都宮市 9,394 高知市 5,807
4 山形市 5,697 川崎市 9,381 高松市 5,607
5 富山市 5,634 福井市 9,037 山口市 5,604
  全国平均 4,835 全国平均 7,904 全国平均 4,221

和菓子の他に,チョコとアイスが首位なのは,すでに気付いたメディアの記事も多く,各所で伝わりつつあります。

加えてケーキも,2007から6年ぶりに2013年に首位に返り咲き,現在2年目。甘いもの何でもありの街,金沢です。

洋菓子には変動があるが,和菓子の首位は15年以上不動

参考までに,ネット上で統計が見られる2000年からの推移をまとめると,以下のようです。

  • その他の和生菓子は,2000年から2014年まで15年連続1位
  • 洋菓子も含めた菓子類総額は,2000,02~07,09,11~14年に1位
  • アイスクリーム・シャーベットは,2003,04,06,08,11,12,14年に1位
  • チョコレートは,2002,08,09,11,12,14年に1位
  • スナック菓子は,2004,11,12,14年に1位
  • ケーキは,2003,07年,13年,14年に1位

菓子類総額では,ときに首位から転落しつつも,翌年には復活してきた底堅い動きです。

和生菓子の首位がいつからなのかは,ネットにデータのない年の,紙の報告書を遡らないとわかりません。そのうち調べて追記します。

でもこの記録,金沢市はとくに広報しません

15年以上連続首位の和生菓子は,現在全国平均の約1.7倍で,2位に16%の差を付けています。当分首位はキープするでしょうから,たまに入れ替わる宇都宮や浜松の餃子くらいには,広報してもよさそうなものです。

しかし,長年1位である記録を,金沢市は観光の材料にしていません。その証拠に,いつから首位なのか,ネットで調べても,書いてあるページが今のところありません。それで,この記事を書いているようなもの。理由はよくわかりません。

気付いていないだけかもしれませんし,ふつうのことと思っているのかもしれません。また,和菓子では,歴史でも技術でも頂点である京都と比べられてしまうこともあるでしょう。

現在の金沢の和菓子店は,後の写真の商品のように,老舗でも乳製品やチョコレートの利用など和洋折衷に抵抗がありません。古典的な羊羹,饅頭,最中はもう少数派で,創作菓子が毎年出てくるところが,金沢で和菓子が今も売れ続ける理由かもしれません。

外様大名ゆえの茶道の奨励と戦前創業の店が複数残った幸運

和菓子文化の発端は,外様大名の城下町だったことです。それで,藩の資金を,戦力でなく文化・芸術に投じたこと,そこで茶道を奨励したので,それに見合う主菓子が必要だったことなどでしょう。武家屋敷にも茶室と庭があるのが,その証拠です。

さらに,太平洋戦争の空襲をまったく受けなかったので,戦前に創業していた和菓子店が,戦後も相当程度,営業を継続できたことが幸いしています。

有力な和菓子店の創業は,森八諸江屋坂尾甘露堂が江戸時代,村上が明治,小出越山甘清堂高砂屋高木屋が大正,中田屋うら田も昭和ですが戦前です。このあたりまで,各店の代名詞となる定番の品があって,金沢駅のあんとに店があります。

森八

今も続く和菓子店では,創業がもっとも古いといえ,江戸時代の加賀藩御用の記録があります。直営店で上生菓子を常備するのも老舗筆頭の誇り。一例として芝桜。

金沢・森八の上生菓子の一つ・芝桜

伝統の製法のまま,求肥で米飴入りの餡を包む餅菓子,千歳。

金沢・森八の千歳

姫路の玉椿や彦根の埋れ木など,西日本の城下町に多い餅菓子系ですが,その中でも,米飴を重用したことに特徴ある,こくとまったり感のある餡です。

小出

老舗の中では後発ながら,生姜せんべい・柴舟を看板に,新工場で森八と並び立つ規模へ。下は蒸しカステラと餡の合わせ,山野草。私の職場へのおみやげで,もっとも回数が多いもの。

金沢・小出の山野草(さんやそう)

しっとりした餡と蒸しカステラが口の中で混ざりあうお菓子は,大都市圏の大手にもない創作の成果。日持ちするのに上生菓子に及ぶしっとり感は,茶道の主菓子の買い置きとしても使えます。

意外と他にないものは,マロングラッセの和菓子版といえる栗法師。一粒の栗を極薄の羊羹で包んだ和三盆がけで,小豆の成分を変えた細やかな色違いです。

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栗羊羹の栗の周囲数ミリまでを抜き出したようなお菓子で,大粒の栗羊羹を求める人なら,こちらの方がいけるでしょう。自家製餡の基本がある和菓子店が,創作菓子も手掛けるとおいしいという見本です。

うら田

こちらも老舗では後発ながら,創作がどんどん出てくるお店。下は,つくね芋入り蒸しカステラで栗を挟んだ栗天真。最近はこちらをおみやげにすることも多くなりました。

金沢・うら田の栗天真

しっとり感とつくね芋由来のもっちり感のバランスが絶妙。スポンジに繊維質の入らない洋菓子では不可能な食感です。それでいて重くなく,コーヒー・紅茶などにも合うでしょう。

和洋折衷も意欲的で,抹茶クリームと餡を挟んだ和風シュー。これは和菓子なのか洋菓子なのか(笑)。

金沢・うら田の和風シュー(抹茶と粒あんを挟んだ和風のシュークリーム)

和菓子日本一の街の根拠となる家計調査では,回答者である各世帯の認識によります。これは金沢駅にはないので,おみやげにできにくいです。

金沢駅でも,選びがいのある約30軒の和菓子店

それを反映して,金沢百番街・あんとに売場をもつ和菓子店は,上の老舗を含んで地元のものだけで31店舗です。人口46万の地方都市としては他にない集積で,大都市のデパ地下1つよりも和菓子店の数は多いのは事実。上の写真のように,古典的な羊羹,饅頭,最中を想像されると,それがむしろ少数であることがわかります。味を想像しながら,選びがいのある品揃えです。

検索でヒットする金沢の和菓子まとめサイトには,上の老舗が落ちていたり,広告が最近多いものに偏る傾向があります。老舗の定番はいまさら広告を打たないので,そういう情報だけでまとめをつくるのは無理です。いくつかのまとめサイトには,もっとおいしいものがあると思っていたところで,中身を説明した和菓子のリストをつくるのが,遠大な目標です。

また,和菓子に対する好みは,差(甘い・甘くない,しっとり・ふわふわ,もっちり,とろとろ,かりかり,など)が激しいため,好みを聞かずに人にすすめるのは難しいです。今のところ,店頭や,各和菓子店のウェブサイトの情報をたよりに,時間をとってでも,自分や贈り先の好みに合う和菓子を探してもらうのがおすすめです。